Veterinarian's interview

インタビュー

学生時代に抱いた、人や動物の役に立ちたいという熱意は今でも忘れてはいません 学生時代に抱いた、人や動物の役に立ちたいという熱意は今でも忘れてはいません

学生時代に抱いた、人や動物の役に立ちたいという熱意は今でも忘れてはいません

神戸ピア動物病院

長田 雅昭院長

神戸ピア動物病院

長田 雅昭院長

動物の命を奪う重大な原因として認識されている腫瘍(ガン)。細かな分類の上では実に数百種類が存在し、犬・猫のみならず人の医療現場においても死亡原因の上位に位置付けられている危険な病気だ。
高度医療機器を備えた神戸ピア動物病院で数多くの重篤患者を受け入れ、腫瘍診療に立ち向かう獣医師の姿があった。この病院で院長を務め、日々その辣腕を振るう長田雅昭先生は、獣医腫瘍科の認定医の資格を有し、失意のもとにある飼い主たち、動物たちに「諦めない気持ち」を説く。その言葉に込められた「熱意」をお届けしたい。

contents 目 次

まずは、長田先生が獣医師を志したきっかけを教えてください

実は、最初は検疫や防疫と言われる海外から侵入してくる病原体から人や動物を守るような公衆衛生関係に興味を持っていたんです。ところが、大学に入ってそれ以外にも様々な勉強をしていく中で、外科や内科のような臨床分野の授業が増えてくると興味がどんどんとそちらに移り、卒業する頃には完全に小動物臨床を志すようになっていたんです。特にその当時はまだまだ後進的であった国内の獣医臨床腫瘍学という分野で、人や動物の役に立ちたいという熱意を持っていましたね。

先生にとって、獣医師としてのやりがいを感じる瞬間はどんな時でしょうか?

やはり病気の動物が元気になって、飼い主さまから「ありがとうございました」と言われたときですね。また、治療していた動物が亡くなって、暫くしてから、その飼い主さまが新しい子犬や子猫を連れて来て笑顔でその子を紹介してくれた時の嬉しさは格別ですよ。

これまでのご経験の中で、特に印象に残っている出来事はありますか?

有りすぎて一番は選べないのです。私自身は、特に腫瘍を中心とした重病患者の診察を中心としていますので、長期間献身的に治療を行っている飼い主さまや動物にはどうしても感情移入してしまいます。

腫瘍は人間にもある病気ですが、人と動物の腫瘍には違いはあるのでしょうか

やはり人と動物では種が異なるので様々な面で違いがあり、人と動物だけでなく、例えば同じ腫瘍でも犬と猫で全く性質は違います。反対に四肢に発生した骨肉腫のように、人と犬で似たような挙動をとるケースもあり、それらの中には人の腫瘍研究のモデルとなっているものもあります。性質の違いについては本当に様々であり、ここでは書ききれませんが、近年の日本では人と犬猫共に死因のトップに挙げられている重大な疾患である点は共通しています。

腫瘍の種類に関しても、臓器や組織の数だけありますので、その数は数十種類にのぼる上、診断精度の向上に伴い、益々細分化されていますので、更にその数倍になるかと思います。症例の多さで言うと、犬猫共にやはり乳腺を含む体表部に発生する腫瘍が一番多く目にするところですね。

現在の腫瘍に対する日本の獣医療について教えてください

現在、日本の獣医療における腫瘍診療は、欧米とほぼ同等と考えられ世界トップクラスと言えるでしょう。しかしながら、日本中の全ての動物病院で同レベルの治療が受けられるかというとそうではありません。その理由は、腫瘍に対する知見、情報量が増えれば増えるほど、その全てを把握し実践することが難しくなること。さらに多くの方がご存知のように、獣医師は基本的には全科診療を行っており一人の獣医師が全ての科の診療に取り組んでいます。そうなると、各科において日々の進歩が著しい現在では全ての分野の最先端を完全にカバーするのはどうしても無理があり、病院ごとの偏りが出やすくなります。

また、研究の分野では欧米との差を感じています。人の医療についても同様ですが、国内の基礎研究や臨床研究については、欧米と比べて費用、人員、設備の面で不足がちと言える状態であり、人気犬種一つ取っても違いが大きいため日本独自の研究も期待されていますが、なかなか進めにくいのが現状と言えるでしょう。

実際の腫瘍の治療の現場では、どのような手法が用いられるのでしょうか?

人間のそれと同様に、腫瘍の三大治療は、外科療法、放射線療法、化学療法となります。これらの主たる治療方法は50年以上も変わっていません。つまり、特別に夢のような新しい治療方法は存在しないということです。しかしながら、診断も含めて、それぞれの治療方法自体は日々進歩を続けていて、より確実に、より安全に、より負担が少なくなるように技術の向上が進んでいます。

先生が考える一番の腫瘍対策はどんな手段でしょうか

腫瘍に関して、特異的な検査はありません。しかし、一般的に高齢になればなるほど発生率が上昇しますので、7歳以上では1年に1回、10歳以上では半年に1回のドッグドック・キャットドックをお勧めしています。ドックの内容は、一般的な身体検査から始まり、血液検査、尿検査、X線検査、超音波検査を組み合わせます。勿論、こういった検査で全ての腫瘍を発見できるわけではありませんが、腫瘍に限らず様々な病気が見つかることがありますし、病気を早期に発見することは多くのメリットを生み出します。

今後の腫瘍治療と獣医療について、先生のお考えを聞かせてください

先述した内容ですが、人間の腫瘍治療と同様に、獣医療でも三大治療はそれぞれの分野で更に進化していき、それに伴い治療成績も向上するでしょう。また、進化を続けていけば本当の意味での免疫療法も可能になるかもしれません。しかし、それよりも重要なのはやはり早期発見です。確実な予防ができない以上、より小さいうちに発見して確実に治すことが何より重要です。

最後に、飼い主さまにメッセージをお願いいたします

家族同然の動物が腫瘍と診断されたら、強いショックを受けることと思います。しかしながら、治療をすれば根治できるケースも多く存在し、例え根治できなくても現状よりも良い状態にして、少しでも長生きしてもらえる方法があるかもしれません。

諦める前にぜひ、お近くの腫瘍治療に詳しい獣医師に相談していただきたいと思います。そして何よりも、腫瘍は早期発見・早期治療が非常に重要です。普段からご自宅で動物の身体をよく触ってください。何かできていないか調べる癖をつけてください。また、「何かおかしいな」「いつもと違うな」と感じたら、早めにかかりつけの病院に行ってみてください。動物も中年以降は健康維持のために定期検診が重要であり、検査をしていく中で腫瘍以外の病気の早期発見にも繋がることもあるかもしれません。

最後に、私たちは腫瘍で亡くなる動物を減らすため、あるいは腫瘍の症状をできる限り緩和できるように、そして、そんな飼い主さまのお力になれるように日々、努力していきます。