Veterinarian's interview

インタビュー

ご家族の愛情が動物に注がれているということを考えると、それが我々獣医師の一番の活力になりますよ ご家族の愛情が動物に注がれているということを考えると、それが我々獣医師の一番の活力になりますよ

ご家族の愛情が動物に注がれているということを考えると、それが我々獣医師の一番の活力になりますよ

戸田動物病院

藤井 忠之院長

埼玉県 戸田市

戸田動物病院

藤井 忠之院長

戸田動物病院は埼玉県戸田市の一角、住宅街の真ん中に佇み、長い間この地域の獣医療を支えてきた。院長の藤井忠之先生は、先代院長からこの病院を引継ぎ、日々の診療に明け暮れている。この地域の時代の移り変わりを見つめながら数々の症例を診療してきた藤井先生にお話を伺った。

contents 目 次

獣医師を志したきっかけ

子供の頃から動物は大好きでしたが、獣医師を目指すきっかけのようなものは特に無かったかもしれませんね。子供の頃、実家では鶏を飼育していて、その鶏が産んだ卵を食べていましたね。今思い出してみると、動物だけでなくて生き物全般に興味がありました。昆虫なども好きでしたね。

臨床の獣医師になりたいと思ったのは獣医大学に入ってからです。先に興味があったのは医療そのもので、職業として選択肢を幾つか絞り込んでいくと、その中に獣医師もあった、という具合でしたね。珍しいと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、獣医大学の在学中に試験を受け直して、人のお医者さんになる人も少なからずいましたよ。

獣医師になる上で大変だったこと

学校の研修室では色々な研修をこなしましたが、皆さんにあまり馴染みのないかもしれないところで言ったら、魚病といって文字通り魚の病気ですね。当院では魚は見てないですけど(笑)。

私が所属していたのは臨床系の研究室だったのですが、大変だったのは知識的な面よりは体力的なところですね。例えば牛や馬のようなかなり体重がある動物や、私よりも身体が数倍も大きい動物を診察するような時はやはり体力が必要です。後は、研究や実験などの作業で眠る時間が無いということでしょうかね。

その時代時代で苦労は色々あると思いますが、当時は今のようにコンピューターがあるわけではありません。検査の機械なども、一つの数値を測定するのに時間が結構かかったりしていました。例えばエコー一つとっても性能は今のものとは雲泥の差がありましたし。

近年の医療機器の普及と診察の変化について

機材に対するハードルは間違いなく下がっているように感じますね。もしかしたらCTやMRIのような高度な機械で検査をすれば、ほとんどのことがわかるんだと思っている人が多くなっているのかもしれないですね。結局、データを見て動物を診ていない方が増えてしまっているように感じます。基本は動物を「診る」ということが基本だと思うんです。

飼い主さまのお話だけ聞いて終わってしまう先生もいるし、データだけ見て終わってしまう先生もいますが、やはり動物に触れてちゃんと身体検査をすることが基本だと思いますね。

医療機器が以前より身近になって、当然それを有効に活かしている方のほうが多いとは思いますが、機械に頼りすぎてしまって「機械がこういっているんだからこの子はこうなんだ」と決めてしまう、つまり動物の検査の仕方が機械寄りになってしまう。もしかしたらそういった方が増えてきてしまっているのかも知れないですね。

今までの治療で印象に残っている出来事

全てと言うと語弊がありますが、印象に残っている子はたくさんいます。先ほどの治療機材の話にも繋がりますが医療技術が発展してくると、病気がはっきりとわかりづらい、わからないというような子に関して、何年か経った後で「あの時の子はこの病気だったのかな?」とわかったりすることもある。それで解決する子もいるけど、やっぱり解決できずに亡くなってしまった子は印象深く残っていますね。あの時にこの機械があったら…、あの時にこの薬があったら…、そういう風に思うことはあります。

もしそれと同じように、自分の勉強不足が原因で問題を解決できなかった場合、非常に自分に残念な気持ちになってしまいます。それは本当に嫌ですから、今でも治療に対する情報収集は欠かしません。いわゆる生涯学習というか、一生勉強ですよね。学会の発表などもまさにそうで、皆で情報を共有するわけです。

「こういう病気を診たんですが皆さん知っていましたか。こういう治療を行うとこういう状態になりました。」といったことを発表するわけですね。勉強したい人はたくさんいらっしゃいますし、学会などには若い方もたくさんいらっしゃいますよ。

