Veterinarian's interview

インタビュー

西洋医学と中医学を融合した医療で症状に合わせた治療法を 西洋医学と中医学を融合した医療で症状に合わせた治療法を

西洋医学と中医学を融合した医療で症状に合わせた治療法を

とよなが動物病院

豊永 眞弥院長

大阪府 八尾市

とよなが動物病院

豊永 眞弥院長

「とよなが動物病院」は近鉄大阪線、近鉄信貴線河内山本駅から徒歩7分ほどの場所にある。近くに恩智川が流れ、新興住宅街が佇むこの一帯はとてものどかな場所だ。院内に入ると天井が高く、木の温もりを生かした優しく温かい雰囲気が心を落ち着かせる。医学には西洋医学と中医学があるのをご存じだろうか。それぞれの良い面を取り入れた中西結合医療に力を注いているのが、院長の豊永眞弥先生である。「なるべく負担のかからない治療を行いたい」と話す豊永先生に今回『中西結合医療』に対する熱い思いを伺った。

contents 目 次

豊永先生が獣医師を目指したきっかけを教えてください

小学生の頃初めて飼った犬が、フィラリア症という病気でこの世を去ったことがきっかけですね。病気を患っていると知った時は既に末期状態だったため、診てくれる動物病院がなく、もどかしさが苦しく胸に迫る思いでした。当時は幼かったこともあり「なんで先生は診てくれないんだ!」と怒りと悲しみが混合していましたね。

大好きな愛犬の死を目の当たりにした時「治してあげられる力が欲しい…」と強く思ったことが獣医師を目指す大きな力となり、今の自分があるのだと思っています。

獣医師になって嬉しかった瞬間を教えてください

当院は、一般診療と合わせて鍼灸治療を行っています。鍼灸治療は鍼や灸を用いて刺激を与え、治療や予防を目指す中国医学、いわゆる中医学のことを言います。以前「どこの病院に行っても治らなくて…」と来院された子を鍼治療によって徐々に回復傾向へ導けた時は嬉しかったですね。

また、元気になった子たちの様子を飼い主さまから年賀状やお手紙などで知らせてくれるのですが、「元気に過ごしているな」と思い、嬉しい気持ちになりますね。

鍼灸治療を取り入れたのはどのようなきっかけがあったのでしょうか?

当院が本格的に中医学を取り入れたのは2001年頃なのですが、それまでずっと西洋医学の治療だけでは限界があるのではないかと考えていました。

その時、一冊の本と出会い、中医学の素晴らしさを知ったのがきっかけで鍼灸治療を取り入れるようになりました。その本の著者は日本ペット中医学研究会会長であり、国際中獣医学院日本校校長でもある獣医師の石野孝先生でした。本の内容は人間に限らず動物には無数のツボがあり、そのツボを刺激することにより病気の予防や治療効果が期待できる旨が多数記述されていました。私はこの本に感銘を受け、もっと詳しく知りたいと思い、石野先生に手紙を出しました。

手紙を出した後、何か進展はありましたか?

かなりお忙しい先生なので返事が来るか正直半信半疑だったのですが、石野先生から御連絡を頂き、東京で開催されていた月に1回の小動物鍼灸コースの受講を勧めてくださいました。私にとって目から鱗なお話しや中医学について学ぶ機会を得ることができました。

また、全国各地から集まった若手の獣医師の先生たちと一緒に中医学について沢山学ばせていただきました。その講座で知り合った先生たちとは今でも仲良くさせていただいていますし、より一層「動物のためのよりよい医療」を追求していきたいと思うようになりましたね。

石野先生に出会えたからこそ、今のとよなが動物病院があるのですね

そうですね。石野先生に出会えたことによって中医学の素晴らしさを知ることができましたし、獣医師としてのスキルを磨けることができたと思っています。これからもどんどん知識を吸収していきたいですね。

