Veterinarian's interview

インタビュー

症状が出ない段階で病気を見つけることの重要性を説き、腫瘍の早期治療に取り組んでいます 症状が出ない段階で病気を見つけることの重要性を説き、腫瘍の早期治療に取り組んでいます

症状が出ない段階で病気を見つけることの重要性を説き、腫瘍の早期治療に取り組んでいます

南大沢どうぶつ病院

保坂 創史院長

南大沢どうぶつ病院

保坂 創史院長

2004年に東京都八王子市で開業した南大沢どうぶつ病院には、ホームドクターとしての一般診療は勿論、突出した分野の専門性を頼りに遠方から足を運ぶ飼い主も多い。
院長を務める保坂創史先生は特に腫瘍科診療に対して深い知見を有し、現在では臨床と並行して大学病院での研究にも取り組む実力派だ。
衰えることのない探求心を持って日々の研鑽に力を注ぐ保坂先生に、獣医療の何たるかを語っていただいた。

contents 目 次

初めに、保坂先生が獣医師を志すことになったきっかけについてのお話を聞かせてください

「これで人生が変わった!」というようなドラマチックな出来事があったわけではないものですから、これはなかなか難しい質問ですね(笑)。

元々理系科目が好きで、大学も理系志望だったんです。進学のために自分の将来について具体的に考え始めた時に、自分の好きな理系で、且つ大好きな動物に関わる勉強をしたいと思い、獣医学科への進学を決めました。

これまでのご経験の中で印象に残っている出来事はありますか?

開業当時は副院長を務めている妻と2人だけで診療していたので、受診に来た飼い主さまを待たせることが多く、本当に申し訳なかったですね。あとは常に寝不足で、まだ若かったとは言え、なかなか辛かったことを覚えています。

その頃はまだ夜間救急の施設が少なかったため、診療時間外でも急患があると24時間体制で対応していました。文字通り昼夜問わず診察を行い、休診日は大学病院に研修に伺っていました。それを何年も続けていましたので、今思い出してみてもハードな毎日だったと思います。

そうした期間を経て、先生の診療方針はどのようなものに定まっていったのでしょうか?

病気を治したり予防したりすることによって、動物だけではなく、その子と暮らしているご家族の皆さまにも幸せになって欲しいというのが、私の考えの基本です。

私は腫瘍科に対して特に注力して取り組んでいますが、時には症状がかなり進行してしまっている子と出会うこともあります。その際にも病気の事実を全て飼い主さまに伝え、その子にとって一番良い治療を飼い主さまと一緒に考えて探していく。勿論、厳しい状態での来院の場合は、飼い主さまの様子を見ながら伝え方の工夫はしています。

日本と海外の腫瘍科医療を比較してどのように感じていますか?

腫瘍科をはじめとした日本の獣医療のレベルは非常に向上していると思いますが、やはり世界的に見てもアメリカの獣医療が一番進んでいるという思いはあります。

ただ、腫瘍の診療に対してアメリカ人は日本人とは違うようで、治らない動物や苦しんでいる動物に対しては安楽死をより多く選択する傾向があります。それは辛い思いをさせないようにと趣旨のもと行っていることですが、日本人の場合は、最後の瞬間まで苦しまずに一緒に過ごしたいという考えをより強く持っているように思います。

実際に行うことが多い腫瘍に対する治療法は、どのようなものがありますか?

外科手術・抗がん剤・放射線治療がメインとなります。つまり、主な治療法は人間の腫瘍と同じと考えて良いでしょう。お薬も人間のものを流用して投与しています。

動物用の抗がん剤では、肥満細胞腫を対象として一種類だけ認可されているものがあり、これは別種のがんにも応用できるのではないかと、世界的に試されています。少ない副作用で効果が期待できるので、最近はまずそれを投与し経過を見るというケースが多いですね。症状の進行が激しい動物の飼い主さまの中にも、投薬を希望される方が多くおられます。

抗がん剤と聞くと、副作用や再発のリスク、投薬期間など心配される方も多いのではないでしょうか?

勿論、投薬の際には効果の発揮と副作用の抑制を両立するギリギリの調整を行い、常に状態を見ながら飼い主さまとの相談を欠かさずに、判断を行っています。腫瘍の種類や症状、状態によって変わりますので、期間は一概には言えません。

例えばリンパ腫というがんの場合には、症状が落ち着けば(寛解)抗がん剤を20週間前後で休薬することがあります。その後に再発(再燃)をしてしまったら、抗がん剤を再開します。

また、手術適応外のがんや転移が認められる場合には、メトロノミック化学療法と言って、比較的長期間抗がん剤の投与を続ける場合があります。

根治の難しい病気に対して飼い主さまは動物に何をしてあげればよいでしょうか?

出来る限り接する時間を長くしていただいて、一緒に楽しく過ごしていただくのが良いと思います。傍で見守り、病状の変化を見逃さないようにしてください。食欲や吐き気、下痢の有無を報告していただき、状態に合わせた対処や治療をしていきましょう。そうすれば動物も気持ちを楽に過ごしていけるのではないかと思います。

普段の暮らしの中で、腫瘍の兆候を発見することはできるのでしょうか?

皮膚の腫瘍の場合は、スキンシップを積極的に取ることが気づきのきっかけになりますよね。また、口の中も腫瘍が発生しやすい場所ですので、歯磨きなどの際によく観察することをおすすめします。

そうでない場合、残念ながら行動で発見できるようなケースは少なく、行動に現れるのは吐き気や下痢といった一般的によく見られる症状になってしまいます。しかし、そのような変化を見逃さず病院に足を運んでいただいても、異常行動が現れるころには手遅れというケースも多くありますので、早期発見に関しては日頃の健康診断をお勧めしています。

先日も咳などの症状もない状態で受けた健康診断で、肺がんが見つかった子がいました。そのように早い段階で発見が出来れば根治が見込めるものもありますので、健康診断の大切さについては声を大にして広めていきたいですね。

最後に、保坂先生の今後の目標を聞かせてください

今後もしっかりとした診察で、数多くの動物を元気にしたいです。昔はCTとかMRIを使った本格的な検査はなかなか行えず、放射線治療もあまり一般的ではありませんでしたが、現在ではそういった検査や治療が行えることで、早期発見・早期治療もできるようになりました。

これからも動物たち一匹一匹と正面から向き合いながら、楽しく元気な生活を送ってもらえるよう見守っていきたいと思います。