contents 目 次
- 獣医師を目指したきっかけ
- 皮膚科の分野に興味を持った経緯
- やりがいを感じる時
- 診察時の問診で飼い主さまにお伺いすること
- 皮膚病のきっかけになる要因について
- 飼い主さまに治療方法を提案する際に心がけていること
- お薬の処方の仕方について
- お薬を利用する飼い主さまにアドバイスしていること
- ワンちゃんのアレルギーの現状
- ワンちゃんの皮膚病の早期発見・治療に繋げるために、普段から注目すべき点
まずは、平岡先生が獣医師を目指したきっかけを教えてください
元々、子供の頃から動物が好きだったということもあるのですが、自分の犬がフィラリアに罹ってしまったことがきっかけとしては大きいですね。
今でこそ安全性が高くて飲みやすいお薬が普及していますが、昔はきちんとしたフィラリアのお薬が無く、ワンちゃんの体に負担の大きい薬品を動物病院から処方されていたようで、嘔吐したり、ご飯が食べられなくなったりと苦しむわけで、そういった姿を間近で見て、「どうにかこの子を助けたい」という思いから獣医師になりたいと思うようになりました。
全科での診療が基本の獣医療の中で、皮膚科の分野に興味を持ったのはどういった経緯だったのでしょうか?
一般診療を行う中で、どうしても完治に至らない皮膚病の子がいたのです。皮膚病治療には適切なシャンプーをしてあげるということもセオリーに含まれているのですが、その子の場合、シャンプー後に疾患部分が別の場所に移動していたり増えたりしていて、食事内容やアレルギーの有無など色々と考えたのですが、結局原因が特定できず一時的に改善する程度でした。
教科書通りだけでは上手くいかないと、皮膚病治療自体の奥深さに触れたことで「もっと皮膚科の勉強をしたい」と思うようになり、私も皮膚科専門の病院で学ぶことに決めました。そこには一年を通して、ワンちゃんの皮膚に悩む方々が多く訪れており、状態が相当悪いものや、一般的な動物病院では見ることも稀な皮膚病など、様々な症例を診ることもできました。
獣医師になってやりがいを感じる時はどんな時ですか?
最近では室内犬が当たり前の時代になってきて、飼い主さまとワンちゃんとの距離も近くなっていますので、夜は一緒に寝ているという方も少なくないと思います。
ですが、皮膚病を患っている子は、夜中や明け方に痒くなると体を掻いて欲しいので飼い主さまを起こしたり、鳴いたり、それによって寝られないというご家族さまもなかにはいらっしゃいます。そういった方々から「ワンちゃんの皮膚病が治ったので、私達も寝られるようになった」と連絡が来たりすると嬉しいですね。ワンちゃんだけでなく、飼い主さまも普段の生活が取り戻せたわけですからね。
診察時の問診ではどういったことを飼い主さまにお伺いするのでしょうか?
皮膚病はその要因として本当に様々なことが考えられます。
ワンちゃんが普段食べている物や飲んでいるお薬の種類、生活環境の様子、お散歩やシャンプーの頻度などは勿論のこと、いつも過ごしている場所はフローリングなのかカーペットなのか、シャンプー剤の種類は何か、お散歩ではどういったコースを歩いているのかなど、より細かな部分までワンちゃんの情報をしっかりとお伺いしています。
そのため問診に初めて来診される場合長めにお時間をいただいています。一見同じように見えても、実は一種類でなく複合的皮膚病だったという場合もあり、場合によってはお薬を用いることなく、食事内容やシャンプーの回数を変えることで皮膚疾患を改善させることもできるかもしれませんので、些細なことでも遠慮なくお話いただければと思います。
皮膚病のきっかけになる要因は他にどんなことがありますか?
例えば季節的な要因(湿度と気温)の変化に伴って、皮膚病の発症度合いも変わってきます。ジメジメした梅雨の時期などは皮膚病が出やすい時期なのですが、そういった時期が過ぎると少し皮膚病が落ち着く場合もあり、それを治ったと勘違いされる場合も多く、そのまま病院に行かずに放っておいてしまうと、また来年の梅雨の時期に発症してしまい、それを繰り返すことで症状も酷くなり、慢性化してしまう恐れも有ります。
一見治ったと思っても、きちんと動物病院に連れて来てしっかり見せることが大事ということは、よく飼い主さま方にアナウンスしていますね。早期に治療を行うことで結果的に費用や期間も軽く済みますからね。
飼い主さまに治療方法を提案する際、心がけていることはありますか?
