Veterinarian's interview

インタビュー

「よく聞く」ことで、飼い主さまと動物たちの心を汲み取ることを大切にしています 「よく聞く」ことで、飼い主さまと動物たちの心を汲み取ることを大切にしています

「よく聞く」ことで、飼い主さまと動物たちの心を汲み取ることを大切にしています

犬と猫の皮膚科

村山 信雄院長

犬と猫の皮膚科

村山 信雄院長

東京都江東区、小名木川から南下してしばらくの場所にある犬と猫の皮膚科は、アジア獣医皮膚科専門医が二人体制で診療を行うという他に類を見ない専門性を備えた二次診療施設として、2016年3月の開院以降、近隣のみならず多くの獣医師・飼い主からの絶大な信頼を得て、難治症例を抱えた動物たちの受け入れを行っている。
皮膚科専門クリニックの開院はかねてよりの念願であったと話す村山信雄先生。特異性のある皮膚科診療への高度な技術とハイレベルな知識を有しながら、常に飼い主目線を忘れない診察のスタイルから、実際の医療現場で感じる様々なことまで、存分に語っていただいた。

contents 目 次

本日は宜しくお願いします。まず、村山先生が獣医師を志したきっかけを教えてください。

きっかけは、極く在り来たりなのですが、小学生から飼育していた犬が亡くなったことです。今でこそ、フィラリア予防は一般的に普及していますが、私が子供の頃には、予防方法が確立されていなくて、愛犬はフィラリアに罹ってしまい5才で亡くなってしまいました。その際、定期的に往診に来ていただいた動物病院の先生をみて、自分もそのように多くの犬を治したいと考えたのがきっかけです。

獣医師を目指す中でご苦労されたことや、思い出に残っていることはありますか?

そうですね。大変だったことは…現実的ですが、勉強することが一番大変だったでしょうか(笑)。とにかく大学に入らないと獣医師にはなれないので、入学するための受験勉強が大変でしたね。北海道にある帯広畜産大学に入学して、牛や馬などの大動物を診ていたのですが、今度は体力が必要でした。大学では、牛や馬が主体だったのですが、触診や視診などの病気の診かたや考え方などの基本を学びました。

その時に学んだ様々なことは、牛や馬であっても、現時点における私の獣医療の原点であると思います。治療を行う上で一番大事なことは、動物たちが何を訴えているのか、ご家族は何を問題にしているのかなどを丁寧に伺い、様々な選択肢を提示することだと思っています。

現在は皮膚科治療を専門的に行っておられますが、その分野に目を向けたのはなぜでしょうか?

近年、飼育環境の変化などにより様々な皮膚疾患を抱える動物が増えてきており、一頭でも多くの動物たちを救ってあげたいという考えがありました。また、私自身が花粉症や蕁麻疹などの皮膚病に悩まされたこともあり、皮膚の病気に興味があったことも選んだ理由の一つですね(笑)。

大阪や北海道の動物病院での勤務で約10年間勤務した後、皮膚科を勉強したいと考え、皮膚科二次診療施設に約8年間勤務して研鑽を積みました。

実際に来院される患者さまに多く見られる病気・症状はありますか?

犬種ごとに、体質(皮膚の構造)、気質、原産地などの特徴が違いますので、罹りやすい病気は異なってきますが、皮膚疾患はどの犬種が発症してもおかしくはありません。その中で、人間同様にアトピー性皮膚炎は良く経験する疾患の一つです。病気の背景として、遺伝的素因があると考えられており、柴犬などは、アトピー性皮膚炎になりやすい犬種と言われています。犬種というのは同じ系統からできているものなのですから、容姿や性格だけではなく、遺伝的に同じようなもの、すなわち皮膚病も発症しやすいと考えています。

細菌やマラセチアといった酵母などによる感染症と、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどの皮膚炎・アレルギーは診察の頻度が多く、症状に合わせて飲み薬や、スキンケアとしてシャンプーを提案します。同じ病気であっても、個々の症例によって治療方法が変わりますので、ご家族さまと相談しながら、適切な治療法を順次実施していきます。

治療を行う上で気にしていることや、飼い主さまに対しての接し方で心がけているポイントがあれば教えてください

当クリニックは、かかりつけ医さまからのご紹介により、二次診療サービスを提供しているクリニックですので、院内で行う治療の多くは難治性の皮膚病への処置となります。どういった治療であれば、愛犬や愛猫が負担なく快適な生活を毎日送っていけるのかを大事に考え、飼い主さまと二人三脚で治療を進めていきます。

私が飼い主の皆さまとお話をする中で心がけていることの一つは、「よく聞く」ことです。飼い主さまが何を言いたいのか、何を問題にしているのか、治療に対してどれだけ満足しているのかなど、きちんと心を汲み取ることができなければ、物事が次に進まないわけですよね。同時に、きちんと飼い主さまの話を傾聴するということが診療するうえでのコミュニケーションであり、獣医師にとって大事なことだと思っています。

重症な皮膚疾患では、治療期間も長く必要ですし、様々な治療を実施しなければいけないことも多く、現状を飼い主さまにどうわかりやすく説明し、どのような治療をしていくのかということを、理解していただくことが非常に大切になります。ご家族に対しては、現状で「わかること」と「わからないこと」をしっかりと伝え、その中で最善の案を提案していきます。

皮膚の病気と付き合っていく上で念頭に置いておくべきことはどんなことでしょうか

犬のアトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能異常、すなわち敏感肌により、炎症や痒みを起こす皮膚病ですので、生涯に渡ってケアを行う必要があります。そして、病気と付き合っていくにあたっては、飼い主が様々な情報に惑わされないようにすることも大切です。

ご自身で病気や対処法をお調べになることはもちろん大切ですし、積極的に治療に参加していただけるのは私たちからしても心強いのですが、最終的には信頼できるかかりつけの先生からご意見をいただくことが一番だと思います。先生に相談した後に、状況によっては皮膚病の専門クリニックに紹介してくれるなどの選択肢を与えてくれると思いますので、自分が疑問に思ったことがあれば、素直に率直に伺った方が良いと思います。もし、聞けないようであれば、別の病院へ行ってみるというのも一つの方法ですね。

二次診療での治療をお考えの飼い主さまへお伝えしたいことはありますか?

昔より医療の選択肢が増えたことで、獣医療においてもCTやMRIなどの高度な機器を使った検査や治療ができるようになりました。高度な治療や検査ができることによって、更に医学が進歩し、様々な病気が判明したり、それぞれの病気の治療法が増えてきたりしていることは事実であり、このような治療を実施できるようになったことは良いことであると思います。

そういった高度医療を受けていただいた方がより適切な治療を行う近道にはなりますが、希望される飼い主さまやご家族の方に対しては、どこまで治療を求めていくかをきちんと相談しながら進めていくことが大事だと思います。

最後に、今後の目標をお聞かせください

どこの病院に通っているかは関係なく、アトピー性皮膚炎の動物を抱えている飼い主さまが、集まって交流できる場所を提供したいですね。情報が氾濫している世の中ですから、何が正しい情報なのかわからなくなってきている方もいらっしゃいますし、その情報が自分の愛犬や愛猫にとって正しい情報なのかということもわからないまま鵜呑みにされてしまい、結果的に辛い状況を作ってしまうこともあります。

社会貢献と言うと大げさですが、同じ境遇の方たちと意見交換できる場所があれば、話もしやすく、飼い主の皆さまの精神的な負担を軽減できるかと考えています。近い将来、そのような場が実現できればと思っています。