contents 目 次
- 獣医師を志したきっかけ
- 獣医師以外の道について
- 日々の診療で心がけていること
- 飼い主さまとの関わり方について
- 循環器の病気について
- 犬や猫で多く発症する循環器の病気
- 獣医療における循環器手術の発展
- 循環器の病気にならないための予防法
- 健康診断を受診し始める適齢期
- 動物向けのホスピスについて
- 今後の獣医療について
- 今後の目標や力を入れたいこと
- 飼い主さまへのメッセージ
獣医師を志したきっかけを教えてください
獣医師という仕事に興味を持ったのは、幼少時代に道端でケガをしている犬が放置されている姿を目の当たりにしたことがきっかけです。この時「なぜ誰も助けてあげないのだろう…僕が動物のお医者さんなら助けてあげられるのに…」と強い思いが芽生えました。そこから「将来は動物のお医者さんになる!」と決意し、獣医師の道に進むことにしました。
ケガをした犬を見たことがきっかけで獣医師の道を進まれたのですね。もし、幼少時代にその犬と出会わなければまた別の道を進んでいたかもしれないですね。
そうですね、もともと私の家系は代々人間のお医者さんだったので、もしあの時ケガをした犬に出会わなければ、人間のお医者さんかまたはそれ以外の医療関係の道に進んでいたかもしれませんね。
獣医師という道を選び、長年沢山の動物たちの診療にあたってきた岡本先生ですが、日々どのような医療を飼い主さま、また動物たちに提供できるよう努めていらっしゃいますか
私は40年以上獣医師をしていますが、診療の中で動物たちの最期に立ち会う時はいつ見ても辛いものです。私たち人間を含め、全ての生き物には「命」があります。命あるものは必ず始まりがあり、また終わりがあります。そのため必ずいつかは大切なパートナーとの別れの瞬間が訪れます。
当院では、最愛のパートナーを亡くした飼い主さまがペットロスに陥ることがないように、飼い主さまが後悔を残さない医療を最期の瞬間まで行えたらと思っていますね。
飼い主さまとの関わり方について教えてください
言葉を持たない動物たちを診療するためには、飼い主さまとのコミュニケーションが必要不可欠だと考えています。そのため飼い主さまと早く信頼関係を築くためにも、こちらから積極的にコミュニケーションを取るように心がけていますね。普段の生活から症状に気づいたときの様子までしっかりとヒアリングを行い、原因を追究していきます。その後、診断結果や診療方針などをわかりやすく丁寧に説明し、飼い主さまが納得するまで何度でもお話しをさせていただいています。
当院では、状況に応じて生活環境の見直しや食事方法についてなどアドバイスをすることがあります。飼い主さまが大切なパートナーと少しでも長く一緒に過ごしていただくためにも、できる限りのサポートができればと思っています。
岡本先生は循環器の病気に対して注力されていらっしゃいますが、具体的にどのような病気があるのでしょうか
循環器の病気は、血液を全身にめぐらせる臓器である心臓や血管などが正常に動かなくなる病気のことを言います。具体的な病例を挙げると高血圧や脳梗塞、心不全や心筋梗塞などに分類されます。
犬や猫で多く発症する循環器の病気はありますか
やはり心臓病が一番多いですね。犬の場合は、慢性弁膜症(まんせいべんまくしょう)や心筋症といった病気が多いです。慢性弁膜症は、高齢の小型犬に多く見られる病気で、雌よりも雄の方が発症しやすい病気だと言われています。初期症状として心雑音や咳嗽などの症状が見られますが、この時点で適切な治療を受けずに放置したままにしておくと失神や呼吸困難などの重篤な症状を引き起こす可能性があります。
また、心筋症は大型犬に発症しやすく、心臓の筋肉が正常に動作しなくなったり、最悪の場合は突然死したりする可能性がある恐ろしい病気です。猫の場合も心筋症が多いですね。特に中年齢に差し掛かった雄猫に多く発症が認められています。また、遺伝子変異が報告されている猫種や家族性発症が報告されている猫種もいます。食欲低下や呼吸が荒くなった場合は注意が必要です。どちらの病気もやはり早期発見と早期治療がとても重要です。少しでも愛犬、愛猫の様子がいつもと違うなど違和感を覚えることがあれば、動物病院に受診していただくことをおすすめします。
循環器の病気は手術をするとしてもかなり難しいと思うのですが、現在獣医療ではどのような発展を遂げているのでしょうか
近年、獣医療の世界にも人工心肺(体外循環器)の導入が急速に進んでいることもあり、以前と比べて心臓手術の実施件数は増加傾向にあるようです。人工心肺とは、心臓の代わりに全身の血液を循環させる装置で、心臓を切開するような手術をする場合には必須の装置と言われています。
