Veterinarian's interview

インタビュー

引き受ける治療の内容を、私たちの感覚で線引きしてはいけない、そうするべきではないと考えています 引き受ける治療の内容を、私たちの感覚で線引きしてはいけない、そうするべきではないと考えています

引き受ける治療の内容を、私たちの感覚で線引きしてはいけない、そうするべきではないと考えています

日本小動物医療センター

白石 陽造代表理事

日本小動物医療センター

白石 陽造代表理事

動物たちの体調の悪化は時を選ばない。
例えば夜遅くに突然、動物が体調を崩したら…。
かかりつけの病院では対処できないような大病を患ったら…。

動物病院は国内に数多く存在するが、日本小動物医療センターは一般的な動物病院ではカバーしきれない夜間診療と高度化する専門診療の受け皿の役割を担う二次診療施設として、2004年にその歴史をスタートさせた。今回は、この病院の設立に携わり、代表理事・センター長を務める白石陽造先生に日本小動物医療センターの成り立ちや、自身が考える二次診療機関の必要性、獣医療の在り方など、様々なお話を聞かせていただいた。

contents 目 次

白石先生が獣医師を志したきっかけはどのような出来事でしたか?

私が幼い頃は動物病院自体がほとんど無いような時代だったのですが、5歳か6歳の頃に近所に動物病院が出来たことで、獣医師というものの存在を知りました。その時、直感的に「自分は将来獣医師になる」と感じたのです。正直、「なりたい」と感じたのか、「なる」と感じたのか、記憶が曖昧ですが…。

当時、家で飼っていた犬には手を出しては噛まれることの繰り返しで、今でも手に噛まれた跡が残っているくらいですが、動物を怖いと感じることがなかったのが我ながら不思議です(笑)。

これまでのご経験の中で、特に印象に残っていることはありますか?

私は2004年に、現在は公益財団法人となっている日本小動物医療センターの前身となる診療施設の設立に携わりました。その時のことは今でも印象深く覚えています。

私が個人病院(白石動物病院)を開業している埼玉県狭山市の周辺には、動物の夜間救急病院や大学病院などの専門診療を行う施設はありませんでした。飼育されている犬猫への意識が「ペット」から「伴侶動物(コンパニオンアニマル)」へ変わり始めていた時代、つまり動物が家族と認識される立場に変わりつつあった時代であり、飼い主さまが求める高度な獣医療を提供できる施設が必ず必要となるであろうと考え始めていました。 その頃に、米国で腫瘍の専門医を取得した小林先生が帰国し、日本でがんセンターを設立したいと考えていることを知りました。そして、当財団の評議員である狩野幹也先生(鶴ヶ島市開業)らと共に現在の日本小動物医療センターの前身となる日本小動物医科学研究所を立ち上げたのです。

二次診療を行うためには可能な限りの設備を整える必要がありますが、開業当初は診療件数が少ないことが予想され、がんセンターのみでは病院維持が困難となると予想し、当時私の個人病院に月5件~10件ほど近隣開業獣医師から依頼をいただいていた椎間板ヘルニアやその他の手術を全て当センターに依頼し治して貰い、狩野先生と夜な夜な画像診断及び手術を実施し、さらに我々自ら夜間救急診療を行うことによって、病院の維持を行ってまいりました。

3年程、がんセンター、夜間救急、画像診断、手術など昼夜を問わずがむしゃらに働いた結果なんとか軌道に乗り、獣医師・看護師・コメディカルスタッフが徐々に増え、現在に至ります。

二次診療施設というポジションで治療を行うにあたって、どこまでが二次診療かという線引きはあるのでしょうか

当院は二次診療機関であり、夜間救急を除いてはかかりつけの先生からのご紹介をいただいてから来院していただく手順となっています。院内にはMRIやCTといった高度検査機器を備えていて、これらは腫瘍の他にも椎間板ヘルニアや、脳内の異常の検査など、様々な場面で活躍しています。また、この施設では各科の診療をその分野に特化した先生が行うことで、医療そのもののクオリティを高度に保っていて、私自身、各科をお任せしている先生方には全幅の信頼を置いています。