とよなが動物病院で取り入れている中医学にはどのような治療法があるのでしょうか

当院では西洋医学と併用してマッサージや指圧、鍼や灸、レーザー治療などを行っています。全ての治療において中医学を取り入れるのではなく、症状や動物たちの状態に応じて臨機応変に行っています。中医学についてあまり知らない飼い主さまにはどのような診療を行うのか、それに対してのメリットはどういったものかをわかりやすく丁寧に説明を行い、納得いただいた上で治療を進めています。

西洋医学と中医学という、二つの医学をおひとりで取り組まれるのは大変だったのではないですか

近年、人と同様癌や慢性疾患など、一筋縄では治らない病気が増えて病状を見極める力を養わないといけないと日々感じております。西洋医学での診療技術や緻密な検査によるデータと中医学による動物のバランスを保持していく考え方を合わせることによって治療に幅を持たせることが可能になり、飼い主様の満足度が上がるとさらに嬉しく思います。

中医学の治療はどのような動物たちに適しているのでしょうか

私たち人間社会でも高齢化が進んでいますが、犬や猫たちも平均寿命が年々延び、20歳を超える長寿な子も珍しくない世の中になってきました。まさに人間と同じで動物たちにも高齢化社会が当たり前の世の中になっているといっても過言ではありません。高齢化になるにつれて問題視されるのが、生活習慣病や慢性疾患などの病気です。動物たちにもガンなどの病気が増え、西洋医学だけでは限界があります。そのため、老化によって引き起こされる体調不良にはなるべく優しい作用で痛みや不快感を和らげてあげられる『中医学の治療法』が適していると考えます。

例えば、避妊手術を施した動物の中には、更年期障害のような状態に陥ってしまう場合があります。いわゆる自律神経失調症ですね。夜鳴きを始め、不眠症やほてり、動機や不安感、下痢などの症状を引き起こすことも少なくありません。そういった場合は中医学による漢方の処方やツボを刺激してあげるのが効果的ですね。

漢方による投薬はとても難しそうですね

医療用漢方製剤による治療は、それぞれの動物たちによって体質や症状などを考慮しなくてはならないので、専門的な知識と技術がとても必要となります。特に小動物についての臨床データは、西洋医学に比べて少ないのが現状です。西洋医学での投薬方法は、症状によって薬を投与するのが基本ですが、中医学ではまず「証」を診ます。

証とは、動物たちごとに異なる体質のことを表します。特に動物たちの場合は「舌診」が重要です。舌診とは望診の一つで文字通り舌の状態をよく観察し、診察をした上で薬の種類と量を決めます。珍しい動物の場合は過去のデータを遡り、その「さじ加減」を決めます。薬は量が足りなければ効き目がありませんし、量が多すぎれば毒ともなるのでここは難しいところですね。

今後、獣医療における中医学の展望についてお聞かせください

多くの飼い主さまの間で中医学はまだまだ馴染みの少ないことと思いますが、これからはどんどん認知度が高まり、必要性も増してくるのではないかと考えています。人間の医療でも西洋医学と中医学を併用し、使い分けることによってどちらか単独だけよりも高い効果が得られているデータも出ています。

動物たちのためによりよい治療の選択肢の一つとして、多くの飼い主さまに中医学についての知識を深めていただければ嬉しいですね。私も日々の診療を通じてその普及に努めていきたいと思っています。

最後にEPARKペットライフをご覧の飼い主さまへメッセージをお願いします

現代医学では、病気になると病因と症状だけを問題にしますが、漢方では一つの症状が起こると別の臓器の症状に繋がると考えます。このお互いのバランスが大事でバランスを崩さないように、また元のバランスの取れた状態に戻すことが、病気を予防することであり、健康を保つことと考えます。診察室で動物と接する短い時間だけでは、症状を追求するのに限りがあります。より詳細に調べて的確な対応を行うためには何よりも飼い主さまの力が必要不可欠です。

飼い主さまからお伺いする普段の様子や変化が見られた時の様子など、詳しく伺うことで診断の大きな手助けとなります。「異物を飲み込んでしまっているかもしれない」「数日前より下痢ではないがやや軟便になってきている」など、どんなことでも構いません。適切な診療を行うために、どうかありのまま獣医師にお伝えください。それが大切な家族を救う一つのカギにもなりますから。

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