Veterinarian's interview

インタビュー

動物を助けることが人も助けることになれば嬉しい 動物を助けることが人も助けることになれば嬉しい

動物を助けることが人も助けることになれば嬉しい

南が丘動物病院

菅野 信二院長

兵庫県 三田市

南が丘動物病院

菅野 信二院長

兵庫県三田市において、多くの獣医師と最新の設備を擁し、日々の治療に取り組む南が丘動物病院。それを束ねる院長の菅野先生は、心から動物を愛する温厚な紳士である。「環境に恵まれた」「人に恵まれた」としきりに仰る謙虚な姿勢こそが、成功の秘密なのだとお見受けした。
ご自身が国内で初めて学会発表された手術例についても淡々と語られ、自慢するような素振りは微塵も感じさせず、「好きで始めた仕事」「自分で選んだ仕事」だから何ごとも苦にならないと穏やかに微笑む姿が印象的だった。そんな菅野先生の歩まれた道のりと現在の病院の様子などについて、じっくりと語っていただいた。

contents 目 次

まず、菅野先生が獣医師を志された背景についてお聞かせください

子供の頃からいつも近くに動物がいて、自分でもこれまでに様々な動物を飼ったものです。根っからの動物好きでしたので、動物を助けてあげられる仕事に就きたいと思っていました。

獣医学科を卒業した人は、大動物診療、小動物診療の他に公務員や製薬関係、食品関係などの方向に分かれるのが普通です。しかし、昔は小動物診療で食べていくことが厳しく、どの道を選ぶべきかと少し迷いました。在学中に父を亡くしましたので、よりシビアに人生設計を描く必要があったわけですが、母と兄の応援によって、自分の念願であった小動物の臨床に携わることができるようになりました。

卒業後は、故郷の大阪市で勤務されたのですね

初めに勤務した岸上獣医科病院は、全国でも小動物診療の草分け的な存在でした。院長先生は特に外科医として秀でており、アメリカの学術雑誌にも論文を投稿されていました。また手術器具、診療器具を常に考え発案、特許を取得するようなアイデアマンでもあり、私も多くのことを学ばせていただきました。獣医師としては11PMに出演するなど、初めてマスコミに出た人でもあります。卒業後にご縁あって勤務させていただいたのがこの岸上獣医科病院で、本当に良かったと思っています。

現在は息子さんの代になり獣医再生医療の先端治療も行っています。当院でもご指導いただき骨折や骨癒合不全、椎間板ヘルニア、また腎不全、肝硬変、自己免疫性疾患、膵炎などにも活用しています。

研修医時代の出来事の中で印象に残っていることはありますか?

大学卒業が近づき小動物臨床に進むかどうか進路に悩んで相談に行った時に、岸上先生とこんな会話があったことを覚えています。

「どんな世界でもトップになればメシは食える。トップになりたいか?」
「はい、なりたいです」
「よし、俺がトップにしてやる」

カッコイイ先生でしたね。労苦は厭わず、夜間救急でも何でも全部受けておられました。住み込みで修行している我々研修医も皆集まって、先生の診察も見学すれば、手術の助手も行い、何でも現場で覚えていきました。特に先生の手術を実際にたくさん見せていただいたことは凄い財産になっています、当時一般的に2年間の研修で開業する方々が多かったわけですが、開業までに手術1000頭、研修3年間と言われて、みっちりと鍛えていただきました。学術書も十分に無かった時代ですのでこの病院の実地で育った同僚たちは活躍しているものが多く卒業後も良いお付き合いをさせていただいています。

現在菅野先生が取締役の一人として参加しておられる葉月会について、お話を聞かせてください

多くの小動物開業獣医師は相当な激務をこなしています。昼間の診療以外にも個人で夜間救急に対応される先生方も多く、若くして体調を崩してしまう獣医師の友人を多く見てきました。開業者個々の負担を軽減するためネオベッツが日本ではじめて夜間救急病院を作りましたが、大阪の北部にも夜間救急病院を創りたいとのことで趣旨に賛同する獣医師たちで出資し1998年に北摂夜間救急動物病院ができました。

その後、葉月会を株式会社として立ち上げ、現在200以上の会員病院を擁しております。夜間救急病院だけでなくセミナー、勉強会を開催、高度医療、手術、専門診療の提供をしています。夜中の勉強会には若い人を中心に常時70人から120人が集まっており獣医師の卒後教育を通じてのレベルの底上げと獣医師同士の横の繋がりに貢献しています。

2013年8月には北摂ベッツセンターを新たに立ち上げ、夜間救急だけではなく日中の医療機関の連絡調整などもより綿密にスムーズに行えるよう進化してきています。

CTなどの高度医療機器が検査・治療に対してもたらす効果についてお聞かせください

細部にわたり小さな病変も見つけることができる。腫瘍を摘出する時に切除範囲がわかる。血管や組織などの解剖が正確に把握できるので手術が的確になる。メリットは言い尽くせないほどあります。

