contents 目 次
- 上田先生にとっての動物とは
- 獣医師の道を目指したきっかけ
- 地元である愛媛県大洲市で開院した動物病院を閉院した理由
- 自然治療との出会いについて
- 漢方薬の魅力
- 鍼治療の効果について
- 漢方薬や鍼などの東洋医学の治療を施すべきだと思う病気
- 東洋医学における、漢方薬や鍼治療以外の治療法
- 飼い主さまへのメッセージ
上田先生にとって動物はどのような存在なのでしょうか
幼少の頃から動物が大好きで春はスズメのヒナを観察し、夏は川魚を追いかけ、秋はトンボを捕まえ、冬は愛犬と走り回るなど自然豊かな大州の町で動物たちと触れ合うことが日常でした。
また両親が殺処分されそうな犬たちを保護し家族の一員として向かい入れていたことから、私にとって動物は「飼う」のではなく、「いつも身近にいることが当り前の存在」でしたね。
動物との触れ合いが日常的だったことから、自然と獣医師の道も目指されたのですか
私が学生の頃は「女性には学問は不要」という風潮がいまだ残っている時代でした。その中で両親は「女性も適応に応じて学ぶことが大切であり、知識や技術を身に着けるべきだ」という考えでしたので、恵まれた環境で育ったなと感じています。
私は小さい頃から動物といることが当たり前でしたし、その生活から離れることは到底考えられなかったので、獣医師という道を選びました。
以前は地元である愛媛県大洲市で動物病院を開院されていたと思うのですが、なぜ閉院してしまったのですか
29歳の頃、地元愛媛県大洲市に「上一動物病院」を開院し、30年近くホームドクターとして診療にあたってきました。多くの飼い主さま、そして動物たちと触れ合い、毎日充実していましたし、私が推奨する自然治療に賛同していただける方も多くいらっしゃいました。
しかし、全ての飼い主さまに自然治療を推奨するわけにはいきませんし、無理に押し付けることも違うのではないかと思い始め、それならば人口の多い町で自然治療に特化した動物病院を開院することがベストなのではないかと考えました。そして、色々と物件を探している最中に縁あって大阪の町で前任者より今の場所を引き継ぐこととなり、2015年4月にやまびこ動物病院として開院しました。
自然治療との出会いについて教えてください
自然治療との出会いは、愛犬の相次ぐ死がきっかけでした。悪性のガンが原因だったのですが、当時の獣医療ではまだ抗がん剤治療は確立されておらず、どんなに手を尽くしても救うことができませんでした。私は相次ぐ愛犬の死で毎日が辛く、一時は獣医師として何もできない自分に苛立ちさえ感じていたこともありました。
そんな時、知り合いの薬剤師さんから「漢方薬を試してみたら」と勧められたことがきっかけで自然治療と出会いました。
漢方薬にどんな魅力を感じたのですか
漢方薬の一つに「湯液(とうえき)」と呼ばれる煎じ薬があります。漢方は植物が主体の自然薬なのですが体に馴染みやすいことと、また精神面を含めてバランス良く全身を治療する効果が期待でき、多症状を呈する病気を緩和し治療に導くことができると言われています。
私はその湯液を痛みで苦しんでいた犬に与えてみたところ、与えなかった犬に比べて痛みの症状が緩和されているのではないかと気付いたのです。私は「漢方薬の力は未知数だ」と感じ、より深く知りたいという思いから中医学の世界に入り、次第に魅了されていきました。そこから中医学を始め、鍼やホメオパシー、終未医療にも興味を持つようになりましたね。
上田先生は鍼治療が得意分野の一つとされていますが、鍼治療を行うことによってどのような効果が得られるのでしょうか
鍼治療とは、患部やツボを刺激することで身体のバランスを整え、機能回復を施すことのできる治療法です。鍼をただ刺すのではなく、症状に合わせたツボを刺激することで免疫力や自律神経に作用し、効果が発揮されます。
また血液やリンパの代謝を活発にすることによって筋肉の緊張がほぐれ、患部の痛みを和らげる効果も期待できますし、自然治療力も上がる働きがあると考えられています。人間の鍼治療では、神経系や循環器系など数多くの症状に対応する効果があるとWHO(世界保健機構)でも認められているほどです。つまり、鍼治療の効果は有効である技術だと認められているということになりますね。
鍼治療は心身ともに回復を促す力があるのですね。この症状には絶対漢方薬や鍼を使用する東洋医学の治療を施すべきだと思う病気はありますか
西洋医学では治すことが困難な難病の病気や腎臓、肝臓、皮膚などの病気には東洋医学を用いるべきだと考えます。
そもそも西洋医学と東洋医学では体の治し方に違いがあります。西洋医学は、投薬や手術によって悪い部分を取り除き治すことを主とした治療法です。一方東洋医学では身体の内側から治療を施す、あるいは病気になる前に防ぐ治療といえます。要するに即効性を求めて対処するのか、はたまた原因まで追究していくのかの考え方に違いがあります。
難治性の病気や慢性の病気の場合は急性の病気と違い、体質に起因するものや身体のバランスによる不調が大きいので、根本的な体質改善を図ろうとする東洋医学の考えの方が効果的なのではないかと考えます。もちろん、どちらの考え方もそれぞれに良さがあるので一概に全ての病気は東洋医学考え方に則って治療を施すべきだとは言い切れないですけどね。
東洋医学では漢方薬や鍼治療があるのは有名ですが、それ以外にも治療法はあるのでしょうか
当院ではスーパーライザー(近赤外線治療)という医療機器を用いる治療法があります。星状神経節と呼ばれる交感神経の集まりに対してスーパーライザーを照射させ、ストレスからくる痛みを和らげる効果が期待できる治療法です。スーパーライザーは障害のあるところの血行を促進し症状を緩和することや、ストレスなどで緊張している神経を平常な状態に促す効果があると言われていて、多くの病気に治療効果を発揮します。そのため、鍼治療のできない動物にも適していますし、低体温症にも効果が見込めます。ただ欠点としては、温熱効果があるので夏場の熱い時期は動物たちが嫌がることですかね。
その他の治療法としては、オゾンガスによる注腸も行っています。動物の身体への負担がない処置で自己免疫力を高める効果が望めますので、多くの飼い主さまにおすすめしたい治療法です。欠点としては、オゾンガスは持ち運びに適していないため往診での対応ができないところですね。
最後にEPARKペットライフをご覧になっている飼い主さまへメッセージをお願いします
まだまだ日本の獣医学では東洋医学の認知度は低いのが現状です。そのため飼い主さまにとっても馴染みがないのは無理もないのかもしれません。獣医師である私自身も知り合いの薬剤師さんから教えてもらうまでは、獣医療に東洋医学を用いるとは考えもしませんでしたからね。
私は、東洋医学と出会ったことで獣医師としての考え方が180度変わりましたし、動物たちの痛みを緩和させる効果があることも知れました。私が今まで学んできたこと、経験してきたことを東洋医学の治療によって多くの動物たちのQOL(生活の質)を高めることができれば幸いです。