contents 目 次
- 獣医療を志したきっかけ
- 開業前からこれまでの経緯
- 産業動物と小動物の臨床における目的の違い
- 印象に残っている出来事
- 鍼灸や漢方などの中医学を取り入れたきっかけ
- 小動物の医療において、中医学が特に効果を発揮する場面
- 中医学に関心をお持ちの飼い主さまへのメッセージ
まず初めに、校條先生が獣医療の道を志したきっかけについてお話を聞かせてください
子供の頃から動物が好きだった気持ちはもちろんですが、直接のきっかけとなったのは別の理由でした。中高一貫校に通い、学生時代の大半を柔道とバンド活動に明け暮れていた僕は、正直あまり将来について考えていなかったんです。高校三年生になり、いよいよ進路について考える時期になり、真っ先に浮かんだのは学校の先生でした。
しかし僕には好きな科目もなく、成績も優秀と言えるほどではなく…(笑)。
先生は向いてないかもしれないと悩んでいた時に、獣医療の道を志すという友人に触発され、獣医師の仕事について色々調べてみるうちに興味が湧いたのです。もしその友人が別のことを言っていたら、獣医療という選択肢に気づかず他の道に進んでいたのかもしれませんね。
ご自身の病院を開業される前は畜産分野でご活躍されていたと伺っています。これまでの経緯をお聞かせください。
動物のお医者さんというと、犬や猫といった小動物の病気を治すお医者さんというイメージを持たれる方が多いかもしれませんが、僕の場合は動物と同時に農業にも強い興味を持っていました。ある時新聞で紹介されていた、北海道で牛の獣医師として仕事をしながら、シンガーソングライターとして活躍する先生の姿に感銘を受け、僕自身も将来は畜産の獣医師になろうと思っていました。
大学卒業後にはその予定通り千葉県で牛や豚といった家畜の診察に明け暮れ、農家の人と手を取り合いながら、食料の生産に獣医師として携わることにやりがいを感じていましたが、様々な事情があって自分の病院を開業することを決意しました。小動物の臨床についてしっかり学び直す意味も兼ねて愛知県の動物病院に勤務したのち、実家のある多治見市に戻って開業したという訳です。
今思い返してみると、ずいぶん遠回りをしたようにも思いますが、畜産動物の診療で得た経験が小動物診療の現場で活かされることもあり、これまでのそれぞれの経験一つ一つが、今を作っているのだと思っています。
実際に小動物の臨床にフィールドを変えてみて、それまでとの大きな違いはありましたか?
小動物に関わってみると、予想していたよりも遥かに興味深かったですね。
牛や豚などを相手にする畜産分野においては、「治す」こと自体が最終目的ではありません。例えばもう治すことができない、これ以上医療費をかけられないといった場合、お肉になって貰うという選択をすることもあります。農家を守るためにも、その判断こそが大切なんです。
しかし小動物臨床では動物を治すことそのものが何より大切です。まるで違った世界があり、この違いの大きさに初めは戸惑うこともありましたが、治療によって動物たちが次第に元気を取り戻し、その姿を見た飼い主さまに喜んでいただけるのは、本当に大きなやりがいだと感じています。
これまでのご経験の中で印象に残っている出来事はありますか?
これまで沢山の動物達・飼い主さまとの出会いがありましたが、そんな中でも特に印象に残っているのは、おばあちゃんと犬、一人としばらく入院していました。その間も、おばあちゃんは毎日ワンちゃんのお見舞いに来てくれていました。
その後容態が落ち着き無事に退院したのですが、しばらく経ったある日、おばあちゃんとワンちゃんが楽しそうに一緒にお散歩している姿を見かけたとき、大切なパートナーである動物を治すことがどんなに嬉しいことかを実感しましたね。
校條先生が注力されている鍼灸や漢方など中医学を取り入れた診療について伺います。 こういった医療に着手されたきっかけはありますか?
中医学と出会ったのは、友人である獣医師に誘われた香港で活躍する先生の鍼灸セミナーでした。講義と実技の講習を受けるうちに、その魔法のような効果に圧倒されましたね(笑)。本当に驚きました。
残念なことにその先生のセミナーを受けることはもう叶いませんが、教え子たちが集まり技術を引き継いでいくための勉強会「師温会」を立ち上げられ、そこに僕も参加することになったのです。この会には、医師、鍼灸師、そして獣医師など多くの方が参加され、今でも年3回の勉強会が開催されています。それに併せ、獣医療にも鍼灸や漢方を取り入れていこうという動きが始まり、僕自身も勉強した知識を活かし、診療に取り入れていくようになりました。
小動物の医療において、中医学が特に効果を発揮するのはどういった場面でしょうか
症例として多いのは、椎間板ヘルニアなどの運動器疾患ですが、難治性の皮膚病、ストレスからの心の不調にも有効です。特に犬猫にも最近増えていると感じるのがストレス性の症状ですね。
人の治療と同じように西洋医学では症状のある治療を行う際、その箇所に直接アプローチしていくことに対し、中医学では症状のある部分だけでなく、体全体を診るのが特徴です。体は全て繋がっているので、悪くなっている部分だけでなく、その症状がどこから発生しているかを判断し、体全体の調子を整えていきます。
中医学に関心をお持ちの飼い主さまへメッセージをお願いいたします
鍼灸などの中医学、東洋医学は「気の医学」と言われています。目に見えないものやエビデンスが無いと信じられない、という声もありますが、ホリスティック医学では、人や動物の体のほとんどはわかっていないとされ、だからこそ色々なことを試してみるべきという考え方もあります。
鍼灸はきちんとした理論に基づいて行われ、効果が実証されている医療であり、歴史を振り返ってみても、日本の縄文時代の頃から中国でずっと続いている医学です。歴史の風雪に耐えていまだに続いている医学であるという点に目を向けても、その重みが感じられると思います。人も動物もなぜ病気になるのか、それは本来の自然な姿からずれることによって、その矛盾が病気として表れるということです。だからそれを元の姿に戻してあげることが大切であり、それが治療です。
病気とは、本当は悪いものでなくて、本来の自然な姿ではないことを教えてくれているお知らせですので、その声に耳を傾け、病気のサインを見つけられるかどうかが、動物を治療していく上で大切なことであると考えています。