Veterinarian's interview

インタビュー

エル・ファーロ(灯台)のように、 灯りを照らすような治療を目指しています エル・ファーロ(灯台)のように、 灯りを照らすような治療を目指しています

エル・ファーロ(灯台)のように、 灯りを照らすような治療を目指しています

動物病院エル・ファーロ

山本 剛和院長

動物病院エル・ファーロ

山本 剛和院長

病院名のエル・ファーロは、スペイン語で「灯台」という意味を表す。病を抱えた動物たちの「希望の光」、「治療」という海の中で道に迷った飼い主さまの「道標」、混乱した「獣医療」を正しい方向へ導きたい、という思いで開院された動物病院エル・ファーロ。建物のデザインも“灯り照らす灯台”にこだわったという、執筆活動にも精力的に取り組んでいる院長の山本剛和先生にお話を伺った。

contents 目 次

まずは、山本先生が獣医師を志したきっかけを教えてください

そもそも小さい頃から虫や動物や様々な自然現象に興味を持つ子どもだったのですが、私は少年時代の一時期を福島県の原ノ町、現在の南相馬市で過ごしていたことがあったんです。南相馬市は馬の産地なので、野馬追という馬の文化があったり、牧場があったり、馬に接する機会が多かったんですね。毎週、牧場に通って馬の世話をして馬に乗っていたので、もちろん馬が大好きで、馬に関わる仕事をしたいとずっと思っていました。その後、進路を考える時期になってもその気持ちは変わらずそのまま獣医学部を受験したのが獣医師になったきっかけですね。

開業しようと思ったターニングポイントはいつでしたか?

元々は馬に関わりたくて進んだ獣医師の道ですが、北海道でしばらく馬の臨床を経験したのち、幾つかの転機があり、東京に戻って犬・猫など伴侶動物の臨床を本格的にやり始めたんです。当初は経験が少なかったこともあり、大学病院の研修医を1年半経験しました。そこで知識とスキルを身に付けたのですが、大学病院に行った一番のメリットは、人間関係を広げられたことかもしれません。

大学の様々な専門医の先生たちや、今後専門医になっていくような優秀な若い先生たちと知り合うことができたことは、その後臨床の仕事をしていく上で現在に至るまで、私にとって非常に大きな財産となっています。さらに都内近郊の動物病院で勤務医・勤務院長として数年間臨床経験を積み、ちょうど卒業後10年経ったのを期に独立・開業するに至りました。

これまでの経験の中で印象に残っている事があれば教えてください

ここを開業する前の病院でのことなのですが、原因不明の便秘のダックスフンドを診察したことがありました。それまでに大学病院を含めた数か所で診察を受けていたのですが原因が判らず、飼い主さまも困って獣医不信のような状態になっていました。

当院で幾つかの検査をした結果、お腹の中に大きな肉芽腫が出来て腎臓や小腸・大腸、膀胱などの臓器があちこちで癒着し結腸を巻き込んで通過障害を起こしたことにより便が出にくくなっていることが判りました。実際にお腹を開けて確認してみると、複数箇所で癒着が起きておりかなり酷い状態でしたが、約5時間に及ぶ大手術とその後の集中治療により何とか無事に退院することができました。その時のことは良く覚えています。その飼い主さまとはいまだに年賀状のやり取りなど折に触れて交流が続いています。

病院名になっている「エル・ファーロ」はあまり聞きなれない言葉ですが、この医院名にしたのはどんなお気持ちからでしょうか

「エル・ファーロ」とはスペイン語で「灯台」という意味です。

実は、大学病院の研修医を終えてから1月半ほど、バックパック一つで、スペイン、ポルトガルを安宿に泊まりながらバスで巡る旅をしていました。きっかけは元来の音楽好きのためで、フラメンコギターを通してスペインという国に非常に興味を持っていたので、いつか実際に足を運びたいと考えていました。ちょうど次の勤務に就くまでの間の期間で、ゆっくり時間をかけて気儘な一人旅をしていたのですが、その時に感じたこともあり病院名をエル・ファーロというスペイン語にしたんです。灯りを照らす「灯台」です。

もちろん、比喩的な意味も込めていて、治療に迷ってしまった飼い主さまを導ける存在になりたいという願いも込めています。建物の外観デザインなども、スペインをイメージして設計しました。

飼い主さまが抱く獣医療への期待や認識の向上を感じることはありますか?

