contents 目 次
- 獣医師になったきっかけ
- 卒業後、短期間で開業した経緯や当時の病院の様子
- HAB(ヒューマン・アニマル・ボンド)“人と動物の絆を大切にする”という考え方
- 病気の予防と早期発見の重要性
- 診療体制について
- ボランティア活動について
- 今後の獣医療についての展望
まずは、美濃部先生が獣医師になったきっかけを教えてください
私が生まれた時にいた先住犬が亡くなり、2歳の時に新しい子犬(スピッツの雑種)が家族に加わり、いつも一緒に居るのが当たり前という環境だったことが獣医師を志す潜在的要因になったのだと思います。環境保全や意匠工芸について学びたい気持ちが強かったのですが、偶然や縁や運が重なり獣医学部へと進学しました。
良い環境と先生・先輩・友人に恵まれた学生時代で、様々な回り道がありましたが今ではその一つ一つに必ず意味があったのだと思っています。
卒業後は、短い期間でご開業されたのだと伺っています
そうですね。卒業後は東京で3年半と大阪で1年半程の勤務の後に開業しています。勤務医志望でしたが、当時はまだ一般的でなく開業するのがスタンダードな時代でした。自分の診療スタイルや考え方、躾・行動学の導入などをダクタリ堺の山崎院長(大阪の師匠)に相談したところ、背中を押され開業の道を選びました。
初めの病院はこの近くの賃貸店舗で始めました。待合室・受付が外からまる見えの2面全面Fix(全面ガラス張り)は当時の動物病院では他には無かったと思います。約15年前に移転した現在の病院も同様で、さらに待合室だけでなく診察室の3つのうち1つとトリミング室は外の通りからも見えます。また、ICUだけでなく犬舎・猫舎は診療室から腰から上がガラス張りで常にスタッフが見れるようになっています。
美濃部先生が標榜しておられるHABについてお話を聞かせてください
HANBとは「ヒューマン・アニマル・ネイチャー・ボンド」の略で、人と動物の絆を大切にするという考え方です。私の東京の師匠であるダクタリ動物病院院長の加藤先生がHAB(ヒューマン・アニマル・ボンド)を進化させ提唱されました。1970年代初めから、「家族の一員である動物」という考え方に基づいた診療をされていたのです。日本の動物愛護・福祉・医療は、加藤先生を始めとする先逹の先生方・JAHAのお陰で進歩してきたとも言えます。ダクタリ動物病院で学ばせていただいたことは、現在の自分の骨格を作っていると感謝しています。
病気の予防に力を入れていますよね?
そうですね。これは人間でも同じで、病気にならないように予防することが大事なのと、病気になってしまったとしても発見は早ければ早いほど良い。また、病気を未病の状態でコントロールすることがQOLに欠かせません。飼い主の皆さまに推奨しているのは、元気な時に頻繁に来てくださいとお願いをしています。
普段の元気な状態を病院スタッフが知り、動物たちと顔見知りになるということです。例えばフィラリアや外部寄生虫の予防薬など半年分をまとめて処方することはしていません。1~3ヶ月ごとの来院を促しています。その時に体重測定、耳掃除、爪切り、肛門腺絞りと同時に身体検査を無料で定期的に行うことで、普段からの健康管理やケアができ、動物たちも慣れ、病気の予防と早期発見に努めています。また、ウサギやモルモットやチンチラなど、ストレスに弱い動物たちも元気な時に定期的に来ていただくことによって、ストレス耐性ができます。
病院=病気を治すところという印象は多く方が持たれています。しかし、月一で動物病院に来ていただいていると、多くのワンちゃんは喜んで病院に入って来てくれます。中には、犬が病院へ来たがるので散歩のコースに病院を入れたとおっしゃる飼い主さんも少なくありません。動物たちが病院を好きだと、いざという時にもスムーズな診療ができますので、動物自身の負担が小さくて済みます。飼い主さんの不安も軽減されるのではないでしょうか。
今は美濃部先生がお一人で診察を行っておられるのですか?
はい。かかりつけの動物病院として、緊急時は24時間365日対応していますが、 病院の広さや診察時間、飼い主さん・動物へのサービスから考えても、人手が足りていません。特に今は、獣医師は私一人ですので負担は大きいですし、完全対応は無理な状態です。若い先生が来てくだされば、私自身の刺激にもなり、一緒に学んでいけることも沢山あります。
現状維持とは後退を意味すると考えています。今と同じではだめで、変化が大切だと思っています。若い方の力を借りて、さらに発展していけることを願っています。雇用関係とは少し異なりますが、同じ理念を共感・共有できる人と、当院のスペースや機材・人材をシェアして個人事業主として契約して共に働くという方法も考えています(弁護士事務所のような)。そうすれば、若い先生の開業のリスクや地域の過剰な乱立も避けられると思っています。
体の負担を減らしたいと仰りながらも、ボランティア活動もされているのには頭が下がります
ボランティアと言えるほど大げさなものではありませんが、地域の学校へ伺って「獣医師の仕事」「動物から人間への感染予防~動物を飼う時の注意~」「犬と仲良くなろう」「心臓の仕組みと役割・聴診器を作って心音をきこう」などといったテーマでお話しや動物を連れていく訪問授業をしています。最近では少し数が減りましたが、今でも自分の母校だけには毎年呼んでいただいています。
最後に、今後の獣医療についての先生の展望をお聞かせください
大学入学時に学長がお話しされていた「獣医師の一番の仕事は、人の健康を守ること」という言葉を訪問授業の時は必ず子供たちに話します。動物のお医者さんといえば、一般の方は我々小動物獣医師のことを連想しますが、獣医師の多くは縁の下の力持ちで仕事もあまり知られていません。大動物であれば、酪農家に適切な情報とアドバイスと決断が必要ですし、食の安全や環境の安全は獣医師にかかっています。
我々小動物臨床獣医師も、動物を治すことだけでなく、飼い主さんの健康に留意していくことが大切なのだと思っています。家族の一員が健康でなければ、飼い主さんの心の健康は維持できませんし体にも影響を与えます。その逆も然りだと思います。動物の治療に成功しても飼い主さんの満足に繋がらないこともあれば、治療に効果がなくても感謝していただけることもある。これからの獣医療は遺伝子治療や再生医療など今まで以上に激変していくと思います。しかし、時代は変わっても「HAB」の考え方は不偏だと思います。人と動物の絆を大切にした獣医療の精神や「ワンヘルス」という考え方は、多くの獣医師が実践しており、そして、引き継がれていくと思います。