Veterinarian's interview

インタビュー

神経外科というハードな戦いに挑むからこそ、徹底的に手術計画を練り万全の体制で治療にあたっています 神経外科というハードな戦いに挑むからこそ、徹底的に手術計画を練り万全の体制で治療にあたっています

神経外科というハードな戦いに挑むからこそ、徹底的に手術計画を練り万全の体制で治療にあたっています

烏城ペットクリニック

長井 新院長

熊本県 熊本市

烏城ペットクリニック

長井 新院長

熊本県南区、県道50号沿いに佇む烏城ペットクリニック。
島原湾にほど近い閑静なこの場所で日々の診療を行うのは、自身が得意とする神経外科疾患をはじめとした数多くの診療分野をカバーしながらも、あくまでもかかりつけ病院としての診療スタンスを貫く長井新先生だ。
「より大きく発展し、技術が向上して現在の治療法が大きな転換をする可能性を秘めていると期待している。」と将来の展望を語る言葉を裏付けるように学会発表も積極的に行い、これまでに中国地区、九州地区の獣医学術学会賞も受賞している。
絶えず研鑽を積む日々の中で見えた獣医療の展望、自身のこれまでの歩みなどを聞かせていただいた。

contents 目 次

初めに、長井先生が獣医師を志したきっかけについてお話を聞かせてください

子供のころの私は山や川に毎日遊びに行くほどで、自然と生き物に触れる機会は多くあったんです。実家ではウサギやリス、亀などの小動物を飼っていました。そんな環境もあってか生物学にとても興味があり、生物や自然の仕組みの複雑さ・緻密さに高校生の頃に感動し、それを学べるところに進学したいと思ったことが獣医学部を目指したきっかけです。

大学入学当初は研究者になると思っていたのですが、獣医学部2年生の時に飼い始めた猫の存在により、同じように動物を家族の一員として大切にする飼い主さまの力になりたいと思い、小動物臨床を志すようになりました。

これまでのご経験の中で、特に印象に残っていることはありますか?

末期がんの猫ちゃんのお誕生日祝いがとても印象に残っています。飼い主さまの努力と献身的なサポートで4カ月の闘病生活を経て10歳の誕生日を迎えることができた猫ちゃんだったのですが、スタッフが自発的に考えみんなで意見を出し合い相談し、誕生日ケーキの形をしたメッセージカードと猫ちゃんのイメージに合うお花をサプライズでプレゼントしたんです。

残念ながら現代の獣医療で有効な治療がないケースであっても、今大切な時間をより輝いたものにしてあげたいという気持ちをスタッフ全員が共有し、自ら動いたということがこれからの病院の誇りになると感じた出来事でした。

長井先生が院長を務める烏城ペットクリニックについて、実施しておられる治療内容はどういったものでしょうか

「ペットの一生に寄り添うこと」を基本スタンスとして、地域のかかりつけ病院のポジションで病気の予防、食事や飼育相談、健康診断も行っているほか、産科、皮膚科、腫瘍科、眼科、整形外科などほとんどの診療科と、広範囲な疾患の内科治療・外科治療に対応しています。

ペットに起こりうる健康の問題は、病気になる前からのケアも大切ですので、病気になる前の段階からしっかりと対応できる動物病院でありたいと考えています。もちろん、専門性の高い治療や検査が必要な場合は二次診療施設への迅速な紹介を心掛けています。

加えて、神経疾患の診療においては他院から専門的な判断が必要とされる診察の依頼をお受けすることが多く、内科療法はほぼ全ての神経疾患に対応しています。治療が難しい、または状態の悪い患者の治療を依頼されることもあり、椎間板ヘルニア、環椎軸椎不安定症、後頭骨後部形成不全症候群(COMS)、水頭症、一部の脳腫瘍などは当院で治療に対応しています。

数ある治療分野の中から長井先生が神経外科に注力したのはなぜでしょうか

修行先の病院でMRI検査や神経外科を任せていただけたことがとても大きなきっかけになりました。また、全国の神経専門の先生方と知り合うことができたことも幸運でした。その動物病院は紹介によって多くの難治症例を受け入れる病院でしたので、ご家族にとっては最後の砦のような存在で、責任感を常に強く感じる日々でした。

