Veterinarian's interview

インタビュー

リハビリの方法・可能性は、私たちの想像力によって大きく膨らんでいきます リハビリの方法・可能性は、私たちの想像力によって大きく膨らんでいきます

リハビリの方法・可能性は、私たちの想像力によって大きく膨らんでいきます

動物医療センター春日

佐藤 友紀院長

福岡県 福岡市

動物医療センター春日

佐藤 友紀院長

動物の「動き」をターゲットとした医療というと、飼い主の方はどんな治療を思い浮かべるだろうか。1980年代に米国で研究を認められるようになった動物に対するリハビリテーションは、整形外科・神経外科の術後の管理というポジションにありながら、現在ではその重要性を獣医師・飼い主・動物たちにとって蔑ろにできないものにまで高めている。
今回は、福岡動物医療センター春日で理学療法の実践を行う佐藤友紀先生の元に伺った。国内理学療法の第一線で活躍する佐藤氏の言葉をご紹介する。

contents 目 次

国内では獣医療という括りの中のリハビリについて、ここまでの設備を整えている施設は少ないのではないかと思います

そうですね。このリハビリセンターは2008年に開院したのですが、当時は動物のリハビリが浸透しておらず、飼い主の皆さまも具体的にどんなことを行うのかは全く認識していなかったように思います。そこから、リハビリの重要性についての啓蒙を地道に行っていきました。最近では、動物看護の専門学校でも理学療法の授業が行われています。

国内で理学療法の認知が高まっているのは、各教育機関をはじめとした獣医療に関わる様々な場所で、多くの先生がその必要性を広めていく活動をされているからです。微力ではありますが、私自身もその一端を担えればと思っています。意味の広さを問わず、後進の育成は必ず必要ですのでまずはこの施設でも、スタッフ一人一人の育成をきちんと行い、ご利用していただく飼い主さまに正しい知識を持っていただけるように努めています。

リハビリは人間の医療でもポピュラーな存在ですが、行う内容や目的も似ている部分があるのでしょうか

リハビリテーションは、失った心身の機能を改善、回復することを目的とし、動物らしく生きていく能力を取り戻すための物理的な治療です。

人間のリハビリは社会復帰を目指すためのものですが、動物の場合は「遊びたい」「お散歩に行きたい」「トイレに行く」「ご飯を食べたい」といった行動を自由にし、生活の質を上げるためのものです。長時間使わないことで固くなった関節や細くなった筋肉、そして、それを庇うことでバランスが崩れ全身に出た影響を改善するのが目的となります。

近年での動物の理学療法に対する認知度の変化は実感されていますか?

そうですね。製薬の分野で痛み止めやサプリメントを扱っている組織が目を向けたことにより、セミナーも増え、その認識や知識は獣医師の方に広まり、飼い主さまに還元されていきます。

現在では当院も遠方からお越しいただいて診察を受けていただくケースがあり、一番遠くからは大阪から足を運んでいただいたこともありました。三か月に一回来院し経過を確認させていただいていましたが、その間もかかりつけの獣医師先生とやり取りをしたり、ご自宅でのリハビリの様子を動画で送っていただいたりして頑張ってくれました。他にも岡山県や山口県、九州内では佐世保や熊本、宮崎の方からもお越しいただいています。

今や、整形外科や神経外科の延長線上にあるものとしてリハビリも重要な存在であることを多くの方に認識していただきたいですね。 動物を飼っていない方でも理解していただけるくらいに認識が広まることが理想ですが、そうなるのはもう少し先の話ですね。

理学療法を学ぼうと考えたことには、何かきっかけがあったのでしょうか

整形外科に携わった期間に術後管理の重要性を強く感じたことが一番大きいと思います。整形外科の治療には「手術は成功したけど歩けない」という事態になることもあります。費用をかけ、頑張って手術を受けてもらって、それでも結局歩けないでいる動物たちに何かしてあげたいと思ったことがきっかけです。

その頃は理学療法が動物にもあるということをきちんと認識していなかったのですが、獣医療はその多くが人間の医療の技術から流用させる形で進化を遂げています。ということは、人間には一般的に行われている理学療法が動物にも存在すると考えるのは自然ですよね。

リハビリの処置はどんな動物にも行えるものなのでしょうか

まずはリハビリを行う前の段階として、「一般身体検査」「理学療法の検査」を必ず行います。神経や骨の状態、筋肉量、歩行解析、体重がどれぐらいかけられるかの検査のことです。検査は勿論、問診では飼い主さまから70項目以上のお話を伺うことになるので、2時間半程度のお時間を頂戴しています。そこから「リハビリ用の診察をして対象か対象外か」「このままリハビリだけで回復するか」「手術の必要があるか」というポイントを判断しています。

リハビリは飼い主参加型の治療で、必ず病院・患者(動物)・家族(飼い主さま)の協力が不可欠です。人間のリハビリも同様ですが、適切な処置で得た効果を維持するためには自宅でのメニューも並行して行うことが肝要です。そのためおうちでどのぐらいの時間を作れるかも、メニューを作成する上での重要なポイントとなります。

具体的にどんなことを行うのか、漠然としている方も多いと思います。代表的なトレーニングの例を教えていただけますか。

大きく分けると、陸上で行う運動と、水中で行う運動と、機械や道具を併用して行う方法があります。ここで言う機械や道具とは、通電の針やレーザー(低出力、高出力)、EMS、バランスボールなどにあたります。これらを症状や性格に合わせて組み合わせて、その子に合ったプログラムを構築していきます。

