Veterinarian's interview

インタビュー

「人と動物の絆」を何よりも大切にし、様々なサポートを実施しています 「人と動物の絆」を何よりも大切にし、様々なサポートを実施しています

「人と動物の絆」を何よりも大切にし、様々なサポートを実施しています

南大阪動物医療センター

吉内 龍策院長

大阪府 大阪市

南大阪動物医療センター

吉内 龍策院長

人と動物の関係は時代の流れと共にその姿を変えてきた。両者を繋ぐ絆がさらに色濃くなるに伴い、動物医療に求められるレベルも向上の一途を辿ってきた。1980年に大阪市平野区に開設された南大阪動物医療センター(旧名:吉内動物病院)はその時代の過渡期の中で、飼い主と動物達の生活を支え続けてきた動物病院だ。
この病院の院長を務める吉内龍策先生に、自身が胸に抱く動物医療への思い、高度医療の在り方、今後の展望などのお話を聞かせていただいた。

contents 目 次

まず初めに吉内先生が獣医師を志したきっかけを教えてください

元々自宅が農家で犬や猫、耕作用の牛などを飼っていたこともあり、幼い頃から動物は身近な存在でした。ある日、自宅で飼っていた犬が事故に遭ってしまったのですが、その時に連れて行く動物病院が自宅周辺に無くて困ったという経験があります。そのことが獣医師を目指す大きなきっかけだったと思います。

この地域で飼われている動物に何らかのアクシデントが起こった際には、すぐに診療してあげられるような獣医師になりたいと中学生の頃には思っていました。その後、幸いにも獣医師になることができましたので、自宅を改装しこの地域の動物達とそのご家族のために動物病院を開設しました。

獣医師になってやりがいを感じるのはどのようなときですか

それは勿論、ご家族の皆さまに喜んで貰えた時ですね。人と動物の寿命を考えると、基本的には動物が先に天寿を全うします。つまり、獣医師は動物を一生涯に亘って診させていただくことになるのです。初診時には子犬だった子が成長して成犬になり、やがて老いていきます。その過程において様々な病気やケガを治療し、感謝もされ、その動物に対する深い思い入れが生まれます。

そして最終的には最期を看取ることになるのです。ご家族の皆さま同様悲しみに沈みつつも、「ありがとう」の言葉をいただいたとき、獣医師の使命を果たすことができたという安堵感に浸ることができるのです。

これまでのご経験の中で特に印象に残っている出来事はありますか?

昔の話ですが、当病院に慢性腎不全の猫が来院しました。食欲が全くない状態で、ご近所の病院で点滴を長期間受けておられ、根本的な治療法がないこともご存じで、もう先が長くないと諦めかけておられました。腎不全の終末期を迎え、施すべき治療もそう多くはありません。

この子にどんなことを望んでおられるのですかとお尋ねすると、もう一度だけご飯を食べさせてあげたいと仰ったのです。注射器に高栄養の缶詰のパテを詰めて食べさせてあげても良いですかとお聞きして試してみました(専門的には強制給餌といいます)。

するとどうでしょう、全く食欲が無さそうに見えた子が、口を動かし缶詰を美味しそうに食べてくれたのです。それから幾日もご飯を食べさせてくださいと猫ちゃんを連れてこられたのでした。

腎不全に対し水分と電解質を補給する点滴も大切な治療ですが、動くためのエネルギーや体蛋白の維持のために食物を給与することも同じくらいに大切です。最近では消化管を動かすことが免疫力を維持する上で大きな役割を果たしているとも言われています。何よりチューブを胃に入れて栄養を流し込むのではなく、口を動かして物を食べるという自然な行為は、その後の舌でペロリと唇をなめる「美味しい口」と称される満足気な仕草に繋がります。

この経験がきっかけでもうひと汗かくプラスアルファの治療を心がけるようになり、強制給餌を希望される方もずいぶんと増えました。そのときの猫ちゃんとお母さんの嬉しそうな表情は生涯忘れることができません。

吉内先生が、獣医師として一番大切にしていることは何でしょうか

「ヒューマンアニマルボンド」という言葉があります。これは「人と動物の絆」のことで、私が一番大切にしている言葉です。その絆が壊れないようにずっと守りサポートしていくことが動物病院の使命だと考えています。

現在の動物医療の世界では高度医療を求めるご家族の方々がおられる一方で、必ずしも侵襲的で苦痛を伴う医療を望まれないご家族の方々もおられます。それはどちらが良いということでもありません。したがって、押しつけではないインフォームドコンセントに基づいて、獣医師とご家族が共に考えながら最良の治療法を模索していく、その過程が「絆を大切にする医療」の基本であり、最も大切なことだと考えています。