あと、印象に残っていると言いますか、少し驚いたことはありましたね。ある日の診察中にやけに待合室で赤ちゃんが泣いてるなと思っていて、診察が済んでドアを開けると待合室に山羊がいたことがありましたね(笑)。

どうやら、昔この地域にあったペットショップが入っているデパートで買ってきたらしく、話を聞いてみると、その山羊は小さい時から干草でなくて濃厚飼料という人工のフードを食べていたようなんです。しかし山羊は草食獣ですから、草を食べないと胃が発達しないので、胃の動きが悪くなっていってしまうんです。そのため、胃停滞を起こしていて、サラダオイルを飲ませて治療をしましたね。

獣医師として思うこと

治療した子たちは皆それぞれ思い出深いのですが、共通して言えるのは、動物一頭一頭がそれぞれ、ご家族の愛をたくさん受けて暮らしてきたんだということがよく分かるということです。

実際には治療にも限界があり、いずれ残念な結果になってしまうこともありますが、ご家族の愛情が動物に注がれているということを考えると、それが我々獣医師の活力になりますよね。自分が診ているその動物の後ろには、その子を可愛がっている何人もの人がいるわけですから。

ペットのあり方の変化

昔は、もう動物がぐったりした状態になってから連れて来る、という病院の利用の仕方が多かったんです。しかし最近ですと文字通り動物が家族の一員だという気持ちが飼い主の皆さまの中に強くあり、少し具合が悪くなると病院に連れてきていただけますし、定期的に健康診断を受けて行かれる方もいらっしゃいます。そうすることで事前に病気が分かれば、生活の中に病気の苦しさを持ち込まずに過ごすことができると思います。

放っておけば病気はどんどん進行してしまいますし、そうなると結局治療も大掛かりなものになってしまう可能性があります。だからこそ、健康診断は大事ですね。動物の場合は病気の症状が出てからだと手遅れになっている、病気が非常に重篤になっている可能性が多いですから、病気を早期発見することで、例えば食事で病気の進行を遅らせたり、最低限の投薬で病気の発症を遅らせることができます。健康診断を受けるにあたっての大きなメリットの一つですよね。

もちろん、何も病気が無く健康だということならそれが一番ですし、毎年のデータの積み重ねをすることも大切です。例えばある数値が参考基準値に収まっているからそれで良いというわけでなくて、その参考基準値の中でも上昇傾向にあるとか、そういったことが発見できると、それに関して注意しておくことができます。そういう意味では毎年と言わずとも、定期的に健康診断を受けるのは必要ですよね。

この地域について思うこと

この病院は先代院長の時からありまして、かなり長い間この地域に根ざして診療をしてきました。この辺は昔は工場が多くあって、工場で飼っているワンちゃんやネコちゃんの患者さんもいましたよ。次第に工場の数は減っていって、だんだん家庭で飼われている動物が増えていきました。こういう風に考えるとこれも時代の流れですよね(笑)。

地域性はあるのかもしれないけど、実際、動物を大切にする気持ちは日本全国どこに行っても同じですので、第一はその気持ちを大切にすることですよね。地域についての質問の答えではありませんけど(笑)。
地域のための活動として、学校で飼育されている動物の健康診断をやっています。小学校の高学年の子供たちとコミュニケーションを取りながら行っていますよ。

また、狂犬病の予防接種の実施や、中学生の職業体験の受け入れもやっています。職業体験には動物に関わる仕事をしたいという希望を持っている子供たちが来ますので、そういう希望を持った子供の夢を叶える手助けができれば良いと思っています。

この地域に、動物と家族を大切にする動物病院が出来て、地域の人が動物との幸せな暮らしを続けられるよう活動してくれたら嬉しいと思いますね。

飼い主さまへのメッセージ

堅苦しい言い方になりますが、当院では人と動物の絆を大切にする医療を常に心掛けています。お互いに色々と話し合い、動物にとって何が一番良いのか考えていきたいと思っています。色々な病気がありますし、人それぞれ動物に関わる事情や、考え方があると思いますが、私は動物の様子や状態を的確に説明し、それに対してどういった対応を行えばいいかご家族の方とよく話し合い、その動物が幸せに暮らせる治療を考えていきます。

また同じ病気でも悩んでいるところはそれぞれである場合もありますし、病気一つ一つを丁寧に治療していきたいと思っています。

今後も、些細なことを気軽に相談できる、身近な動物病院を目指していきます。

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