Veterinarian's interview

インタビュー

獣医師に同じ治療なんて無いんです。常に新しいことの発見で、毎日が感動の連続です。 獣医師に同じ治療なんて無いんです。常に新しいことの発見で、毎日が感動の連続です。

獣医師に同じ治療なんて無いんです。常に新しいことの発見で、毎日が感動の連続です。

亀戸動物総合病院

山田 武喜院長

東京都 墨田区

亀戸動物総合病院

山田 武喜院長

亀戸駅から明治通りを北上し、福神橋を渡ったところ、下町情緒が色濃く伺える住宅街の一角に、この地で30年近くも、近隣の動物たち、ペットオーナーたちに愛されてきた動物病院がある。亀戸動物総合病院の大黒柱として、長らくこの土地の動物医療を支え続けてきた山田先生にお話を伺った。

contents 目 次

獣医師になったきっかけ

私が育ったのは千葉の奥地で、それこそ周りに民家が全く無いような場所だったんですね。父親が動物好きで犬の訓練士をやってたんですよ。遊ぶ場所も無いものだから、そうなると自然が遊び場なんですね。

鳩、鶏、犬、山羊等、色々な動物を飼っていて、鶏に卵を産ませたりなんかもしてましたね。獣医師になったきっかけというか、幼い頃から常に動物と接する環境があったというのは大きいと思いますね。

今でも覚えているのが、ある時ひよこを買った友人がいたのですが、そのひよこが具合を悪くしたということで僕が一生懸命看病してなんとか治したんですよ。その時「治療して治す」という感覚というか、嬉しさを知ったんですね。今にして思えば、その時のことがそもそものきっかけかも知れないですね。元から本当に動物を飼うのは好きだったんですよ。

昔は獣医師という仕事をそもそもよく知らなかった、というより、良い仕事というイメージを持っていなかったんですね。高校生になって一生の仕事を考えないといけないという時になって、父が「獣医という仕事はこれから良くなるんだぞ」と助言をしてくれた。

当時、国内では獣医師という職業は数も少なく珍しい職業で、小さな診療所で診察台一つ、注射器一本でやるような医療で、決して高度なものではなかったんですね。しかし、アメリカでは獣医学の研究も進み、獣医師という職の地位も高まっていたから、日本も今後恐らくそうなるだろうと。

その時の父のアドバイスはとても大きかったですね。今にして思えば、父はそういう先見の明はありましたね。現在の獣医療はMRIなど高度な医療機器も次々出てくるし、それにより治療の幅も昔とは比べ物にならないくらい広がっていますから。

開業して大変だったこと

うーん、なんだろうな…。まあ、開業当初は治療はもちろん、病院の運営は全て自分一人でやっていましたからね。今はこうして沢山の頼りになるスタッフに支えられているので。

獣医師というのは診療だけやっていれば良いというわけではなくて、院長として病院を運営していくためには、経営する力も必要になってきます。当然、治療自体は動物に対して行いますが、最終的には飼い主さま、つまり人対人の仕事なんですよね。

治療を行う時に、飼い主さまに納得してもらえるような話ができないといけない。なので、治療のための知識や技術だけでなく、人とのコミュニケーションなんかも疎かにしてはいけないと考えています。

苦労した話

苦労した話か~…。そうそう、昔は帝王切開がものすごく多かったんですね。というのも、昔は夜間の医療センターは無かったし、ブリーダーさんの患者さんがいたんですね。

スタッフは自分しかいないし、生まれたらその子の世話をしないといけないから、家内にユニフォームを着せて手伝ってもらったりなんかしてね。呼吸が止まってたら呼吸させないといけないし。

今は夜間病院があるし、昔は沢山いたブリーダーさんが今ではほとんどいなくなっちゃったからね。何人か残っているブリーダーさんも、生まれそうなワンちゃんは昼間のうちに帝王切開に来ちゃうんですよね。夜に緊急で来るようなことは今ではほとんど無いですね。若いうちはそれでもやれましたけど今はもうできないですね(笑)。

先ほども言いましたけど、昔は夜間病院が無かったから、もう診るしかないんですよね。帝王切開自体、ちょっとしたコツがあって誰でも簡単に出来るというものではない。ブリーダーさんのワンちゃんとなると、何回も帝王切開をするものですから、それなりのしっかりした処置をしてあげないと次が産めなくなってしまう。ちょっとした技術は必要ですね。

初めての執刀

僕たちが学生の頃は生体を使っての執刀の実習があったんですね、やっぱり最初は手が震えましたよ。外人さんが箸を使おうというのと同じようなもので、知識として頭で理解している治療でも、最初はまともに執刀できない。当然今は身体の一部のようにメスを扱えますけどね(笑)。

ただ、今では新しい機器がどんどん出てきて、それぞれものすごく便利なものですから、手術は本当に楽になったと思いますね。昔だと30分、長ければ一時間かかっていたような手術でも、最新機器を使えば安全に確実に、短い時間で治療を行えます。

感動したこと

う~ん…。これってことが何かあったわけでなく、毎日が感動なんですよね。治療を行わなかったら一生障害が残っていた子が、治療を行うことでもうその日のうちに元気に歩いて帰るんですよ。やっぱりこれが一番嬉しいし、そういう意味で毎日感動があると思いますね。

同じ病気はあっても、獣医師に同じ仕事なんて無いんです。例えば癌が見つかった時に、その患部がどこなのか、どれくらいの大きさの腫瘍なのか、また、患者が子犬なのか老犬なのか、体重はどれくらいか、大人しい犬もいれば嫌がって噛みつく犬もいる、全部違うわけですから、本当に毎回新しいことなので、仕事として飽きない。飽きることが無い。実は獣医は動物に関することならあらゆる種類の症状をケアするんですね。人間のお医者さまと違うところはここですよね。

