Veterinarian's interview

インタビュー

時代と共に変化し続けてきた歴史ある獣医療 時代と共に変化し続けてきた歴史ある獣医療

時代と共に変化し続けてきた歴史ある獣医療

福岡動物医療センター

佐藤 良治院長

福岡県 福岡市

福岡動物医療センター

佐藤 良治院長

博多の中心区に佇む白い外観の動物病院。
今回取材に訪れたのは三つのグループ病院で構成されている福岡動物医療センターだ。
この地域で開業して43年のベテラン獣医師であるセンター長の佐藤 良治先生に獣医療にかける思いを伺った。動物たちと向き合ってきた病院の歴史、リハビリの分野に特化した経緯、長年地域の人々から愛され続けてきた動物病院の魅力を余すところなくご紹介する。

contents 目 次

福岡で開業された理由はどういったものなのでしょうか?

こちらで開業した理由に関しては、実はあまり明確なきっかけなどは無いんです(笑)。

ご飯が凄く美味しい、住みやすい、自然災害が少ない、なんていう良いイメージを持っていたので、ここ福岡で開業したんです。なので、縁もゆかりもない地域での開業ではありましたね。

なるほど。ちなみに先生が獣医を志すきっかけは何だったんですか?

それはね~…小さい頃からたくさんの動物に囲まれていたという状況が大きいですね。父親が犬好きでして、実家では犬や猫などをたくさん飼っていました。それに田舎だったということもあって、産業動物の獣医師になって帰ってくれば仕事もたくさんあるだろうな、という考えもあって獣医師を目指したんです。

代診を経て、福岡で開業されたということですが、開業されて一番苦労したことは何でしたか?

開業して43年ですからね、それは色々なことがありましたよ。

最初に開業したのは博多の駅前だったんですが、そこは借家という形で借りていた店舗だったんです。そこで2~3年診療をして、家を建てようとなったんですが、当時はいわゆるバブルの時期で、博多駅前なんかは地価が非常に高騰していて、病院の近くに建てるのは難しかったんです。だから当時田舎だった竹下に一件屋を建てて、病院もそちらに移転しました。今は博多区竹下なんて言われていますけどね、当時はあたり一面ネギ畑でしたよ(笑)。

そのうち病院ももっと大きくして、より動物に寄り添うことのできる病院にしていこうとなったんですが、当時は都市型と郊外型の病院、いわゆる駅近くの病院か、車での移動が必要になるけれども住宅が集まっている場所にある病院、のどちらが主流になるかわからない時代だったんです。だから実験として、都市部と郊外の両方に開業したんですよ。それが地域の皆さまのご協力もあって、運よく両方とも続けられています。

また当時は看護師と私の二人体制だったので、朝の6時から往診して、診療時間を病院で過ごして、また診療終わったら往診に出て夜の11時まで仕事、なんて生活を何年も繰り返していましたね。

まさに身を削って診療にあたっていたということですね。なかなかご自身の時間なんかも持てなかったんじゃないでしょうか?

自分でも当時はよくやっていたなと思います。そんな時間がなかなか取れない中でも実習なんかも頑張っていました。その時代はアメリカと日本の獣医療における技術差が凄まじかったのですが、その時はまだネットなんて便利なものはあまり普及してなかったので、アメリカの第一線で頑張られている先生たちを我々が日本の動物病院に呼んで、5日間ぶっ続けで実習するなんてことを20年くらいしていましたよ。

今でこそネットが普及して便利になりましたけどね。そういった基盤も整ってなかったので、自分自身で動くしかなかったんです。

それだけ動物と親身に向き合ってこられたということですね。先生は長らく獣医療業界に携わっていらっしゃいますが、飼い主さまの意識や世間の動物への考え方などもやはり大きく変わりましたか?

そうですね。まず戦後から東京オリンピックが開催されるくらいまでは番犬の歴史でした。家を買ったら必ず犬小屋を飼って犬を飼う、番犬としてね。それと猫をペットとして飼うという流れが出始めた時期でもありましたね。

そのあとは高度成長期です。いわゆるペットの時代で、ペットコンテストなんかが非常に盛んでした。それこそ毎週キャットショーだったりドッグショーだったりがあって、私もいくつものサークルやクラブの顧問になって衛生管理役として色々な場所に赴いていました。人間のエゴによって、コンクールの為の整形や、耳切しっぽ切りなんかが盛んだったのもこの時代ですね。今はもう愛護の観点からそんなことはないですけど。

そのあと平成に入るか入らないかくらいの時期から20年間くらいは、コンパニオンアニマルの時代がきます。いわゆる動物は人間の伴侶という時代ですね。このあたりの年度では動物の本来あるべき姿や成長、行動学なんかも重んじられていました。

その後から現在に至るまでは擬人化の時代です。動物を自分の息子や娘とか、それ以上の感覚をもって、家族として接する時代です。恐らく少子高齢化なんていう時代の流れにも関係あると思います。人格ならぬ犬格を尊重して、一頭一頭を大事に飼う時代ですね。だからここ何年も犬の飼育頭数は減っていっていますよ。その話でいくと、猫が凄くブームと言われていたりしますけど、実は犬の飼育頭数が減って、相対的に猫が凄く増えているように見えているだけなんですね。

そうした時代の中で先生は理学療法、いわゆるリハビリテーションを病院の軸として選択されたかと思うのですが、日本ではまだ主流とまではいかないリハビリの分野に特化されたのはどういった理由があったのでしょうか?

