Veterinarian's interview

インタビュー

この病院が飼い主さまにとってよりポピュラーな存在として、不安を解決できる身近な場所でありたい この病院が飼い主さまにとってよりポピュラーな存在として、不安を解決できる身近な場所でありたい

この病院が飼い主さまにとってよりポピュラーな存在として、不安を解決できる身近な場所でありたい

ハート動物病院

伊藤 卓巳院長

ハート動物病院

伊藤 卓巳院長

神奈川県相模原市のとある動物病院のテラスに、少し変わったモニュメント、通称「風見犬」がある。「来院される皆さまに当院のシンボルとして親しまれています」と、嬉しそうに眼を細める伊藤先生は、ハート動物病院・どうぶつ眼科センターの院長を務め、自身も国内で有数の動物眼科医として日々腕を振るっている。
奇しくも、取材に伺った5月15日は伊藤先生の獣医師としてのキャリア、その25周年の節目の日。日常的な例え話や映像を交えることで、難解な症状もわかりやすく説明を行う伊藤先生流のお話は、一段と内容が濃く、刺激的なものであった。

contents 目 次

本日はよろしくお願いいたします。こちらは同じ建物の中に二つの病院があるような形ですが、それぞれのコンセプトや特徴についてお聞かせください。

当院は一階にハート動物病院、二階にどうぶつ眼科センターを構え、眼科や整形外科・腹腔鏡・再生医療などの範囲については特に深い範囲で治療が行えるよう備えています。しかし、その技術ありきではなく、あくまで飼い主さまありきの考えを持って治療にあたっています。日々進化・進歩する獣医療を、飼い主さまにどういう形で還元できるかということですね。

看板を分けているのは専門性をはっきり分けるためで、二階のどうぶつ眼科センターでは他院からの紹介をいただく症例も含め、より専門性の高い処置を行っています。

例えば「これ以降は高度な治療が必要」という線引きがあるのでしょうか?

専門性の高い治療となると、どうしても「二次診療」「高度医療」という言い回しになってしまいますが、どこからがその領域かというはっきりした線引きがあるわけではありません。

動物病院は飼い主の皆さまにとってもっとポピュラーな存在として日常的なケアを行っていける場所であるべきですし、何も高度な治療を求めている方ばかりではありません。

ケアの幅や深さをどこまで追求しても、私たち獣医師が力を発揮する目的は「飼い主さまのお困りごとを解決する」という点に尽きますので、気軽に来院できるような雰囲気を作ることや、応対の仕方、お話の仕方なども含めて、日頃の生活の中で抱くちょっとした不安や疑問を解決できる存在でありたいと思っています。

伊藤先生が特に専門的に行っておられる眼科診療について

実は飼い主さまの中には、動物眼科の存在を認識していない方も多くおられ、さらに眼の病気は一般的な身体検査をすり抜けやすい部分であり、病気の兆候があってもそれを見逃してしまいがちなのです。そういった背景もあり、当院では日常のフォローを疎かにしないよう、眼科に関してもチェック・検診と、飼い主さまへの知識の啓蒙を行っています。

HPでも写真を使ってご紹介している症例は多いですが、やはり視覚的にご説明することで、飼い主さまへの伝わり方は違いますし、そうして身に付けた正しい知識は病気の早期発見に役立つのではないかと思います。あらゆる分野の症状に対して言えることですが、日常の中で病気を見つけてあげられるようにすることが肝要で、特に眼科は悪化すると取り返しのつかなくなる場合も多いため、治療を大掛かりにすることなく解決できるようにしていきたいですね。

犬猫だけでなく、エキゾチックアニマルの眼科についてもカバーされていると伺っています。エキゾチックアニマル特有のポイントなどはありますか?

実は当院は元々、鳥、ハムスター、うさぎ、フェレットなどのエキゾチックアニマルを診察している病院で、今でも受け付けている動物は犬猫とエキゾチックで半分半分くらいなのです。エキゾチックはもちろん、言ってみればワンちゃんの中にも、犬種特異性と言ってそれぞれに特徴があり、例えば短頭種の子は鼻がしゃくれているため角膜が乾きやすい、鼻が長い子は眼も少し落ち込んでいる、そういった特徴があるんです。罹りやすい病気や個体の大きさが違う分、知識としては別の物が必要になりますね。