多くの飼い主さまは動物病院にも定期的に来てくださり、獣医師からのアドバイスをご自身でできる範囲で実践してくださっています。しかし、動物に対してこだわりを持ちすぎるあまり、ワクチンやフィラリア予防などの本来必要な行為を敢えて否定したり、偏った知識による手作りの食事に極端に傾倒している方も時々おられます。近年ではインターネットで多くの情報が簡単に入手できますが、残念ながら医療情報や動物関連の情報については、掲載されている情報は玉石混交です。何が正しいのかを見極めるためには専門的な知識が必要です。

もちろん、動物たちのためにご自身で積極的に調べるという姿勢はとても大切ですが、間違った認識を持たないためにも、特に命や健康に関わる情報についてはネット情報を鵜呑みにせず、きちんと信頼できる獣医師に相談していただくのが一番良いと思います。もちろん当院でもご相談は受け付けていますので、些細なことでも遠慮なくご相談ください。

飼い主さまの中には、動物を亡くしたことで生活がままならなくなるケースもあると耳にしますが…

ペットロス症候群と呼ばれる症状ですね。暮らしを共にし、愛情を与えていた動物が亡くなった時に、悲しみを感じるのは当たり前だと思いますが、その悲しみが過度になり日常生活に支障をきたす状態というのは、適切な対処が必要な状態であると考えられます。あまりに症状が重い場合には、専門家(精神科・心療内科)を受診した方が良い場合もあります。

ただ、自分の子どものように可愛がっていた動物がいつのまにか自分の年齢を追い越して、自分より先に年老いて最期を迎えるということは、理解しておくべきです。心の準備ができていても慌ててしまうことはあると思いますが、中にはとても安らかに看取られる飼い主さまもおられます。動物に対して、ありがとうという気持ちを持って見送ってあげられるよう、どのように最期を迎えてあげるのかを今のうちから少しずつ考えておくことが大切だと思います。

これから動物を飼い始める方へアドバイスはありますか?

最近では多くの飼い主さまが動物の口腔内のケアについて関心を持っておられますが、やはり全ての飼い主さまにその認識が行き届いているわけではありませんので、デンタルケアの重要性というのは、気にしておいていただきたいことの一つですね。

動物の歯周病菌の中には人の口腔内で検出されるものが見つかっていて、歯周病が人畜共通の感染症である可能性が指摘されています。つまりワンちゃんとのお口の接触などが原因で同居するご家族が歯周病菌をもらってしまう可能性がある、ということなので、特に小さなお子さんがいる家庭などでは、一緒に暮らしている動物の口腔ケアが非常に重要です。動物自身はもちろんのこと、飼い主さまとご家族のためにも、動物の口腔内環境に気をつけていただければと思います。

山本先生の今後の目標について教えてください

地域の飼い主の皆さまに信頼していただいき、困った際に気軽に相談に来ていただける病院づくりに励んでいきたいと思います。

獣医療の発達に伴って、飼い主さまのニーズも高度に、かつ多様になってきていますので、極めて難しい症例まで全て当院で抱え込むのではなく、必要に応じてより良い治療が受けられる専門病院や高次診療施設をご紹介するというような、コンサルタントのような役割は今度ますます重要になってくると考えています。全般的に質の高い診療を目指していくのはもちろんですが、それと同時に個人的に最も興味を持っている軟部外科、特に皮膚形成や創傷治療については、今後さらに広い範囲の診察に対応できるように研鑽していきたいですね。