Veterinarian's interview

インタビュー

歯に関するトラブルの増加に対応するためにも、多くの方に正しい歯科知識を身につけていただきたい 歯に関するトラブルの増加に対応するためにも、多くの方に正しい歯科知識を身につけていただきたい

歯に関するトラブルの増加に対応するためにも、多くの方に正しい歯科知識を身につけていただきたい

とだ動物病院

戸田 功院長

とだ動物病院

戸田 功院長

動物の口腔内ケアについて、正しい知識を有して臨床の現場に立つ獣医師は多くない。その状況を危惧して、現在では歯科医療の技術、重要性についての啓蒙を行う戸田功先生に、動物歯科治療のスペシャリストとしての胸の内を語っていただいた。
自身が院長を務めるとだ動物病院での臨床の他、講演活動や執筆活動など、幅広く活躍する戸田先生の言葉は、その一つ一つから獣医師としての溢れる情熱を感じ取れた。

contents 目 次

戸田先生は特に歯科診療に注力されていると伺っています。現在の診察スタイルに至るまでの経緯を教えてください。

ホームドクターというポジションで診察を行うには、内科や外科、その他何でも受け入れを行いますよね。当院も開業したばかりの頃は外科治療が多く、猫や犬の落下事故、交通事故、骨折などの治療を多く行っていました。

しかし、住宅事情が時代と共に変化するにつれて室内で暮らす動物が増えたことで、怪我が減り、代わりに歯のトラブルが増えてきたのです。現在でも、学校では学生に歯科は教えておらず、でも歯のトラブルで来院する動物の数は増えている状態です。

そのため、既に歯科診療を行っている先生から治療を教えて貰い、当院でも歯科分野の受け入れをスタートしました。歯科に興味を持って診療を続けていく中で、結果的に他の先生方より歯を勉強する機会にも恵まれたのかと思います。そうして診療を続けていくと、当院の診療全体の中で歯科治療の割合がどんどん増えてきたのです。これも周囲の先生方からのご指導・ご鞭撻や、お支えのおかげです。今のように自信を持って歯科診療を行えるのは、良い人間関係に恵まれたおかげです。

開業から現在までのご経験の中でのご苦労や、思い出に残る出来事はありましたか?

今でも毎日が苦労の連続です(笑)。実は当院は普通の動物病院とは異なる面があり、それは一次診療と二次診療が両方あるという点です。元は総合診療を行うホームドクターとしてスタートしていますので、そちらはそのまま引き続き行い、さらに二次診療である歯科があり、そちらは他院からの紹介も受け付けています。

専門治療の先生方には、皮膚病だけ、整形外科だけといったように、特定分野だけを診察する方もいらっしゃいますが、当院は一次診療と二次診療の両方が混在しています。

そして、実は一番苦労しているのは診察時間外に行っている執筆活動についてです。他の先生向け、看護師向け、一般向けの講演やセミナーの原稿や、書籍の執筆なのですが、出版社の方から遅筆を怒られてしまっています(笑)。

歯科治療に関して、実際に目にすることが多い病気や相談内容について教えてください

一番多いのは歯周病ですね。これについて、この場を借りて飼い主さまにお伝えしておきたいのですが、歯そのものの状態にのみ注意を払い、その他の異常を見落とされている飼い主さまが多く見受けられます。歯の見た目がきれいであれば、つい安心してしまいますが、歯周病は歯を支えている顎の骨が腐っていく病気なので、歯の状態に関わらず歯周病を患うリスクはあるのです。

そのため、一番気にしていただきたいことは汚れよりも口臭の有無です。通常は歯の汚れと病気は一致しないものなのですが、口臭と歯周病については一致します。歯周病に対しては、歯の表面だけでなく、歯周ポケットと呼ばれる歯茎の奥まで適切な処置を行っています。

歯科の重要性について、飼い主さまの認識に変化を感じることはありますか?

飼い主さまの意識レベルの向上は実感しています。積極的に治療へ参加していただけることは私たちとしても非常に嬉しいことです。そういった状況の変化は、インターネットの普及によって手軽に知識を得ることができるようになったことも要因の一つかも知れませんが、インターネットで得られる情報は全てが正しいものとは限りませんので、良いような悪いような、複雑な心境ですね(笑)。

反面、予防についてはしっかりとした考えを持つ方が増えました。文字通り、家族の一員として接するという意識をお持ちなのだと思います。しかし、歯科分野に焦点を絞ると、まだまだ飼い主さまの意識の向上や、知識の啓蒙を行っていく必要があると感じています。現在は状況が変わりつつある過渡期と思いたいですね。

飼い主さまにお薦めするデンタルケアはどのようなものでしょうか?

デンタルケアは、食事や歯磨き、その他の要素も含めてケアしていくトータルケアの考え方が必要です。人間と同じように小さな頃から歯磨きを習慣にすることは重要ですが、ジェルやドライマウス用のスプレーといった用品、フードによって総合的にケアしていくことですね。

戸田先生が獣医師を目指したきっかけは何でしたか?

獣医師の皆さんは同じことを言うかもしれませんが、何より動物が好きだからですよね。自然や生物などに興味がありました。高校生の頃には獣医師を含めて動物関連の進路へ進もうということは決めていたんです。ちょうど生物科学がバイオテクノロジーという言葉で呼ばれ始めた頃で、細かいミクロの世界よりも動物のような大きなものを相手にしたいなという気持ちで獣医師の道を志しました。

講演活動や著書について教えてください

これは私のライフワークというか、獣医大の学生向けにボランティアで知識の啓蒙を行っています。学生の間に正しい知識を入り口の部分だけでも知ってもらい、その後、さらに興味を持ってくれれば嬉しいです。

講演についても年間50件くらい行っています。なかなか依頼の全てを引き受けることは難しいのですが、可能な限り活動していきたいと思っています。獣医師だけではなく、動物看護師や飼い主さまに向けてもトータルケアの大切さについてお話をしています。

今後の目標についてお聞かせください

現在、当院は私も含めて獣医師4名で診察を行っていますが、その中で歯科の診察を行っているのは私だけで、他の獣医師は一般診療を担当しているんです。彼らに歯科治療を教えて診察を任せたいですね。私自身は、体が動くうちは現場で歯科診療を続けて、その後は後進の育成に専念できればと思っています。講演や著作もその一環ですが、歯科治療を安心して任せられる獣医師がもっと増えていってくれたらと思います。