Veterinarian's interview

インタビュー

眼科疾患は命を直接奪うものではありませんが、動物たちの生活の質を左右する重大な問題です 眼科疾患は命を直接奪うものではありませんが、動物たちの生活の質を左右する重大な問題です

眼科疾患は命を直接奪うものではありませんが、動物たちの生活の質を左右する重大な問題です

くるめ犬猫クリニック

奥井 寛彰院長

くるめ犬猫クリニック

奥井 寛彰院長

白内障・緑内障・網膜剥離といった眼科疾患は、獣医療においても特別な知識・技術・設備が必要な分野として他科目と一線を画している。全ての動物が持つその器官の重要性は言うに及ばず、動物たちが幸せな生活を送る上で「視覚」は大きな役割を担っているのである。長い間この地域の動物たちの健康を支えてきた岩井動物病院は2014年にその姿を変え、眼科診療もカバーしたくるめ犬猫クリニックへと生まれ変わった。院長の奥井寛彰先生が抱く、理想の眼科医療、理想の獣医療とは。

contents 目 次

本日は宜しくお願い致します。こちらの病院は、もうかなり長くこの地域で診察をされているのですね。

くるめ犬猫クリニックの前身は私の祖父が開院した「岩井動物病院」で、この地域で昔から獣医療に取り組んでいたのですが、段々手狭になりご家族にも不便をおかけする場面が出てまいりましたので、2014年に近所のこの場所にリニューアルという形で再スタートを切りました。

当院の特徴は、眼科の診療設備を備え、白内障の手術を中心とした数多くの眼科診療行っている点です。失明し、長い間光を失っていたワンちゃんでも視力の回復が見込めることから、鹿児島や長崎といった県外からも、多くのご家族にお越しいただいています。遠方から来られる方にとって、高速道路のインターチェンジから近いこの場所は非常に利便性が高いとのお声もいただいております。

奥井先生が眼科治療に力を入れるようになったきっかけを教えてください

目が見えるようになったワンちゃんと、そのご家族を見たことがきっかけです。以前勤務 していた病院でも白内障などの眼科手術を行っていたのですが、視力の回復を実感して涙 を流して喜ぶご家族と、そのご家族の目を見て尻尾を振るワンちゃんが見つめ合う姿に感 銘を受けたことをよく覚えています。

眼科の疾患は、直接に命に関わるような病気は少ないですが、犬・猫のQOL(クオリ ティ・オブ・ライフ)には大きく影響し、目が見えるようになったことで思い切り走れるようになった、お家に帰ったご家族を出迎えてくれるようになったという、嬉しいご意見も寄せられています。

治療時に何か気をつけていること、行っていることはありますか?

眼科診療だけでなく全ての診察に共通する点ですが、診察の際は動物の表情や仕草をよく観察し、嫌がって暴れないか、このまま診察を継続して大丈夫かを慎重に判断しています。あまりに嫌がるような場合は一旦休憩を入れるなどして、無理のない診療をするように注意しています。

また、手術に関しては実際に執刀を行う前に、手術風景がフルカラーでイメージできる様になるまでイメージトレーニングをするようにしています。

術前検査には無い異常にはどのように対処しよう…
異常血管があるとするならばどう走行しているか…

このように考えられること全てをイメージし、それに対しどんな手術をするかあらゆる可能性を組み立てています。 このイメージトレーニングにより高いレベルの手術を成功させているのも事実で、私にとっては欠かせない術前準備の一つなのです。

眼科分野の外科手術というと、具体的にはどのような処置を行うのでしょうか

比較的施術例の多い白内障の手術は、目に小さな切開を施し、白くなった水晶体を専用の 機械を用いて吸い取り、その場所に人工のレンズを入れることにより、視力を取り戻すも のです。片眼20分程度、両眼で40分少々というスピーディーな手術が可能で、麻酔の時間を含めても60分から90分程度の手術です。その他、網膜剥離、緑内障などの処置についても同様にスピード感を持って対応しています。どの手術についても日帰りで行えるもので す(入院による管理も対応しております)ので、ワンちゃんにとってもご家族にとっても、 負担を少なく感じていただけると思います。

そのためには適切な医療環境は必須であり、当院では眼科診療に必要な様々な専門機器を備えています。超音波画像診断装置、眼底や血管、水晶体などを検査するための光学機器 (スリットランプや倒像鏡)、眼圧測定器、手術用の顕微鏡や超音波乳化吸引機などにより、角膜潰瘍、白内障、緑内障の手術の他、多くの眼科的手術に対応可能です。

これまでのご経験の中で印象に残っていることはありますか?

眼科手術を行い始めた頃、白内障のワンちゃんを手術した時のことです。手術が終わり麻酔から目覚めた後、ワンちゃんとご家族が対面するわけですが、その時のご家族の一言に笑ってしまいました。
「本当に目が見えるようになったのね。私、お化粧しとけば良かったわ」と笑顔でおっしゃったのです(笑)。

また別のワンちゃんで噛み癖がある子がいたのですが、目が見えないので口が手に当たらないのです。ところが手術後に視覚が回復して、正確に手に噛みつこうとしてくることに少々苦戦してしまいました。笑い話のようですが、動物の目が見えないことは、ご家族にとっても、動物にとっても大きな負担になるものだということを改めて感じる出来事でした。

専門機関での検査・治療を検討中のご家族へメッセージをお願いいたします

何らかの異常を感じたらなるべく早く受診していただきたいと思います。当クリニックには、動物の眼科領域の様々な医療機器があり、多くの目の疾患に対応ができます。治療方法も内科的治療から、外科的治療まで数多くあり、その動物ごとに適切な治療方法を選び、ご提案いたします。目の疾患に関わらず、小動物の病気の進行は本当に早いものです。早めの受診で動物たちの生活の質を支えてあげてください。

奥井先生が獣医を志したきっかけについて教えて下さい

単純に、動物が好きで「やりがいがある」と思ったからです。私の家族には医師が多く、祖父が獣医師で叔父が医師でした。子供ながらに「どちらがやりがいがあるか」と比べてみると、少年時代の私の眼には獣医師である祖父の姿が色濃く映ったのです。迷うことなく獣医師の道を選びました。

実際、獣医師になってから大変なこともありますが、真剣に取り組んで、ご家族に喜んでいただいた時や、ワンちゃんが元気になって走り出す姿を見ると、獣医師になって本当に良かったと思います。

今後の目標についてお聞かせください

まずは、動物の眼科手術をもっと広く多くのご家族に知っていただき、眼科診療のハードルを下げていきたいですね。最近は製薬メーカーから質の良い点眼薬が開発されています。 眼科診療が今後さらに注目されていけば、失明する動物を減らすことができます。

今は、クリニック内で病気やしつけの教室の開催を考えています。ご家族とのコミュニケーションや、ワンちゃんネコちゃんの健康にも良いことばかりなので、近いうちに実現できるよう準備を進めていこうと思っています。また、宮崎大学大学院に入学しましたので、 未知の治療法、今の流行りでもある再生医療にも取り組んでみたいと考えています。