Veterinarian's interview

インタビュー

知識の啓蒙、予防医療の実践、高度医療の三本柱 知識の啓蒙、予防医療の実践、高度医療の三本柱

知識の啓蒙、予防医療の実践、高度医療の三本柱

平塚動物総合医療センター

荒渡 暖仁センター長

平塚動物総合医療センター

荒渡 暖仁センター長

神奈川県平塚市にあるショッピングモールの一角で地域の動物たちの健康を守る平塚動物総合医療センターは、「人と動物に優しい動物病院」というコンセプトを掲げ、各分野において専門性の高い獣医療を行っている。
しかし、高度医療機関としての側面を持ちながら、自身の掲げる獣医療を語るセンター長の荒渡暖仁先生の表情は、優しさに溢れたホームドクターのように穏やかだ。
飼い主の方々への知識の啓蒙として各種セミナーを積極的に実施し、予防医療や地域貢献にも取り組む視野の広さ、その根底にある考えについてお話を伺った。

contents 目 次

まずは、荒渡先生が獣医師を志したきっかけをお聞かせください

きっかけとなったのは、中学生の時に初めて我が家に迎えた柴犬との生活です。その子は飼い始めてすぐに病気になってしまい、親と一緒に動物病院へ連れて行きました。獣医師になった今考えると、あれはジステンパーという重い病気だったのかもしれませんが、その動物病院ではしっかりとした治療をしていただけて愛犬は元気を取り戻すことができました。その時に感じた「獣医師は凄い!かっこいい!」という気持ちが、自分も獣医師になりたいと思ったきっかけですね。

先生がセンター長を務める、平塚動物総合医療センターについてお話を聞かせてください

当院がコンセプトとして掲げているのは「人と動物に優しい動物病院」です。それを身近に感じていただけるように、飼い主さま向けのセミナーやしつけ教室、CTなどの医療機器の完備、予防医療による病気の早期発見、早期治療の推進。これら一つ一つを大切にしています。地域の皆さまに愛される動物病院を目指したいと考えています。

こちらの病院で実践されている予防医療についての取り組みを教えてください

当院には高度医療の環境もありますが、それと同じくらい予防医療にも力を入れています。病気の早期発見、早期治療のことで、今では多くの飼い主さまが重要性を認識されていることと思います。実際に診療を行っていると「もう少し早く病気に気づいていれば」という飼い主さまは多く、そのようなケースを無くすために、予防医療に対する高い意識をお持ちの先生方によって「Team HOPE」という非営利団体が設立されました。

今までは無かったペットの健康診断についての統一見解が、知見のある先生方によって理論的に提示され、それはペット健康診断プログラムというものになっています。当院でもその活動に共感し、Team HOPEのペット健康診断プログラムに沿った健康診断を実施しています。

日々の生活の中で健康に直結するものとしては、まずフードが思い浮かぶのですが、食事についてのアドバイスなどは行っておられますか?

ペットの食事に関しては、正しい食べ方、カロリーについて、質の良いフードについてアドバイスしている他、年齢に合わせた食事、病気の子への療法食のアドバイスを行っています。人間と同様、動物にとっても食事は体を作るためになくてはならないものです。

最近では市販のフードは非常に多くの種類がありますが、どのような違いがあって、何を与えるのがベストであるかを判断することは簡単ではありません。特に療法食と呼ばれるフードについては、対面でフードの内容を説明し、食べさせ方、切り替えの時期などのお話を行った上でご案内を行っています。

飼い主さまへの知識の啓蒙にも注力されていると伺っています

ペットの病気を最初に発見するのは一緒に暮らしている飼い主さまです。日常生活で飼い主さまがいち早く異変に気がつくことができるように無料の健康診断セミナーを定期的に開催するようにしています。シニアになったら出る症状、熱中症になったら出る症状など、知っておくことで適切な対処ができることは多く、早期発見に繋げるためにも飼い主さまには多くの簡単な医療知識を蓄えておいてほしいですね。

また、歯磨きや耳の手入れといったケアに関するセミナーも開催しています。病気予防の観点からもケアの仕方を知ることは大切で、被毛の手入れを学んでいただくグルーミングセミナーや、ペットの防災セミナー、猫に特化した猫のセミナーなども開催しています。

季節に関係する内容のセミナーは年1回ですが、歯や耳のセミナーなどは毎月実施していて、啓蒙活動の一環として無料でどなたでもご参加いただけます。多くの方に動物について知っていただくことで、ペットたちの健康が守られれば幸いです。さらに、飼い主さまへの知識の啓蒙という意味では、パピー教室やしつけ教室を実施しています。こちらも専門のドッグトレーナーが行っていますので、問題行動にお困りの方は是非ご相談ください。

様々な機器を備え、高度医療の受け入れも行っていると存じますが、具体的にはどのような治療を行っておられますか?

治療そのものは勿論ですが、まず医療の入り口である検査、解析に力を入れています。本当に治療の必要があるのか、手術をするにあたってどのようなアプローチをとれば最小のリスクで済むか、事前に把握した上で進めていくことが安全性の向上に繋がると考え、デジタルレントゲン、透視レントゲン、CT装置、CT解析装置などを導入しています。

さらに私自身は外科手術全般に力を入れて取り組んでいるため、陽圧手術室、Cアーム、電気メス、超音波メス、超音波乳化吸引装置、内視鏡、整形外科パワーツールなど、道具や機材についても十分な施術を行える環境を揃えています。これらは当院で使用することは勿論、近隣の動物病院の先生方にも声をかけさせていただき存分に活用していただいています。当院だけが設備の充実で盛り上がるのではなく、地域の動物医療にどれだけ貢献できるか、ということも課題の一つと考えています。

これから動物を飼い始める方へアドバイスをお願いします

ペットを飼い始めるということは家族が増えることと同義です。犬や猫の寿命を考えると、少なくとも10年以上は生活を共にしていくのです。命あるものである以上、家族に迎え入れることには相応の責任が伴いますが、その責任に対してプレッシャーを感じることのないようにしていただきたいですね。

大切に暮らすことで、ペットたちはその何倍も愛情を返してくれます。獣医師としては、そんな幸せな関係を一日でも長く続けられるようにして差し上げたいと考えています。飼い主さまに病気のことを知っていただき、もしもの時の異変を早く見つけてあげられるように、我々と一緒に勉強していただけたら、こんなに嬉しいことはありません。

勉強というと堅苦しく聞こえてしまいますが、それも動物と暮らす楽しみの一つだと私は思います。その学びの為の場所やツールは当院で用意していますので、一緒に動物の健康を考えていきましょう。

最後に、荒渡先生の今後の目標をお聞かせください

地域の動物医療のレベルを上げていくために私たちが貢献できることがあればと考えています。加えて後進の育成について、当院は新人の獣医師が定年まで勤められるような病院でありたいとも考えています。最終的には独立を目指すとしても、勤務医として長く勤められる環境があることで技術や経験による知識はどんどん当院に蓄積されていき、その積み重ねは、さらに後に続く獣医師たちの助けとなります。そのようにして病院のレベルをもっと高めていきたいと思っています。