眼科となると、実際の処置の方法・内容は飼い主さまには想像もつかないのではないかと思います。

術前には、各病態、各動物、各治療方法について説明を行うための資料を用意していますのでそちらをお渡ししていますが、さらに、動物たちが今どういう状態にあり、今後どのような処置を行い、その結果どうなるのか、そういった部分の説明も画像や映像を用いて逐一説明しています。また、手術は全て飼い主さまの立ち合いのもとで行っています。ご家族の皆さまにおいでいただき、隣の部屋に設置したモニターを用いてリアルタイムで様子を見ていただくんです。

そこまで見ていただくことで生まれる信頼関係もあると思いますし、内容を飼い主さまに理解していただくことについてはとても重要視しています。眼科診療の中で日常的に使うツールはなかなか聞き慣れないものが多いかもしれませんが、わかりやすい例え話や、先述したように画像や映像を交えながら簡単にご理解いただけるようご説明しています。

飼い主さまが病状をしっかり認識できていれば、治療にも積極的に参加していただけそうですね。

そうですね。一つの病気に対して治療方法が複数ある場合、その病気に対してどういったアプローチをするかは飼い主さまとのご相談の上で決めていきます。手術で回復が望める場合も、様々な事情によりそこに踏み切れないこともありますので、点眼で炎症や進行を抑えるようご案内し、お家での暮らし方のアドバイスを行うなどして、病気との付き合い方をご提案させていただき、そのご家族に合う治療方法を探していきます。

動物眼科医として専門分野の治療をカバーしていると言っても、そこまでの治療に踏み切れない事情がある方を蔑ろにすることは絶対にありません。初めにお話ししたことですが、飼い主さまのお困りごとの解決に向けて、可能性のあるあらゆる手段を提示し、一緒に治療を行っています。

伊藤先生が眼科診療に興味を持ったのはいつ頃からでしょうか?

私が眼科診療に興味を持ったのは10年程前で、アメリカの獣医師の先生の実習に参加させていただいた時に、その技術力に感銘を受けたことがきっかけです。それ以来ずっと一人で勉強を続けていたのですが、だんだん国内で同様の考えを持った先生との出会いが増え、今では眼科専門の先生たちのネットワークがあるんです。心強い仲間である先生方です。症例やその対応を報告し合ったりデータを共有したりして日々切磋琢磨しています。その一環としてアメリカや韓国に赴き、各国の獣医療の視察を行っています。

動物の眼科医療に関して、一般的にアジア圏の医療レベルは決して低いものではありません。日本人は欧米の方と比べても手先の器用さがあると思いますし、単純に技術的な部分に関しては、眼科に限らず国内の先生方の手術の技術は高いように思います。

そういった技術の向上に関しては、もちろん日々のトレーニングが欠かせません。私たち眼科医は豚目を使って病気ごとのモデルを作り手術の練習を行います。その映像を撮影しておいて、自分の手術を自分で見てどんどん改善していくんです。そういった練習のやり方なども含めて、眼科は少し特殊な部分もあるのかもしれません。

少し話を変えまして、伊藤先生が獣医師を志したきっかけを教えてください。

う~ん、月並みな答えになってしまいますよ(笑)。

子どもの頃からシャムネコのリティーちゃんという子と一緒に暮らしていたのですが、恩返しというと少し大げさかも知れませんが、動物のためにできることはないかと考えるようになったことがきっかけですね。私は動物がいない生活というのは考えられないですし、幼い頃からそういう風に考えていました。なので、同じ医療でも人間のお医者さんになろうと思ったことはありません。もしも頼まれても断っちゃいます(笑)。

では、これまでのご経験の中で印象に残っていることはありますか?

当院は開業当初、今の場所の並びにあったのですが、ある時事情があってその建物を出なければならなくなったんです。そのことで落ち込んでいた私に対して、多くの飼い主さまが励ましの声をかけてくださったことはとてもよく覚えています。一つの動物病院をここまで慕ってくださる方がいると、とても勇気づけられましたね。

最後に、今後の目標についてお聞かせください。

飼い主さまの期待を上回る満足をご提供し、ここに来てよかったと思ってもらえるように、今後も尽力していきます。

病気は発見が遅れても、来院が遅れても、どんな状態でも対処する方法はありますので、病気の動物を抱えて辛い気持ちになっている飼い主さまの気持ちを救えるよう、飼い主さまごとによって異なる状況に合わせたオーダーメイドの医療の提供を心がけていきます。