Veterinarian's interview

インタビュー

飼い主さまが持っている治療の選択肢の幅を狭めるようなことはしたくないと考えています 飼い主さまが持っている治療の選択肢の幅を狭めるようなことはしたくないと考えています

飼い主さまが持っている治療の選択肢の幅を狭めるようなことはしたくないと考えています

大矢動物病院

大矢 智隆院長

東京都 狛江市

大矢動物病院

大矢 智隆院長

近くには多摩川が流れる東京の西の端、狛江市東和泉に居を構える大矢動物病院。今年13年目を数えるこの病院の待合室で、院長の大矢智隆先生にお話を伺った。優しく温和な大矢先生が考える動物医療とは。

contents 目 次

獣医を志したきっかけ

珍しいと思われるかもわかりませんが、私は小学校の時は犬も猫も苦手だったんですよ(笑)。というのが、子供の頃に犬に追いかけられたことがあり、親戚のおばさんの家に日本スピッツという小型犬がいたんですが、この子は私を見つけると必ず咬みに来たのですよね(笑)。それはそれは怖かったですよ。なので、「犬は必ず人に咬みつく生き物」だと思い込んでいました。

きっかけというのかわかりませんが、テレビに「ムツゴロウさん」が出演しているのを見て、「動物を治す仕事がある」ということを知ったんですよね。ただ、目指しはしましたが大学に受からなくて、一度は諦めてしまいました。その後、工業大学に進学したのですが、どうしても諦めきれず、もう一度挑戦してみたんです。

結果的に獣医療を学べるようになりましたが、動物の世話というものは、文字通り命を預かっていることになります。その子たちを生かすも殺すも私達お世話をする人間の気持ち次第になってしまう。動物を飼っている方ならそれは当たり前なんですが、そのことを改めて感じましたね。

どこでもそうと言うわけではありませんが、私が入った研究室ではかなり自由に勉強をやらせていただきましたね。その時の先生には今でもお世話になっています。機械だけに頼らず、自分で動物の身体を見て、触って、嗅いでみるという、五感を使った診療など、獣医師としての基礎の部分をきちんと学ぶことのできる場所だったと思っています。その時に学んだことが今でも自分の中の診療の土台になっているので、厳しいこともあるにはありましたが、自分を成長させることのできる楽しい場所でしたね。

そこで出会う仲間達はみんな結局「動物のお医者さんになりたい」という目標があるので、それに向かってどうしていくべきなのかというのを一生懸命に学んでいました。

獣医師として横の繋がりを持つことが患者さまのためになる

うちの病院ではCTに凄く力を入れているのですが、実は同じ研究室を出た仲間内でCTを買い、シェアしながらCTの研究をしていったんですよ。ですので、その研究室が無かったら今の当院のこういう特徴は無かったですね。

また、勉強会といって、最先端の治療であったり、先生方が実際に体験した症例を発表したりする場もあります。そういったデータの共有とその蓄積があると、次の治療、そのまた次の治療に活かせますからね。そういう集まりは私が獣医になった時からずっとありますし、そういう場は今どんどん分野が増えていますよね。

一つの分野に深く精通している専門医の方だとやはり物凄く詳しい方もいらっしゃいます。人間のお医者さまでもそうですが、学会等で医師同士の横の繋がりがあれば、そういう詳しい方を頼りにしていいと思うのですよね。わからない時は詳しい方を頼りにすればそれが患者さんのためにもなりますし、それは決して恥ずかしいことではないと考えています。僕は循環器と泌尿器に関しては、修行時代の先生を今でも頼りにしています。

飼い主さまの選択肢を狭めないための設備

当院ではCT、エコー、レーザー、内視鏡を導入しています。なぜそういったものを導入していったかというと、僕たちが駆け出しの頃は、そういった専門機器が必要な治療は、大学病院や高度医療センター等でやるものだったのですね。

ですが、いわゆる町医者と呼ばれるポジションにいても、そういった治療をある程度やれるんだ、というのを見せたかった。整形外科だけでなく、やはり内科の面での検査もここまでできるんだよと、そうすれば、専門医に行く前に、自分がどうするべきなのか選択できると思うんですよね。飼い主さまにその選択をしていただく際に、選択肢を狭めるようなことはしたくなかったんです。

飼い主さまの意思を尊重する

内視鏡と言うと、体内の異物を取り出す器具という認識の方も多いと思います。ですが、例えば内視鏡で消化管内の腫瘍の一部を取り細胞診をするとか、人間と同じような使い方が動物でもできます。ですが、そこまでの治療を望むかどうかは飼い主さま次第だと考えています。

獣医療の近代的な治療法に関しては、人間の医療に追いついていこうとする姿勢はいつでもありますよね。一昔前にできなかったことが今できるようになっているというのは多くあります。しかしその反面、繰り返しますがどんなに高度な治療ができるようになっても、そこまでやりたくない飼い主さまもいらっしゃいます。そのような飼い主さまの選択の幅を潰してはいけないと思うんですよね。