「今回の検査で必ず診断を下し、ご家族もかかりつけ病院の先生も治療に困らないようにしよう」
「世界で初めて発見される病気であったとしても見つけよう」
「手術を任されたからには何としても成功させよう」
こういったことをいつも考えていました。

神経外科はとてもハードな戦いを挑まなければならないことが多く、まだまだ手術方法も確立されていない病気もあります。脳や脊髄はとてもデリケートで、数ミリ手元が狂うだけで永久的な麻痺がでる危険をはらんでいます。だからこそ、徹底的に手術計画を練り十分に準備をして、手術台の患者の前に立つようにいつも心がけています。

神経外科について、多く目にする症状はどんなものでしょうか

手術を必要とする椎間板ヘルニアの患者は年々減ってきている印象があります。日本での飼育頭数がミニチュアダックスからチワワやトイプードルに逆転していることも影響があるかもしれません。これらの犬種で良く起こる神経の病気は脳炎、水頭症、後頭骨後部形成不全症候群(COMS)、脊髄空洞症、環椎軸椎不安定症などがあり、脳炎は内科療法で治療する病気なので、神経外科が必要とされるのはそれ以外の病気になります。

ペットの高齢化が進んだことと、MRI検査を受ける患者が増えたことで脳腫瘍が発見される機会が増えています。脳腫瘍は脳のいたるところにできるのですが、比較的脳の表面にできた摘出しやすいものから、生命に直結する部位を巻き込んだ手術困難なものもあります。動物医療にとって脳神経外科は今まさに発展している分野です。

神経系の不調で治療にのぞむ際、飼い主さまに知っておいていただきたいことはありますか?

病気に対するご家族の方の理解がとても重要になる病状として代表的なものに、てんかん発作あります。とても派手な症状で、意識を失って泡を吹き、全身を強く震わせている状態を初めて見た時には誰しもがパニックになってしまいます。しかし、発作=重症ではなく、発作のタイプや起こり方によって緊急性も大きく異なり、獣医師が最も知りたいのは、発作中にどのような状態であったか、何分ぐらい発作が起こっていたか、一晩に何回ぐらい発作が起きたかといった様子です。

発作がもし起こった際には、ケガをしないように周囲を防護し、努めて冷静に観察してください。可能であれば動画を撮影しておくと診察の大きな助けになります。5分以上痙攣が続いている場合や、発作が数連発している時には病院へすぐに連絡しましょう。そうでない場合は落ち着いて病院を受診し、発作について説明を受けて理解を深め治療に臨むとよいでしょう。

動物との暮らしを楽しむ方々へのメッセージをお願いします

当院のスローガンの1つに「できるだけやってあげたいは、病気になってからだけでなく病気になる前から」という言葉があります。この言葉が多くの飼い主さまに届くことを一番に願っています。病気になって苦しむ家族を目の前にすると誰しもができるだけのことをやってあげたいと思うものですが、そもそも病気にならないようにあらかじめ手を打つことの方がより重要だと思います。

感染症の予防や定期検診は動物たちを病気にしないようにあらかじめ手を打つ優れた方法です。人間の医療では「予防医学」という考え方が浸透しているように、動物たちにも予防医学を当たり前のように受けさせてあげられる社会になってほしいと切に願います。

最後に、長井先生の今後の目標を聞かせてください

動物の神経病はまだまだ未解明な部分が多くあり、技術や知識もさらに発展させられる可能性があると思っています。九州・日本の獣医療だけでなく、人間の医療や世界の獣医学からも知識を吸収し、さらに新たな発見や治療法を発信できる病院になりたいというのが夢であり目標です。

動物病院は様々な分野の治療を一手に引き受けており、この点が人の医療制度とは大きく異なる部分です。しかし近年の高度医療へのニーズに一人の獣医師が応えきることは現実的に困難であり、その解決のためにも院内での専門医同士のコミュニケーションや他病院との連携を欠かさず、患者に最善の治療法を提供できる病院像を理想に掲げています。

この理想の実現のためにも、病院を訪れてくれるご家族やペット、支えてくれるスタッフや地域の方一人一人を大切にしていくことが最も重要なことだと考えています。

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