Veterinarian's interview

インタビュー

正しい治療を広く伝えることで、人と動物が楽しく暮らすためのお手伝いができればと思います 正しい治療を広く伝えることで、人と動物が楽しく暮らすためのお手伝いができればと思います

正しい治療を広く伝えることで、人と動物が楽しく暮らすためのお手伝いができればと思います

豊平動物病院 いぬねこデンタルサービス

北村 龍司院長

北海道 札幌市

豊平動物病院 いぬねこデンタルサービス

北村 龍司院長

獣医療はその発展と共にその専門性を高め、現在では各分野で専門的に治療を行い活躍する獣医師も少なくない。今回お話を伺うのは豊平動物病院いぬねこデンタルサービスで院長を務める北村龍司先生。自らの経験の中でその必要性を認識し、歯科に重点を置いた診察を行っている同氏が胸に抱く歯科医療への理念、現在の動物歯科の現状、今度の展望など、存分に語っていただいた。

contents 目 次

北村先生が歯科医療に着目するきっかけとなったのはどんな出来事でしたか?

もう20年以上のことです。お恥ずかしい話ですが、あるワンちゃんに歯石取りの処置を行った後、飼い主さまからお𠮟りを受けたことがありました。

この出来事が私の中にずっと引っかかっていたことで、「正しい治療とは何か」考えるきっかけとなったのです。改めて勉強してみると多くの反省点が見つかると同時に、浅はかな知識や技術では全く及ばない専門知識の必要を認識しました。人間の分野で「歯科医」が独立した存在であるのは、ちゃんと意味があるわけですね。

「正しい治療」とは、正しい病状の判断と原則に従った治療ということです。「経験値だけでの診断や治療」は、その時うまく行ったように見えても、時間が経つと綻びが露呈してしまいます。加えて、歯と歯の周りの組織は身体の中で唯一自然治癒できない組織なので、病状を長引かせないためにも、正しい知識と治療技術は必須と言えるでしょう。

現在身に付けられている技術や知識は、どちらで勉強されたのですか?

学会(日本小動物歯科研究会)での研修を受け始めたことと、この分野での先駆者である東京のO先生から厳しい指導を受けたことがスタートでした。エビデンスに基づいた施術経験のある歯科医や歯科衛生士、口腔外科の先生からも多くの技術を教えていただき、徐々に専門性を高めた治療も可能になってきました。

学会の研修では座学と実習を行い、その難易度に応じてレベル1からレベル4まで認定されます。特に難しいのが歯の神経を取り除く治療でアメリカではその専門医がいるほど難易度の高い処置です。

具体的に豊平動物病院ではどのような歯科治療が行われていますか?

動物の歯科診療は、道具を使って歯の状態を確認する触診を行い、レントゲンを撮影して歯の根幹と骨の関連を正確に検査しなければ正しい診断はできません。当院ではどの症例に対しても、見た目だけで判断するのではなく、正確な検査を行うことを大前提としています。

症例でいうと、歯周病の治療はもちろんですが、折れてしまった歯を残すための歯内治療や、不正咬合の矯正治療、口腔内腫瘍を取り除くための顎骨切除などを行っています。最近では口と鼻腔がつながってしまった子の治療や、チワワの顎骨嚢胞の治療も増加傾向にあります。

この顎骨嚢胞という病気は人間の親知らずのように、歯が乳歯から永久歯に生え変わる時に歯茎の中に留まってしまった歯が「嚢胞」というものを作り、歯をブヨブヨにしてしまう病気です。3歳くらいまでに発見できればいいのですが、長年気がつかないままだと大変なことになります。

実際に治療を行う症例で特に多いのはどんな病気ですか?

犬猫を対象とした歯科症例で最も多いのはやはり歯周病だと思います。ある統計では、成犬の80%以上が罹患しているというデータが出ているほどで、トイプードルやチワワなどの超小型の犬が多い現代では、重篤な症状になってから来院されるケースも多く見受けられます。

極論かも知れませんが、歯周病は歯の病気でありながら、「骨の病気」でもあるのです。ステージが進めば進むほど、下顎や上顎の骨が破壊されていき、超小型犬の場合は症状の進行も非常に早いのが特徴です。

歯周病が重度になると、歯周病菌が常に全身を循環することになるため心臓や腎臓にも悪い影響をもたらし、呼吸器への感染も起きることがあるのです。ヒトの医療において、肺炎で亡くなるお年寄りを減らすために、口腔衛生がもっとも大切と言われるように、老犬・老猫の健康にも歯周病の治療は重要です。

特に小型犬の罹患率が高いのには理由があるのでしょうか?

超小型犬が歯周病にかかりやすいのには理由があります。例えばミニチュアダックスは、スタンダードダックスを改良して小さくした犬ですが、実は歯の大きさだけはスタンダードダックスと同じです。細く薄い顎の骨に大きな歯が乗っかっている状態なので無理がかかってしまうのです。持って生まれた顎の形が歯周病の原因になるので、飼い主さまが献身的にケアを行っても100%予防が出来るとは言えないのが実状す。

歯周病は痛い病気ではなく北海道弁で言えば「いずい」、つまりむず痒かったり、不快感があったりします。少しずつの変化が分からず、気づいたときは重度になっていることがありますので、飼い主の皆さまには愛犬が口周りを気にしている様子がないかどうか特に注意して見ておいていただきたいですね。

現在行っている研究についてお話を聞かせてください

ここ数年の大きなトピックは骨再生治療でしょうか。歯周病のステージが進んでしまうと、顎骨の破壊が進みますが、破壊された部分に骨を再生する治療が可能になってきました。これは、歯の内部にある「象牙質」という組織を用いた技術で、当院と北海道医療大学の口腔外科との共同研究で良い治療成績が出ています。この方法を用いることで、抜歯せざるを得なかった歯を温存できる可能性が高まりました。

また、歯科分野以外では腹腔鏡を用いた手術を行っています。やはり傷が小さく済み、研修や経験を積めば安全性の高い手術だと思いますが、より良い手術をするためも、定期的に海外での研修を受講するようにしています。腹腔鏡手術はすでに西日本の動物病院ではかなり標準医療に近くなってきた方法ですが、道内ではそこまで普及していないのか、当院に道内各地から手術をご希望される方がいらっしゃいます。

今後の獣医療はどのように変化していくとお考えですか?

既に獣医療においても、人間と同じく専門医を受診するのが常識になりつつあります。例えば札幌市内では各分野に専門性を高めた治療を行っている先生がおられますので、分業で動物の健康を守れる体制が出来つつあるのではないでしょうか。

歯科の分野では、以前から「いぬねこ歯科塾」という臨床獣医師のための勉強会を主宰してきました。これは、これからの若い先生方にも原則にしたがった「正しい治療」を伝えていきたいからです。犬猫の口腔の健康は、一緒に暮らす飼い主さまの健康にも有益であることは間違いないので、人と動物が楽しく暮らすための小さなお手伝いができれば嬉しいです。

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