contents 目 次
- 獣医師を職業に選んだきっかけ
- 病院のコンセプト
- 個々のスタッフが伸び伸びと働ける環境づくり
- 病院の規模を拡張していくにあたって苦労したこと
- 高度検査機器の導入について
- 「ジェネラリスト」に対する考え
- 周囲の人との関係性について
- 病院の今後の目標
尾崎先生が獣医師という職業を選ばれたきっかけは何ですか?
高校で進路を決める時期になって、候補に挙げた職業が三つありました。建築士とイチゴの改良、そして獣医師です。結局獣医師の道を選ぶことにしたのは、高校の時に通っていた塾の先生方の影響が大きいですね。現役の大学生だった先生方は卒業して就職されるわけですが、1年以内に辞めて弁護士や会計士を目指されるという方も多くいらっしゃいました。やはり資格を持って独立性の高い仕事をするということが、将来のためにはよいのかなと考えさせられた出来事でした。
そういった気持ちで足を踏み入れた獣医療の世界ですが、私も今でも獣医師になって本当によかったと思っています。
なるほど。では、もしも尾崎先生がイチゴに興味を持たれていたら、この素敵な病院も無かったわけですね。
素敵かどうかはわかりませんが(笑)。しかし、病院を「居心地のよい空間」にしたいと考えてきたことは事実です。スターバックスについて書かれた書籍を読んでいて、業種は違っても人が過ごす場所に「居心地のよさ」が大事なのは共通することだなと思ったのです。当院のロゴマークを見ていただくとそれがわかりますよ(笑)。
動物たちと飼い主さま方にとっての「居心地のよさ」はもちろんですが、それは働いてくれるスタッフにとっても大切なことだと考えています。獣医師や看護師、トリマーたちにとっての「居心地のよさ」とは、互いに能力を生かし合い、尊重し合える快適な職場環境という意味です。個々のスタッフが常に意欲と向上心を持って仕事に取り組むことが、病院全体の質の向上に繋がっていく。そのための「居心地のよさ」を追求しています。
大勢のスタッフの方を率いるには、尾崎先生のリーダーシップも必要ですね
私自身、強力なリーダーシップを持ち合わせていません。ですから、個々のスタッフがおのおのの持ち味を生かして、自分の能力を発揮してくれればいいと考えています。当院の診療は主治医制をとっていますので、飼い主さまの方にも、「この獣医師とは合わないな」と思えば、気軽に担当を変えても構いませんとお伝えしています。
また、一定のシフトで勤務が不可能なケースではライフスタイルに応じて勤務時間なども個々に相談に乗るようにしています。こちらで枠を作って働いてくれる人をそれに当てはめるのではなく、それぞれの持つ個性を殺さず自然体で伸び伸びと働けることが、その人の持っている実力を最大限に発揮できることに繋がると考えています。それが本人のためであり、動物たちと飼い主さまのためであり、病院のためにもなるということです。
病院の規模を拡張していくにあたって、特にご苦労されたことはありましたか?
それが、実は特別な苦労したという意識がないのです。トリミングもホテルもパピーパーティーやしつけも、私がやりたくて始めたというよりも、他の獣医師の先生方との交流が始めるきっかけとなったり、必要に応じて始めようになったりといったケースがほとんどです。自然体で「やるべきこと」をやっているうちに、多くの方に支えられて今の病院が出来上がったと思っています。
私が子どもの頃はこの地域には動物病院があまりなく、私の母も時間をかけて遠くの病院まで足を運んでいましたので、この病院ができたことによって地域の飼い主さま方と動物との暮らしが少しでも安心できるものになっているのなら嬉しいと思います。
CTなどの高度検査機器を導入されていますが、こういった機器の導入はご開業当初から視野に入れていたのでしょうか?
高度検査機器の導入も、先ほどお話しした内容と根本的な考えは同じです。例えば、飼い主さまに必要とされている医療があり、それを行うには自分の技術では足りない、だから教えていただく。または、知識や技術があっても設備が無いために治療が行えない、だから可能な範囲で導入する。
獣医療は、人間の医療と比べると細分化されておらず診療分野が広範囲に及ぶため、症例の少ない病気であればベテランの獣医師でも初めて目にするというケースもあります。中には標準的な治療法が確立されていない病気、正しく診断するのが難しい病気など、さまざまです。日々が勉強の連続ですし、勉強したことを実際に生かそうと思えば、そのための機械設備も必要です。その繰り返しで、必要に応じて機器類も少しずつ充実させてきたわけです。しかし当院の方針としては、先進医療、高度医療よりも、まずはジェネラリストであることを大切にしています。
「ジェネラリスト」とは、「家庭医」「総合診療医」ということですね
その通りです。当院で特に得意としている分野には、外科疾患・アレルギー性疾患・循環器疾患などがあります。得意な分野を持つことはもちろんよいことですが、私たちジェネラリストにはそれと同じくらい「不得意な分野がない」という要素も求められます。
治療については初めに行う診断を正しく迅速に行わなければなりません。初動対応を誤ると、後の経過も悪くなってしまいます。そういったことの無いよう、信頼できる一次診療施設でありたいということを最優先としています。その上で高度医療に関しては、当院で可能な限りの治療を行うことが飼い主さまの安心と利便性にも繋がると考えて取り組んでいます。けれども、他の医療機関で手術をお願いした方がよいと思われる場合は、できる限りスムーズにご紹介させていただくということも大切です。
そういった連携は、他の医療機関の先生方とも良好な関係を築いていなければ行えませんね
そうですね。所属している学会や研究会の中には奈良動物臨床研究会といって、奈良県下の開業医仲間で勉強会を行う場があります。他には(公)奈良県獣医師会があり、私にとって非常に風通しの良い団体です。腹を割って話のできる仲間の存在は大きいですよね。
臨床分野、学術分野、飼い主さま方やスタッフとのコミュニケーションなど、課題はいくらでもありますし、仲間の話から問題解決へのヒントを与えられることもよくあります。最先端医療について新しく情報交換する時などは、みんな子どもに返ったようにドキドキワクワクしながら集まって勉強していますし、助言してくださる大先輩もいてお世話になっています。私は本当に周りの人に恵まれて、助けてもらっていると感じています。
最後に、これからのおざき動物病院の目標をお聞かせください
当院は本当に、「こうなりたい」という明確な目標の元に今の形を作ってきたわけではないのです。本当に自然体で、その時の目の前の課題を解決するために絶えず試行錯誤を行ってきた結果です。
今の病院をさらに安定させ、飼い主さま方と動物たちに日々真摯に向き合う中で、また新しい出会いが生まれ、その出会いがきっかけとなり何か新しいことが始まるのかもしれません。目標としては、10年後、20年後に、より進歩していると思われる獣医療の中にあっても、皆さまに愛され、必要とされる動物病院であり続けることです。