Veterinarian's interview

インタビュー

私達は病気を治すこと以外にも、動物達が暮らしやすい環境を作っていく点も重要な仕事だと思っています 私達は病気を治すこと以外にも、動物達が暮らしやすい環境を作っていく点も重要な仕事だと思っています

私達は病気を治すこと以外にも、動物達が暮らしやすい環境を作っていく点も重要な仕事だと思っています

ノア動物病院

林 文明院長

ノア動物病院

林 文明院長

山梨県甲府市と東京都八王子市に合わせて四医院があるノア動物病院。山梨県では唯一、CT等の高度機器を備えた動物病院として地域の動物達の健康な暮らしを支えている。複数の病院と数多くのスタッフを纏め、自らも動物一頭一頭と向き合い診療を行う林先生にお話を伺った。

contents 目 次

山梨県甲府市と東京都八王子市に、合わせて四医院の展開を行っていることについて

初めに開業したのは今の「Hako bu neco 猫専門病院」の場所だったのですが、当時から複数の医院を開くことは視野に入れていました。私は東京都の出身で、開業にあたりこちらに移りましたが、開業当初はそこまで高度な治療を行うわけでなくても、ある一定のレベルを保って複数の病院を展開していく構想でした。

ただ、病院の数を増やしていく中で、どうしても管理しきれない部分であったり、治療のレベルについてもその場所を任せた人の技量やモチベーションに依存してしまう部分がありますので、今以上に病院の数を増やすことは考えていないですね。

期せずして、城東センター病院ではCTを導入するなど、かなり広い範囲での検査・治療を行えるようになりましたので、今後はそこを核としてよりしっかりと診療を行っていくつもりです。

それぞれの病院をつくるにあたっての意識した点

先程話に出た「Hako bu neco 猫専門病院」などは猫ちゃんの飼い主の皆さまからは特に好評をいただいています。猫ちゃんに合わせて内装も和のテイストを意識して、畳を敷いたり竹を植えてみたりと工夫しました。他の病院とは少し変わった造りですが、行っていることは病院としての治療そのものです。ただ、来院した患者さまにとっては病院の雰囲気というのは大切だと思いますので、診察を待つ時間をゆっくり過ごして貰えたらと思います。こちらの病院はISFMという海外の任意団体に申請を行い、キャットフレンドリークリニックの認定を受けております。

「城東センター病院」については、リニューアルした頃に私がアメリカで幾つかの病院を見てきたのですが、そのアメリカのスタイルで診察ができるよう意識しましたね。城東センター病院では、診察室では基本的には飼い主さまとお話しするだけで、注射、採血などは奥の処置室で行います。処置室を有効に使うことを意識しており、同時に五か所で治療を行えます。中央に処置室があり、そこからどこの部屋にも行けるような作りですね。ここ(八王子病院)はそれをそのまま少しコンパクトにした造りで、コンセプトは一緒ですね。 「敷島病院」は、オーソドックスな動物病院です。それぞれ特徴があり、診察のスタイルを変えていますね。

また、病院ではないですが八王子と山梨に一件ずつ猫カフェを展開しています。殺処分対象の猫ちゃんがセンターに送られる前に、愛護団体の方が救って来られるのですが、子猫は貰い手がいても、成猫だとやはり引き取りってくれる方を探すのが難しいようで…。うちにいるのはそういった経緯で来た猫ちゃん達ですね。

城東センター病院の設備の充実について

開業以前に勤めていた病院がトリミングサロンも併設していたのですが、病院であれど、治療以外の面でも飼い主さんと動物達に満足してもらえるような、トータルケアの必要性は実感しておりました。理想としてはこの病院だけで何でもできるようにすることです。

しつけ、リハビリも行っておりますし。食事管理や排せつのケアを含めた、介護というか終末治療についてもそうですね。ウォータートレットミルといった水の中を歩くリハビリ設備など、幾らか面積が無いと用意できないような設備も備えております。それもあってか、ありがたいことに長野の方や河口湖の方から足を運んでいただいている患者さまもいらっしゃいます。