そうですね、それで言うと動物病院の多様化が一因ですね。動物の病院はずっと増え続けていると思うのですが、そうした背景もあって15~6年前に動物病院の多様化の時代が来たんです。

例えば専門医を採用・育成して専門医療を行うのか、CTやMRIなどを利用して高度医療を行うのか、夜間病院をするのか、従来通り町医者として、ホームドクターとしてやっていくのか。なんていう選択肢がたくさんあったんです。ちなみに当院も夜間病院を行っていた時期もあります。

そんな時代の中で、我が家は妻も子供二人も皆獣医師で、どうしても今後の病院運営の在り方や獣医師の在り方なんかの話になるわけですよ。そうした中で、今当院で行っているリハビリ。これが一番動物に寄り添っているのではないかということで、リハビリの道に進むことになりました。

人間はリハビリをして痛みとか、手術後の苦痛とかそういうものを取り除くっていうのを行いますよね。ところが動物にはそういうのはあまり無かったんです。しかし痛みを感じるとか不快感とかは人間も動物も変わらないので、やはり痛いものは痛いんですよ。だからそれを薬物だけに頼るのではなくて、実際に水中で泳がしたりとか、レーザーを使ってとか、針灸をやるとか、マッサージをやるとか、その他さまざまな方法で、なるべく身体的負担を減らしながら自分自身の治癒力を高めていかないといけないですよね。

それでリハビリの専門の施設を建てたわけです。特に娘なんかはリハビリを本格的に勉強して、アメリカの大学の獣医理学療法士科を卒業して、日本国内ではかなり取得人数の少ない資格なんかも取得しているので、リハビリセンターに関しては娘が主体的に動いています。

リハビリでも様々な治療法があると思うのですが、症状に合わせて提案をしているのでしょうか?

まず、リハビリして犬が喜んだ、犬がはしゃぐようになったとかでは我々はダメなんですよ。

動物病院がリハビリをやるということは、最初に診察をする際、神経検査、血液検査、障害の程度をしっかりと測るんですね。それは70項目くらいあって、一つ一つ測って、一週間後の成果、二週間後の成果、三週間後の成果っていうのを全部記録して、こういう風に動かなかった足が何パーセント体重をかけられるようになりました、それを続けてこれだけ足がきちんと対応するようになりましたとか、リハビリ評価表をもとに評価をして、それによってはじめてリハビリが完了となるんです。

で、確かに質問の通り、症状だとか状態によってリハビリの方法も違います。例えば、マッサージをした方が良いのか、ボールで遊んだ方が良いのか、階段の上がり降りをした方が良いのか、水中で負担がかからないように動かした方が良いのか、針灸が良いのかとか、症状と項目に合わせて選択していくんです。

どういった症状でリハビリを受けているワンちゃんが多いのですか?

一番はダックスだったりペキニーズだったり、胴が長くて足が短い犬ですね。いわゆる橋げたの原理ですよね。要するに短い橋脚に長い橋桁を渡していればちょっとしたことで背骨に負担がきますよね。足が長くて狭ければそんなに負担がかからないですよね。

だからダックスはいつも背骨に負担がかかった状態で歩いているから、椎間板ヘルニアとか、いわゆる後ろ足が痛い、不全麻痺、あるいはもう全くつねっても何しても痛みが無い深部痛覚無しという最悪の状態、そういう風な状態になりやすいわけです。

なので、ダックスやペキニーズの大体はヘルニアか手術後のケアが多いですね。あとは体重減量の犬や、20歳に近い犬の高齢の認知症のリハビリとかもあります。

今後の展望はありますでしょうか?

まず私たちが開業した当時は犬猫の医者っていうのは少なかったんです。皆、牛とか豚の獣医、それから農水省や県庁、保健所などの公務員になる人が一般的でした。今でこそ犬猫の先生になると言って大学に行く人が多くなったんですけど、当時は全学生の中で10%くらいしかいなかったんですよ。

ですので、これからはどんどん動物病院が増えるでしょうし、開業医も増えると思いますので、さらに診療項目も分かれていくと思います。それに伴って獣医師免許を取得する法律などもどんどん変わっていくと思います。

獣医師は現在、農林水産省に管轄が入っていて、農林水産大臣から獣医師の免許書を貰うんです。つまり厚生省じゃないので医療行為ではない。法律的には物を直すという分野に入るわけなんですね。法律的には動物は物ですから、動物病院の入院施設を作ってもそれは人間とは違うんです。例えば便に関してですが、動物の便は物が出した物ですから、新聞にくるんで捨てないといけないんです。生ごみとして。トイレに流しちゃうと法律違反になります。だから入院施設もそういう風に作らないといけないんです。

法律っていうのは物凄く規定が細かいんですよ、飼い主さまたちの意識と法律というのは物凄くかけ離れているんですよね。今後はその部分がかなり細分化されていくことも間違いないです。それに伴って飼い主さまも「この病気はこの病院に行こう」「この病気は今度はこっちに行こう」っていう風に分ける時代が来ると思います。

当院ではリハビリに力を入れていこうと方針を固めた以上は、行き着く所まで、動物に寄り添って、向かい合っていく、このリハビリの道を突き詰めていきたいと考えています。

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