また、手術することは大切ですが、手術をすべきかそうでないかも十分検討しなければなりません。犬や猫に悪性腫瘍が見つかったとします。病巣部を手術によって摘出すれば、再発せずに完治する例も多いのは人間と同様です。しかし、発見時にすでに他の臓器などに転移していたとしたらどうでしょうか。この場合は残念ながら手後れです。手術は余計に寿命を縮めることに繋がりますから、手術はせずに苦痛の緩和を主眼とした治療で余生のQOL向上を図ることになるでしょう。この時CTがあれば転移しているかどうかの診断がつくのに、わからなかったために切ってみた、転移していたためにすぐ死んでしまったでは動物を無為に苦しめることになります。私は、動物たちをそんな目に遭わせたくはありませんでした。

飼い主さまにとって、生活を共にされている動物は家族と同じです。家族の身を安心して預けられる動物病院でありたいと考えたのです。

不必要な手術を避ける一方で、難しい手術にも果敢に挑んでいらっしゃいますね

誤解のないように言っておきますが、必要がある場合は手術を積極的に行うことは大切なことです。手術すべきなのに高齢を理由に手術ができないと思っている方々が結構多いことに驚きます。勿論、無謀な手術はするべきではありませんが。

猫の甲状腺機能亢進症の手術はまだまだ行っている病院が少ないですね。当院で甲状腺の手術を行うようになったのは20年以上前に、自分の飼い猫を手術したのがきっかけです。当時日本ではまだまだ症例も少なく、甲状腺機能亢進症によって心臓や腎臓にダメージを受けた老齢猫は手術には耐えられないという意見、また片側はよいが両側摘出は不可とする意見が多く、飲み薬でコントロールを試みるのが一般的な治療法でした。内服させると甲状腺の数値は良くなるのですが全身症状が全て良くなるわけではありません。このまま内科治療をしていても弱っていくだけだと、猫が16歳の時に日本では初めての報告になる両側摘出手術に踏み切り、結果的に元気に回復しました。

それ以来、老齢猫の手術も両側摘出手術も適応症例であれば躊躇わずに対応しています。勿論、飼い主さまへのインフォームド・コンセントが大切なことは言うまでもありません。

猫の場合は、犬と違って健診率の低さも問題ですね

そうですね。私がいつも声を大にして猫の飼い主さまにお伝えしていることは、とにかく定期的に健康診断を受けていただきたいということです。猫の飼い主さんは99%以上の方がうちの猫は元気と答えると言われています。

しかし決して猫だけが病気が少ないということはありません。先ほどの甲状腺機能亢進症は9歳以上の猫の1割が罹患していますし、関節炎は12歳以上の9割が罹患していると言われています。偶然レントゲンに写った関節をみると、関節炎がかなり進行していることが多く驚かされます。腎不全が多いことは皆さんもよくご存じだと思いますが、早期発見すると長生きできるのですが多くの子が尿毒症になった末期の状態で連れて来られることが多く、また高血圧で両目失明した状態になって来院されます。

うちの猫は病院にいくのが嫌いだからという理由で病院になかなか連れてこない方がおられますが、そういう方には尿検査だけでもとお勧めしています。糖尿病、甲状腺機能亢進症、初期の腎臓病、高カルシウム血漿、尿管・膀胱・腎結石、泌尿器系腫瘍、肝障害などが発見できることもよくあります。できれば、聴診、触診、視診、体重測定だけでも判断ができる病気もあり、元気で長生きして貰うために、定期的に健康診断を受けに動物病院を訪れていただきたいと思います。

最後に、今後の獣医療についての菅野先生の思いをお話しください

私が動物病院を開業してから、もうすぐ30年になります。大学で学び始めた頃から数えるとさらに長い年月が経ち、その間の獣医療の進歩には目覚ましいものがあります。今後も進歩を続けていくことでしょう。

獣医療が進歩してきたのと同時に、飼い主さまの意識も変わってきています。私たち獣医療に携わる者としては飼い主さまとのコミュニケーションを大切にし、飼い主さまと動物との絆に医療面、健康面から最善の関わり方をしていきたいと思います。私たちの動物病院でできる最良の治療を提供する一方で、他の医療機関へのご紹介も必要な場合は速やかに行い、且つ予防医学にも力を入れていきたいと考えています。人と動物双方の健康と福祉をトータルに考える方向に、時代はますます進んでいくことと思います。当院もスタッフ一同、力を合わせて貢献してまいりたいと考えています。

hospital information 施設情報