contents 目 次
- 病院の特徴
- 犬・猫の歯周病の罹患率
- 「先制医療」に対する考えと興味を持ったきっかけ
- 診療や飼い主さまへの対応において、獣医師として意識していること
- 飼い主さまが自宅で行えるケア
- 獣医師を志したきっかけ
- 初めての外科手術について
- 今後の目標
こちらの病院は2017年の開院と伺いました。まずは、病院の特徴をお聞かせください。
当院では私が得意としている歯科分野の診療はもちろん、広く全科での一般診療も行っています。全身の健康が口腔内の状態に大きく左右されることは人も動物も同じであるという考えから、一般診療で受診された飼い主さまにも折を見て口腔衛生についてのアドバイスを積極的にさせていただき、「高度な一次診療」プラス「動物歯科の専門的な診療」をする動物病院であると皆さまに認識していただきたいと思っています。
歯科治療には、小さな部分に対して一つ一つの処置を誤らずに丁寧に対処していくという実際に「手を動かす」部分と、診断をつけたり、より良い治療方法を考えて飼い主さまに提案したりといった「頭で考える」部分があります。良い歯科医には両方のバランスが取れていることが必要だと思います。受付兼助手は犬の訓練士で、警察犬の訓練にも長年携わっていましたので、しつけや問題行動などについてのアドバイスもできると思いますよ。助手は私の妹ですので、私への不満などもありましたら遠慮なくお伝えください(笑)。
実際に歯周病の罹患率は高いのでしょうか
犬猫の場合は人間と違って、虫歯には殆どなりません。これは人間とは歯の構造及びpHが異なるためです。けれど歯周病には人間と同じように罹り、3歳以上の犬猫の75%は歯周病にかかり、7歳以上では100%罹ると言われています。歯周病になってしまって、歯が痛くてフードも食べられないという状態になれば、抜くにしても治療するにしても外科的処置が必要となり動物はもちろん、飼い主さまへの負担も大きくなります。
そういった事態にならないためにも、日常的なデンタルケアの必要性について飼い主さまにもっともっと知っていただくことが私の務めだと思っています。外科的処置が必要な状態になってしまった場合はきちんとご説明を行い、責任を持って手術を執刀いたします。
谷口先生が標榜されている「先制医療」とはどんなことを行うのでしょうか
私自身が飼い犬を亡くした時に強く感じた、「もう少し早く気づいていれば打つ手があったんじゃないか」「何か予防する手立てもあったんじゃないか」という気持ちが根本にあり、予防できるものであるなら、積極的に予防をしていきたいという考えです。自分に置き換えて考えると、そういった予防ができていればあの時にあそこまで悲しい思いをしなくても済んだのかもしれません。「悲しい思い」というよりも、「嫌な思い」ですね。
飼い主さまの知識や獣医師の力量によって救える命と救えない命に分かれてしまうのは理不尽だと思いますし、私自身が限界まで目一杯の完璧な治療を行える獣医師になれれば、あの子の無念を晴らせるのではないかと考えたり…。改めて言葉にしてみると、我ながら執念深い性格ですよね(笑)。
そうかもしれませんね(笑)。しかし、その方がお医者さまには向いているのではないでしょうか。
そうですね。基本ネガティブ思考なもので、治療に対しても常に最悪の可能性を想定しておくことによって注意深く対処できますし、逆に最悪の事態はそうそう起こるものではありません。「この症状は大体この病気が多いから」という基準で行っていると、油断から足元をすくわれることもあると思います。
獣医師は一つ一つのケースに細心の注意を払って向かわねばならないと思っています。もちろん、不安を抱えた飼い主さまには、励ましの言葉をおかけしますが、逆に飼い主さまがあまりにも呑気過ぎると、「こういう可能性についても頭に入れておいてくださいね」とお話しすることもあります。飼い主さま次第で私も変わり身の術を使いますので、その点では私も少し大人になってきたのかな(笑)。
飼い主さまが自宅で行えるのは具体的にはどのようなケアでしょうか
犬や猫の歯は3日で歯石が沈着しますので、歯磨きも最低3日に1回は行って欲しいところです。今まで歯磨きの習慣がなかったのなら、ステップを踏んで徐々に慣らしていく努力を飼い主さまにはしてほしいと思っています。初めは嫌がらず口を開けさせる訓練、次に口の中に手や歯ブラシを入れる訓練、そしてようやく歯磨きができるようになるわけです。
年を取ってからの訓練は難しいので、子犬で飼い始めたのなら最初が肝心ですね。年を取ってから歯磨きを始めるのが難しい場合は、当院の受付兼助手の訓練士にも相談してみてください。口の中を見せてくれないと、いざ本当に歯が悪くなって受診してくれても、診察が困難になってしまいます。
話を変えて、谷口先生が獣医師を志したきっかけについて教えてください
小学生の頃に、家で飼っていた愛犬が入退院を繰り返した後に亡くなってしまいました。そのこと自体が悲しかったのはもちろんですが、同時に、子どもながらに「原因がはっきりわからないのは嫌だ」という気持ちを強く持ったんです。それで突き詰めて考えていくうちに、原因の究明や治療、そして予防ができるものなら予防も行えるように、獣医師になりたいと考えたわけです。
手塚治虫の「ブラックジャック」を読んで医学の世界に興味を持っていたこともありますし、「動物のお医者さん」も愛読していました。絵を描いたりすることも好きでしたが、その時以来、わき目もふらずに獣医師だけを目指して進みましたね。
今では外科手術も多く行っておられると思いますが、初めてメスを握った時はいかがでしたか
生きている動物の解剖を行ったのは、勤務医として働き始めてすぐの1年目でしたが、雄猫の去勢手術を執刀しました。雌猫の避妊手術よりも雄の去勢手術の方が難易度は低いので、外科の執刀は大抵ここからスタートします。それまでの半年間、毎日のように先輩医師の手術に助手として立ち会い、100以上の手術の様子をつぶさに見ていますし、動画なども幾度となく見ているんですが、初めての時はやはりとても緊張しました。
見るのと実際に自分がするのとでは大違いです。しかし、2回目からは全然違います。もちろん1回経験しさえすれば完璧というわけにはいかないのですが、2回目には1回目の経験が100%生かせるんです。恐らくどんなことにも共通して言えるのですが、0から1へのステップが一番大変で、1から2へ、2から3へと進んでいくにつれて肩の力を抜いていけるのだと思います。
最後に、今後の目標をお聞かせください
開業してまだ日が浅いので、これからだと思っています。遠くから動物を連れて来てくださる飼い主さまのために、駐車場ももう少し増やしていく予定です。しっかりしたデンタルケアのご指導と先制医療の考え方で動物たちの健康寿命を延ばし、飼い主さまに喜んでいただけるような診療を続けていきたいと考えています。吹田市近郊の飼い主さまも、遠くの飼い主さまも、お気軽にご相談いただければと思います。