これまで人工心肺は高価なこともあり、動物病院への導入事例は少なかったのですが、最近では二次病院や専門病院を中心に導入事例が増えてきています。今後もますます導入が進むと予想されていますので、多くの心臓疾患を抱える動物を救うことができるのではないかと思います。
循環器の病気にならないためにも予防法などはありますか
循環器の病気は初期症状として無症状なことが多いので、飼い主さまはなかなか気づきにくいかもしれません。1日でも早く症状に気づくためにはやはり定期的な健康診断をしていただくことが一番の予防法ではないかと思います。
健康診断は何歳から受診することが望ましいのでしょうか
健康診断は、早い時期から始めることに越したことはありません。若いうちから受診することによって、今後検診をしたときに数値を比較することができますし、病気の早期発見に繋がるからです。中には「今元気だから大丈夫」と安堵している飼い主さまも少なくありません。
しかし若くて元気だからと言っても、いつ病気になるかわかりません。品種によっては遺伝性疾患を受け継いでいる可能性もゼロではないからです。まずは1歳のお誕生日を迎えたときに健康診断を受診してみてはいかがでしょうか。
岡本先生は動物向けのホスピスにも力を入れているそうですが、具体的にどのようなことをされていらっしゃるのですか
当院は「飼い主さまが後悔を残さない治療」をモットーとしているのですが、その一環としてターミナルケア(終末期医療)を実施する『ホスピス』にも力を入れています。
人の医療では、末期を迎える患者さまに安らぎを与え看護する施設を設けていることが多いですね。ホスピスは、治療を目的とせず「残された時間を大切にしよう」という考えから、残りの人生を自分らしく過ごしてもらい、満足して最期を迎えられるようにすることを目的としています。
ホスピスは、1960年代にイギリスから欧米に広がったことがきっかけで近年さらに重要視されるようになってきました。私は動物たちにもホスピスという考えを取り入れるべきではないかと思い、飼い主さまの意向を伺った上でホスピスを取り入れています。回復の見込みが難しい動物たちと飼い主さまが残りの時間を一緒に楽しく過ごせるよう、なるべく痛みを軽減し、最期の瞬間まで沢山の思い出を作ってもらいたいなと思っています。
現在、人の医療と同じく獣医療の世界もQOL(生活の質)を重視する傾向があります。当院のホスピスでは飼い主さまと協力して動物たちの最期の瞬間までサポートすることによって、動物たち自身のQOLを少しでも上昇させることを目指しています。
今後の獣医療について岡本先生はどのようにお考えでいらっしゃいますか
これまでの動物病院では、一人の獣医師があらゆる分野の診療を提供することがほとんどでしたが、疾患の複雑化や難治化によってこのままでは適切な治療を提供することが困難になりつつある状況です。これからは一人の獣医師が何もかも抱え込んでしまうのではなく、それぞれの分野に特化した獣医師が対応する『獣医療の分業化』が進んでいくのではないかと考えています。
今後獣医師たちは、自分が得意とする領域や関心のある領域などを中心とした専門領域を設定していく必要が出てくるのではないかと思いますね。
今後の目標や力を入れたいことがあれば教えてください
今後の獣医療は専門化や分業化が進んでいくのではないかとお話ししましたが、当院でも得意としている循環器疾患の分野に関してさらに専門性を高めていきたいと考えています。循環器疾患の中でも「心臓疾患のことなら北大阪動物病院」と頼っていただけるように、心臓疾患の診療にはより一層力を注いでいきたいと思います。また、私の娘が現在腎臓疾患について学んでいます。近い将来、娘も当院で勤務することになると思いますが、その時は「心臓疾患と腎臓疾患に関して専門的な治療を提供できる動物病院」として飼い主さまや他の動物病院に頼っていただけるように病院の基礎を作っていくことが当面の目標ですね。
EPARKペットライフをご覧になっている飼い主さまへメッセージをお願いします
どのような症状でも言えることですが、特に循環器系の病気は早期発見、早期治療が非常に大切です。早期発見に努めることによって薬に頼らない診療が可能になる場合もありますし、動物たちに対してなるべく体への負担をかけずに症状の改善を見込めるようになると思います。そのためにも飼い主さまにはただ単に一緒に生活するということではなく、早い段階で異常に気づくことができるように動物たちの体に関する基礎知識を身に着けていただきたいと思います。
当院ではご希望される飼い主さまに対し、動物たちの健康や生活環境などに関するアドバイスを積極的に実施しています。些細なことでも構いませんので、気兼ねなくご相談いただければと思います。