皮膚病を治すには飼い主さまの協力が必要不可欠で、こちらがご提案した方法を飼い主さまに信用していただき、普段の暮らしの中で実践していただけなければ高い効果は見込めません。そのためまずは飼い主さまに納得していただけるご説明ができるよう注力しています。
症状によっては根気強く長い期間取り組まなければ治療の効果が感じられない場合もありますので、飼い主さまが諦めないよう、長くても続けられる方法を一緒に考えていきます。そして長い期間にまたがる治療を行うことは、飼い主さまの心身にも疲労を与えてしまいますので、経過についてのポジティブな情報は積極的にお話しするようにしています。
お薬の処方の仕方にも特徴があると伺っています
そうですね。当院では皮膚病のお薬を錠剤ではなく、粉薬(ワンちゃん毎にお作りしているオーダーメードのお薬)にしてお渡ししています。粉末にすることで体重に応じた薬の量をミリグラム単位で綿密に計算して処方することができ、ワンちゃんに余分な負担を最小限に抑え、病状に対してより適切な量を与えることができるんです。また、お薬が無くなる前に、服用してからの様子を伺う為に見せに来てもらうようご案内しています。
調子が良くなってきたのに強いお薬をあげ続ける必要はありませんので、様子を見て減量や種類を変えるなど、ワンちゃんの体にかかる負担を少しでも軽減できるよう心がけています。
お薬を利用する飼い主さまにアドバイスしていることはありますか?
一言でお薬の服用と言っても、やり方一つで負担なく、スムーズに行えます。一口で与えられるよう、チーズ等に練り込ませて一日に必要な量を分けて与えるなど、ワンちゃんにストレスをかけずにお薬を与えるテクニックが幾つかありますので、そういった点に関しても丁寧にご説明しています。お薬を飲ませる時間帯は、朝、夕、夜に設定していますので、日中働かれている方でもクリアしやすいといった特徴もあります。
ワンちゃんのアレルギーでお悩みの方も増えてきているとのことですが、実際はどうでしょうか?
そうですね、最近はノミ、ダニの死骸やダニの糞などを含んだ粉塵によるハウスダストが原因のアレルギーを持つ子が多いように感じます。しかしご自宅の粉塵を全て取り除くのは難しいことだと思います、抗ヒスタミン剤などの処方に加えて、シャンプーを控えるようご案内しています。勿論、通常であればワンちゃんの体を洗っても問題はありませんが、アレルギー持ちの子に関しては、ワンちゃんの体表面の皮膚バリアを崩さないようにすることが大切です。
時には治療に年単位の時間が必要となる場合がありますので、皮膚治療の中でもより根気強さが必要になってきます。例え完治が難しくても、生活への支障をできるだけ下げて普通の生涯を送れる程度にまで症状をコントロールすることであれば不可能ではないと考えています。
皮膚病の早期発見・治療に繋げるためには普段からワンちゃんのどういった点に注目すべきなのでしょうか?
例えば人間の子供でも指を咥えないと眠れない子がいますが、その瞬間は指が赤くなっていても翌朝には治っていますよね。ワンちゃんも同じで、掻くこと自体は普通の行為です。問題なのは掻いた後にその部分が赤く腫れたり、血が滲んだり、名前を呼んでも掻くことが止められないことなのです。
掻いている様子だけでなく、掻いた後の皮膚の様子を常日頃からしっかり見てあげてください。排泄物の様子を確認することも大切で、例えば便の硬さからもその子が栄養過多か否かがわかります。体型と皮膚病とでは一見無関係に感じますが、体が痩せている子は皮膚に栄養が届きにくく、皮膚病の治りも遅くなってしまいます。痩せ気味の子には一日の摂取量を増やすよう指導しています。もちろん、太り過ぎると別の病気にかかってしまいますので、バランスを見ながらですね。