毎日毎日が、新しいことの発見であり、感動の連続ですね。 治療の末、しっかり病気を治して、飼い主さまと感動を分かち合えることが、一番の原動力です。

新人時代の経験からの教訓

常に心がけているのは、患者さまとは同じ平面上の対等な立場で接すると言うことです。ふんぞり返って上からものを言うなんてもっての他だし、かと言って変に下手にでるようなものでもない、良い治療には獣医師と飼い主と動物が力を合わせることが不可欠で、どこが欠けても良い治療はできないと考えていますので、飼い主さまとも動物とも良い関係を作れるように心がけています。

飼い主さまのペットは、私たちも自分のペットのように大切にします。だから、例えば病院は常に清潔にしています。自分のペットを汚いところに預けたくないと思うからです。清潔な環境で気持ち良く治療を受けてもらえるようにしているのは「もし自分の犬だったら…」ということを常に意識しているからです。獣医師という仕事は、商売目線ではなく自分の飼っている動物を治療するという目線が必要だと思います。

また、現在では、人間の医者の裁判と獣医の裁判は同じ裁判官が行うようになったりと、獣医療の立ち位置が昔とはずいぶん変わりました。そういう意味もあり、飼い主さまとのコミュニケーションは今まで以上に重要だと感じていますね。どんなに小さなことでも、治療を行う時は飼い主さまに納得していただけるようしっかりと治療の説明をして、処置にあたります。

病院の運営に対して

先ほど「飼い主さまと動物たちと同じ目線で」とお話しましたが、この考え方は、病院の運営にもそのまま同じことが言えます。スタッフに対しては常に同じ目線で話をしますし、上から偉そうなことは決して言いません。スタッフも家族のような感覚ですよね。一人ひとりがバラバラに作業をするのではなく、全員で一つのチームという考え方です。

当院には診察室はいくつかありますが、処置をする場所というのは一箇所しかないんです。もちろん、効率的には複数設けた方が良いのですが、それだと作業の共有ができない。治療場所を一箇所にすることで、みんなが目を通し、治療を共有できるんですね。

入れ替わり立ち替わり、順番待ちしながら一つの処置室で治療をしていますよ。なんといっても人間ですから、一人だとどうしても間違いが起きてしまう。誤診というものがどうしても出てくるんですね。だけど、みんなが目を通す環境で間違いが起きれば、それを誰かが指摘できます。周りで見ている人が反応してくれるんですね。

その環境があるから、間違いというのは非常に起きにくくなります。困ったことがあれば誰かにすぐ相談できる環境や、難題を一人で背負い込まなくても良いという環境はとても大切で、それがチーム医療の最大の利点ですね。チーム間のコミュニケーションが取れているので、当院のスタッフはプライベートでも仲が良いんですよ(笑)。みんなで旅行になんか行ったりしてね。「同じ釜の飯を食った仲」なんて言葉があるけど、本当にそれは大切だと思いますね。

人というのは不思議なもので、一緒にご飯を食べたら心が通じ合っちゃう所あるんですよね。そうすることで本音も出てきますしね。院長があまり偉そうにしてるとそういう関係も築けないように感じます。

当院は今年で開業28年目になりますが、歴代のスタッフの「こうしたほうがいい」「ああしたほうがいい」といった意見を取り入れていって、今の病院があります。病院のために、動物のために、スタッフが気兼ねなく意見を言い合える環境は非常に大切だと考えています。

この地域に関して、病院の患者さまに対して

父方の実家が亀戸にあるもので、ここ亀戸には中学の頃から住んでいますのでやはり愛着があります。下町ならではの情緒というか、そういう雰囲気は今も昔も変わらずありますね。当院は開業以来ずっとこの土地で診療を続けてきました。

どちらが良いという話ではなくて、例えば山の手のあたりとこの辺り(亀戸)では客層も全く違うと感じます。この地域の患者さまですと「先生にお任せしますよ」といった患者さまが多いですね(笑)。良い関係を築きやすい環境と言えると思います。そういった患者さまにももちろん治療の説明は細かくしっかりと行いますが、大体のことは我々に任せていただけることが多いですね。

患者さまに対しては、病気になってから病院に来る方が多いですが、やはり健康な時にこそ病院に来ておくのが大切です。というのが、先ほども申し上げたように飼い主さまとある程度の人間関係が出来ていた方が、治療を行いやすいということがあります。また、飼い主さまにとっても、獣医師とある程度心が通じている状態のほうが安心できると思います。

さらに、動物には同じ品種でも大きい子もいれば小さい子もいるし性格も全く違って、正常値というものがあって無いようなものなんですね。人間だと大体の目安はあるけれど、動物だとその目安の幅がものすごく広い。その子の正常値のデータを病院が把握していないと、具合が悪くなった時にどこが悪いのか判断できないんですね。

普段から病院に来て、ワクチンやフィラリア等の予防だけでなく、健康診断を受けて欲しい。「病気じゃないからしない」のではなく、「病気になった時のためにする」という意識を持ってもらいたいですね。

その子の正常値を残しておければ、病気になった時にそのデータはとても大切なものになります。よく来る子なんかは具合が悪ければ見たらすぐわかりますよ。室内飼いの猫ちゃん等、普段外に出す機会の少ない子なんかだと、ほぼ無菌状態で生活しているために抵抗力が弱いケースが多いので、年に一回でも二回でも病院に連れてくることをお勧めしますよ。

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