「人と動物の絆」がご家族を幸福にし、社会を豊かにしてくれることに、疑いの余地はありません。その「絆」と真っ直ぐに向き合うことこそ「獣医道」精神の真髄なのだと考えています。

高度医療について先生のお考えを教えてください

私は動物の二次診療を実施しているネオベッツVRセンターの取締役を務めるなど高度医療の最前線で仕事をしていた経験がありますが、その中で「高度医療が常にベストであるとは限らない」ということも学んできたつもりです。

先ほどお話ししたこととも関係してきますが、我々が一番大切にしなければならない「人と動物の絆」は、今後時代がどれだけ進んだとしても本質的に変化することはありません。あくまで大切なのは、その「絆」がそこにあることによって動物達もそのご家族もより幸福になれるということであって、高度医療を含めたすべての医療はそのための手段にすぎないということです。当然のことですが、私は高度医療に対して否定的というわけではなく、今後沢山の動物を救うためには高度医療がさらに進展する必要があると思っています。

動物医療において、実際に高度医療が実施される機会は多くあるのでしょうか?

最近は動物医療の世界でも、CTやMRIを始めとする画像診断機器を必要とする症例が少なくありません。特に頭蓋内疾患に関してはMRIを有効活用することにより、脳腫瘍やけいれん発作などを迅速かつ正確に診断が下せるようになりました。医療機器がめざましい進化を遂げるにつれて、症状が軽度の段階でも診療を開始することが可能になりつつあります。動物への負担も以前よりは軽くなっているのではないでしょうか。

当院でも、新しい知識や技術を積極的に吸収し、治療の現場に還元できるよう前向きな姿勢を持っています。

今後の動物医療の進展について、先生はどのようにお考えでしょうか

動物を取り巻く環境と動物病院のこれからについて、私が思っていることをお話したいと思います。

まずは動物を取り巻く環境に関してですが、生活環境の変化や医療の高度化による診療費の高額化など、現在は以前と比べて動物を飼うことのハードルが上がっていると感じています。医療側でも動物とそのご家族の方々に対して様々なサービスやアドバイスを、これまで以上に積極的に実施していくことが求められると思います。

また、動物病院のこれからについては、地域の動物病院が担当する一次診療と比較的大きな動物病院で高度な診療を提供する二次診療という二極化が進んでいくことは間違いないと思いますが、当病院ではその隙間を埋める1.5次診療の必要性を感じています。ホームドクターとしての一次診療の機能を持ちながら、重篤動物に対するクリティカルケアにも対応する二次診療の機能も併せ持ち、特定の専門分野は他の二次診療病院とタイアップしてカバーできるようなハイブリッド病院。常に安心してご利用いただける病院を目指していきたいと思います。

吉内先生が会長を務める大阪市獣医師会では社会貢献活動も行っておられると伺っています

大阪市獣医師会は大阪市に在住する獣医師により構成される公益社団法人で、動物愛護推進事業や「人と動物の共通感染症」対策事業、野生鳥獣保護事業などの公益事業を積極的に実施しています。

その中でも大阪市中央公会堂と大阪城公園で開催されている「大阪動物愛護フェスティバル」は、人と動物が共に暮らす楽しさや終生飼養などの適正管理を普及啓発するイベントであり、本会の最も大切な事業の一つです。イベントは長寿動物の表彰や一日獣医師体験など動物を飼っていない方でも楽しめる内容で気軽に参加していただくことができますので、ぜひご参加いただきたいと思います。

また、特定の所有者がいない地域猫の不妊・去勢手術を行うTNR活動を積極的に実施し、大阪市「街ねこ事業」として大きな評価を得ています。

最後に、このページをご覧になる飼い主さまにメッセージをお願いいたします

当病院に来院される動物のご家族の方々にお話していることを、このページをご覧の皆さまにもお話したいと思います。

今いる子が老齢に差し掛かった頃に、二代目を迎え入れようというお勧めです。老け込んできたように見える子が刺激を受けて若返るという効果も期待できます。何より、ご家族の方のペットロスのダメージが大幅に減少することが報告されています。それぞれに違った個性を持つ動物たちと暮らし、年長の子の最期を年少の子と共に見送る。こんなに心強いことはありません。「一緒に暮らすのはこの子だけ」とこだわらずに柔軟に二代目を迎え入れることを考えていただきたいと思います。

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