しかし、医療的な領域として「ここからが二次診療」というような線引きをしているわけではありません。例えば、女性の先生が柔らかい雰囲気で外科を行わない環境で開業している病院があったとして、普段の予防や内科的な治療はもちろん可能だと思いますが、とても大きなワンちゃんが避妊・去勢の手術を目的として来院された場合、手術台に上げるだけで一苦労となってしまいます。そうなると、その病院にとっての二次診療は大型犬の避妊・去勢手術も含まれるということになってくるわけです。

依頼を行うか否かの境界線は紹介元の先生が設けるべきであり、私たちが治療を引き受ける内容を、私たちの感覚で判断してはいけない、そうするべきではないと思っています。

これからの獣医療はどのように発展していくと思いますか?

より高い専門性が求められ、結果的に二次診療施設と呼ばれる機関は増えてくのではないかと思います。もちろん、一般の診療施設も必ず必要ですが、地域ごとに各分野の専門性を持った施設が必要とされてくる。そして人間の医療がそうであるように、さらにその先の言わば三次診療施設についても、現在よりも数を増やしていくのではないでしょうか。

もしそうなるなら、今度は人材が足りないという問題が発生してくる可能性もあるので、私たちは専門性を持って治療を行える獣医師の育成も積極的に行っていくべきだと考えています。

ただ、どんなに高度な医療を行うとしても、飼い主さまとのコミュニケーションは必ず必要であり、その基本は動物のことを考えてのものであるべきですよね。飼い主さまのお考えは様々ですが、その動物の病気をなんとかしてあげたいという気持ちは強く持っておられると思いますし、それは私たちも同じです。お互いがその動物のことを考えて、どちらかが意見を押し付けることなく良好なコミュニケーションを行っていければと思います。

飼い主さまが獣医療に対する意識が変化してきたのは、いつ頃からなのでしょうか

例えば腫瘍を患っていることをお伝えした時に、諦める飼い主さまも多い中で、徹底的に治療してあげたい方や、完治が難しくてもその動物のために何かやってあげたいと考える方が増えてきた頃でしょうか。具体的には昭和の終わりから平成に入る頃がその境目だったように思います。

予防の考えが浸透したことにより平均寿命は目に見えて伸び、高齢ならではの病気にかかる動物が増えてきたというのも原因かもしれません。さらにその頃から質の良いフードを与える風潮や、犬を屋内で飼育する環境が一般的になり、飼い主さまが獣医療に対して求めるレベルも一段高くなったように思います。

小動物の臨床に対して、白石先生が興味深さを感じるのはどんなところでしょうか

先程もお話ししましたが、私たちは動物だけでなくその飼い主さまと正面から向き合いコミュニケーションを取ります。飼い主さまは、とても楽観的な方やその逆の方など様々ですが、飼い主さまが暮らしの中で感じる動物の状態についての違和感、何がどうという話ではなく「何か変だぞ」という感覚を抱いた時は、ほとんどの場合何らかの異常が見つかるのです。

病院で診察している最中に一見異常が無さそうでも、飼い主さまが感じる「普段と違う」という直感のような感覚はとても当てになるもので、私たちはそういう考えで異常を探す姿勢を持っていないといけないと思うのです。

最後に、白石先生の今後の目標をお聞かせください

実はこの施設は移転の予定があるのです。現在は病院のキャパシティに対してお預かりしている動物が多いという状況なので、物理的な意味でスペースの問題の解消と、人員の増加が当面の目標です。

また、もう一点は後進の獣医師の育成についてです。従来では専門医の育成を行うのは米国が主体でしたが、今後はこの施設から専門医の先生を輩出していけるような環境を作っていきたいと思っています。 飼い主さまに対しては、本当に困ったときに最終的に頼って貰えるような、信頼して来院していただけるような病院にしていきたいと思っています。