例えば、手術をするのはどうしても全身麻酔が必要になります。手術することに違和感を持つ人の理由には、全身麻酔をかける動物の年齢、費用等、要因は様々です。さっきの技術進歩の話にも繋がりますが、やはり麻酔一つとっても、技術の進歩により少ないリスクで行えます。しかし、リスクが無いわけではないですからね。例えば自分自身が全身麻酔をかけられて手術をしてもらうことになった場合、ちょっと怖いなと思うじゃないですか(笑)。

それと同じで飼い主さまの気持ちとしては、麻酔をかけるということ自体が不安要素の一つになり得るので、そういう場合は手術はしないと判断する方も実際いらっしゃいます。

現代の、愛玩動物としての動物の立ち居地とは

昔の番犬などと違い、今はもう文字通りペットは家族の一員ですよね。しかし、同じ「家族の一員」という言葉で括っていても、やはり思いは飼い主さまによってそれぞれ違うと思うんです。

ご家族によって、動物と飼い主の関係性はそれぞれだと思います。しかしこれはやはり難しい問題で、誰の言い分が正しいというようなものではありません。こう言うと誤解を招くかもしれませんが、その子が亡くなってしまった時に、今まで一緒に過ごせて良かったと思ってもらえる関係が一番だと考えています。

どうあれ、飼い主さまは自分の家族だと思っているから、動物病院に連れて来て、できることはやってあげたいと思うんです。その時に私達は、例えば設備が無いからという理由で治療の幅を狭めてしまうようなことはあってはならないと思っています。

心に残っている動物の話

修行時代に私が担当させてもらっていた子で、肺に水がたまってしまう病気の子がいました。お預かりしての医療ということでICUに入れて、普通は一度お預かりしたら飼い主さまはお帰りになられるんですが、その飼い主さまには、その子の傍にずっと付き添っていただいたんです。

結果を言えばその子は具合が悪くなってしまって亡くなってしまったんですが、普通は亡骸に会うことが多い中、その子は飼い主さまの腕の中で亡くなりました。悲しいことですが、飼い主さまからは、最後の瞬間を全部見せてくれてありがとうと言っていただきました。この言葉は今でも私の胸の中に残っています。

そういった意味も含めて、今は在宅治療も考えながらやっていこうかと思っています。飼い主さまと協力すれば、もっと色んなことができると思いますしね。その代わり、飼い主さまにも頑張って貰わないといけないんですけどね(笑)。私達獣医がお預かりして治療を全部行うのも良いのですが、私の中ではそれが全てだとは思っていないんです。

狛江という地域に関して

私は町田という地域の生まれなのですが、高校生の時にこちらに引っ越してきてからはずっと狛江に住んでいます。最初はどんな町なんだろうと思っていたんですが、実際に住んでみるとやはり魅力があり良かったですね。何しろ自然が多いのは良いことだと思います。子供がいると尚のことそう感じますし、犬を散歩させていても楽しいですよ。

当院は現在の場所で開業して今年(2015年)で13年になり、若い方から年配の方まで幅広い飼い主さまにご利用いただいています。当院をご利用されるのはこの地域の飼い主さまがほとんどなので、できれば質問等を気軽にしていただけるような間柄になっておきたいですね。そのために、健康診断等で年四回くらい顔を出して話や質問をしていただければ、飼い主さまにも正しい知識が身につきます。知り合うというのはそういうように、色んな話ができるということだと思っています。

健康診断は、行ったその時は健康でも一ヵ月後、二ヵ月後に健康とは限らないですよね。病気ではないという診断を受けて安心してしまって、次に来るのが一年後二年後ということでは不安が残ります。健康診断をするということ自体も大事ですが、たまに獣医師に動物を触ってもらうという感覚でいた方が良いのかもしれないですね。まあいわゆるかかりつけ医というやつです。

その点で言うと、私は季節ごとに診られれば良いと考えています。年に四回、特別大がかりな検査ではなく、動物の身体に触れられれば良いと思いますね。触れることでわかることも多くありますし、例えば体表の異変や、お腹の中の腫瘍、眼の色なんかでも変化を見つけることができます。口の中の臭いもそうですし、便を持って来てもらえれば、その臭いも健康状態を測る材料になります。データだけで診断する訳ではないので、こういった五感を使った診断は獣医の基本と言えますね。

また、顔を出してもらえればその際に飼い主の方とコミュニケーションを取ることができます。「何か変わったことは無いですか」といったお話ができれば、そこで気づくことも多くありますよ。

患者さまや、今後利用するかもしれない方々へのメッセージ

狛江の病院でもここまで検査ができるということを知っていただきたいですね。当院ではインフォームドコンセントを特に重要視して診療していますので、わからないことがあれば、とことんお話をしましょう。

一回説明して、一度考えてもらって、わからないことを質問していただければ、お互いに理解を深められると思っています。当院では先程お話した治療法以外にも、色々な治療ができるようにしていますので、迷った時はご相談に来てください。よくご相談して、納得のいく治療を一緒にできればと思っています。

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