リハビリのメニューは、解剖学や行動学を理解し、飼い主さまとコミュニケーションを密に取っていればある程度のプログラムが浮かんできます。しかし、そこからさらに合理的で密度の高いトレーニングを思いつくかどうかは、それを指導する獣医師の想像力にかかっていると言っても過言ではありません。専用のトレーニング機器が無くても、工夫と想像力で補える要素は多く、それを怠らないことで飼い主さまからも認めてもらえるのだと思います。

効果が表れていけば、飼い主さまとの信頼関係も一層深まりそうですね

そうですね。先天性の疾患で思うように動けなかった子、やんちゃすぎて動物病院で診察を受けられなかった子、動物同士のトラブルでケガをしてしまった子など、どんな子でも相談していただきたいです。交通事故で歩けなくなった子が手術なしで歩けるようになった例もあります。

もう少し言うと、「歩けるようになる」というのは当たり前で、リハビリにはそれ以外にも痛みがなくなる、心肺機能が回復するなど、様々な面で効果が期待できます。飼い主さまによってはリハビリに対して強い先入観を抱いている場合もあり、ご自身でお調べした知識で行い、症状が悪化するといったこともあります。必ずその子その子に合ったメニューがあるので、ぜひ相談をしていただきたいです。

ケースバイケースであるとは思いますが、効果が表れやすいのはどんな方法ですか?

例えばダイエットを目的としている場合、水中の運動は特に高い効果を期待できます。人間の水中ウォーキングと一緒ですが、関節に負担をかけずに、体感以上の負荷をかけたトレーニングが行えるため、陸上の運動よりも効果が出やすいように思います。ルームランナーがバスタブに入っているような設備を用いて行うのですが、水に入れると本能的に犬かきをするワンちゃんの習性を利用して始めていくのです。

少し変わった内容ですが、砂蒸しなどは九州ならではかもしれませんね。当院の院長が指宿の砂蒸し風呂に入った際に、リハビリ効果を実感して機械を設置したんです。全身の筋肉や関節が固まっている子に対して温めて血液の循環促した後にストレッチを行ってさらに患部をほぐしていきます。長時間行うものではありませんので、ワンちゃんの呼吸をチェックしながら使用しています。

治療の種類やエクササイズは何十種類も存在しますが、症状の状態や飼い主さまとの信頼関係・性格やお家の環境(一軒家なのかアパートなのか、フローリングが多いのか、お庭があるのかなど)、通常の散歩コースの環境も見て治療法や散歩コースの組み合わせもしていくことになります。また、リハビリは長期にわたってケアが必要な治療のため、飼い主さまの負担になる部分はあらかじめ相談させていただいています。

こういった処置はワンちゃん以外でも可能なのでしょうか

エキゾチックアニマルに対しては施術を行っていません。また、ワンちゃん・ネコちゃんに関しても、じっとしていられない少しやんちゃな子に対しては、よりリラックスできるご自宅で行える方法をお伝えしています。

こういった処置に関して、国内では元々競走馬に対してのケアを目的としていた部分が大きく、研究が進んでいるのですが、ワンちゃんネコちゃんを対象とした範囲に関してはまだまだ成長過程にあるのが実状です。しかし同時に、今後大きく広まり、研究が進んでいく可能性を持っているとも思っています。

佐藤先生は子どもの頃から動物を飼われていたのですか?

そうですね。私と一緒の時期に産まれたポメラニアンが動物との一番最初の出会いです。確か、父がどこかからもらって来たのかな。幼い頃から動物に囲まれてはいましたね。

そのポメラニアンの子以外にも、ビーグルやシェルティ、プードルや雑種のワンちゃんたち、ネコちゃんもたくさんいました。私が拾ってくるとみんな受け入れてくれる寛容な両親でしたので、多い時期にはとても賑やかな一家になっていましたね(笑)。

獣医師を志したきっかけはどんなことですか?

両親が獣医師なので、その環境は大きかったように思います。もうこの仕事しか知らなかったもので(笑)。幼稚園の頃の将来の夢も獣医師でそのまんま来た感じですね。海外の高校に通っていた頃には通訳のお仕事に憧れたこともありましたが、結局は獣医療の道に進みました。幼稚園の頃に思い描いていたそのままの道を進んでいるような形ですね。

これまでのご経験の中で印象に残っていることはありますか?

以前にあるプードルの出産の介助を行った時のことですが、ワンちゃんが産気づいてる旨の連絡をしてくれたのは、そのワンちゃんが暮らすお家のご近所の方だったのです。ワンちゃんのご家族の方は皆さん家を空けられていたのですが、その方が後で全て説明してくれて、ワンちゃんは無事に出産を行えました。

動物に関わる中では様々なことが起こりますし、様々な方に出会います。日本ではまだ動物を標的とした心無い犯罪が散見しますし、パピーミルやマナーの問題など動物との共生という意味ではまだまだ後進的であると言えますが、動物を大切にする気持ちを持った方が一人でも多くなってくれたらと思います。

ありがとうございました。最後に今後の目標について聞かせてください。

リハビリを、通常の診察の一環のような立ち位置にしていければと思います。動物の動きに関する悩みに対して、リハビリが一般的な対策になるように、まずはこの地域の方へ向けて地道に意識を広げていこうと思っています。まだまだ先の話ですが、私が医療の現場を退く時までに、その後の医療を担う方々に何かを残していければと思っています。

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