特に力を入れている分野について

当院では昔から腫瘍には力を入れて診察を行っています。今では多くの病院で抗がん剤などの処方を行って貰えると思いますが、そういった抗がん剤についても様々な種類を揃えています。私はアメリカに渡ったのも腫瘍科の勉強のためでしたので、そこで積んだ経験を病院に持ち帰った形ですね。1990年代の後半で、当時の国内には腫瘍科についての詳細な学術書もなかった頃なので、そういう意味では早い段階で勉強して飼い主さまに還元できたと思っています。

長いキャリアの中で印象に残っている子はいますか

山梨で診察を始めた頃、今から30年近く前ですが、今でこそ予防でほぼ防げるフィラリアという病気は、当時よく診察するような病気だったんです。月に何件も、予防でなくフィラリアに罹ったワンちゃんが診察に訪れていました。

その中で、ある親子がフィラリアにかかったワンちゃんを連れて来院されたのですが、その子は緊急で手術しなければいけないような症状でした。当時はワンちゃんに対する意識の低さ等もあり、色々な事情で手術はやらないという選択をなさったのですが、もうお子さんが号泣してしまって…。

フィラリア予防がそこまで普及していない時代ではありましたが、そういった状況を作ってしまったのは私たち獣医師の責任でもあるということを強く感じました。

結局フィラリアという病気を今では殆ど見なくなったのは、予防をすることが当たり前になり、その病気と関わらなくなることが当たり前になった訳ですよね。昔は毎日飲まなければいけなかった予防のお薬が今では年一回の注射でOKという、お薬の進歩も理由ですが、私だけではなく、当時から色々な先生が予防を啓蒙して今の状態があるように思います。私達は病気を治すこと以外にも、そういった社会性というか、風潮を作っていくという点も重要な仕事だと思っています。飼い主さんの意識を高めていくというか。動物が安心して暮らせる環境を作るという点ですね。

ワンちゃんの飼育の仕方に対する意識の変化を実感したタイミングについて

14、5年くらい前でしょうか。私がアメリカに渡った頃ですが、腫瘍疾患で来院する患者様の比率が多くなってきたのです。なぜ腫瘍疾患の子が増えるかというと、それは長生きの子が増えたからで、なぜ長生きの子が増えるかというと、日々それなりのケアをしているからなのです。予防もそうですが、食事しかり、その他様々なことでのケアです。犬猫の平均寿命はどんどん伸びていて、今ではワンちゃんで平均15歳と言われています。人も同様ですが、これはまだまだ伸びていくかもしれないですね。

四つの病院を纏める上で院長として心がけていること

スタッフ達に対して、比較的自由にやって貰いたいとは考えています。基本は大切ですが、逆に型にはまっていても良い治療はできないように思いますので。私が大枠を作っておいて、あとは自由に動いて貰っています。病院は四つありますが、それぞれの場所に院長は立てていないのです。そういった統括は私が行い、治療の現場には腕の良いスタッフに前面に立って貰っているのが現在の方針ですね。技術的に信頼できるスタッフは多いですし、専門医と言われる方を招聘して治療を行ってもいます。専門的なものはそういった先生たちに任せるようにしています。

院長としてというか、いち獣医師としては、飼い主さまの要望というか、どうして欲しいかということをしっかりと把握して治療を行う事です。飼い主の皆さまには様々な事情がありますので、「こういう病気だからこういう治療をしなければいけない」という考えではなく、そういった事情も汲んで、希望に沿うような処置を行うように心がけています。

今後のノア動物病院の展望について

色々な試行錯誤した結果、今以上に病院の数を増やすつもりはありませんし、これからは一つ一つの病院の中でスタッフの教育をしっかりと行い、飼い主の皆さまの満足度をもっと上げていけたらと考えています。ホスピタリティの向上ですね。来院された方に「この病院を選んで良かった」と思っていただけるようにしていきたいです。環境的にも、八王子病院と城東病院はこれからの高齢化社会に向けて、それに対応した造りにしていければと思っています。

私たちも飼い主さまに対して色々な知識をつけてもらって、獣医師と飼い主さまと動物達と、三位一体となって快適な長生きを目指していきたいと思っています。