Veterinarian's interview

インタビュー

新しい技術を求め続けて、時代に取り残されることのない獣医師でありたいと思っています 新しい技術を求め続けて、時代に取り残されることのない獣医師でありたいと思っています

新しい技術を求め続けて、時代に取り残されることのない獣医師でありたいと思っています

川瀬獣医科病院

新井 庸之院長

川瀬獣医科病院

新井 庸之院長

東京都世田谷区に根を下ろし、長きに渡る診療の中で地域の飼い主の方々から親しまれている川瀬獣医科病院。整形外科の分野に深い見識を持ち、近隣の獣医師たちからの信頼も厚い新井庸之先生は、2013年より先代院長に代わってこの病院を率いて自身の掲げる1.5次診療に明け暮れている。
今回は、新井先生がその卓越した手腕を身に付けるまでの道のりや、日々実践する1.5次診療について、さらに今後の展望などのお話を語っていただいた。

contents 目 次

まず初めに、新井先生が獣医師を志すこととなったきっかけについて、お話を聞かせてください

元々動物好きで、将来は動物に関わる仕事に就きたいと小さな頃から考えていました。動物園の飼育員、野生動物の保護活動など、小動物の臨床でなくても何らかの形で動物に関わりたいと思っていたんです。

いよいよ進路を決めなければならない時点で、自分にとって獣医師は職業としてしっかり確立したイメージを持っていたことで、動物医療のプロになることを心に決めました。その後、大学で実際に獣医療を学ぶ過程で、小動物臨床の方向に意識が向いていったという流れでした。

新井先生は整形外科の分野において深い見識をお持ちと存じますが、学生の頃から専門医療への興味があったのでしょうか?

私が学生の頃は、小動物臨床に進む方の中で対象を絞って医療を極めようと考えていた方はほとんどいなかったように思います。専門医療は一般的ではなかったという風潮もあり、私自身も学生の頃はそこまでのことを考えてはいませんでした。

整形外科に的を絞って勉強を始めたのはもう少し先のことで、まずは社会に出て、オールマイティに様々な勉強をしていきました。

私は当初都内での診療を考えていましたが、開業医の先生に相談に乗っていただいた際に、都心部では予防の普及によって伝染病をはじめとする色々な病気が減ってきている状況があり、逆に地方であれば様々な病気を診察する機会もあり経験を積むことができる、若いうちはそういった土地で多くの病気を実際に見て学んでおいた方が良いと勧められたことで、茨城で獣医師としての経験をスタートさせることとなりました。今から30年ほど前のことです。

整形外科に取り組むきっかけとなったのは川瀬獣医科病院の前院長の勧めでしょうか?

当院(川瀬獣医科病院)の前院長は整形外科の専門というわけではありませんでしたが、色々な方面に興味を示す方でした。整形外科だけではなく歯科や人工授精など、興味の振り幅が広かったですね(笑)。海外まで勉強しに行くような時代ではない頃から、海を渡って高名な先生から様々な医療を学んでいたとのことで、その中の一つが整形外科でした。当院はそういったバックグラウンドのあることで、整形外科に取り組める土壌が用意されていたんです。

前院長には海外で勉強する準備の際にも力を貸していただき、前院長の手伝いのような形で始まったことが、やっていくうちに知識も増え、知識が増えるごとに興味もどんどん湧いていったというわけです。

昔と比較して整形外科の症例にはどのような変化がありますか?

整形外科の症例は多岐に亘りますが、多いのは骨折と関節疾患です。

昔と比べると、犬を放し飼いで歩かせるような飼い主さまも少なくなり、猫も室内で飼うことが多くなりましたので、例えば車に轢かれてしまったというようなケースは東京ではほとんどありません。小型犬を抱いていて落としてしまった、高いところから飛び降りて骨折してしまったというケースが多いように思います。関節については、膝のお皿が外れる、膝の靭帯が切れた、股関節の脱臼、慢性的に股関節や肘の関節が悪いというような疾患です。

こちらの病院(川瀬獣医科病院)で行っておられる1.5次診療とは、具体的にはどのようなコンセプトなのでしょうか?

この地で先代が開業して数十年、私も当院で長い間診療を続けています。昔から通ってくださっている飼い主さま、近所の飼い主さまという存在があり、その方々に対してのホームドクターという役割を、この病院は果たさなくてはなりません。

その一方で、整形外科の治療に関しては他の医院の先生からご紹介をいただき、症例を引き受けるような立場にもなってきました。ホームドクターとしての役割と、専門医療を行う病院としての役割の両立を目指した結果が1.5次診療です。

一次診療だけでなく二次診療だけでもない。その両方であることを表現しようと考えたときに、1と2の間だから1.5次でいいかということで、そういう表現をさせていただいているわけです(笑)。

先進国と言われる各国と日本の獣医療を比較して違いを感じることはありますか?

今は年に1回ほどになりましたが、研修のためにアメリカやスイスへ足を運んでいます。一般的な診療に関しては日本の多くの先生方はとても熱心に勉強されていますので、各分野で提供している医療レベルの向上は著しく、今や一次診療の内容を比較すると、決して遜色ないように思います。

しかし各分野をリードしている方々の治療を目の当たりにすると、最先端の医療や研究のレベルの高さを実感しますし、まだまだ海外の獣医療から学ぶべきこと多くあるように思いますね。

地域ごとにおける専門診療の必要性について、新井先生はどのようなお考えをお持ちでしょうか

獣医療においても大きな病院や総合病院が増えつつありますが、人間の病院と比べるとどこにでもあると言える存在ではありませんよね。

飼い主さまが求めている専門性というニーズに合わせて、個人病院の単位で専門性を持つ必要性があると思っています。しかし例えば当院のように小さなスペースしかない病院で、多くの分野の専門医を増やそうとしても、それだけの設備を整えられるかという課題があります。

そこで病院ごとに異なる専門の先生が、相互にネットワークを結んでいくことが大切になるでしょう。専門医同士がネットワークを組んで、街全体でみて各種専門治療ができるようになれば、飼い主さまにも安心して動物との暮らしを楽しんでいただけると思います。

最後に、新井先生の今後の目標を聞かせてください

私は今年(2017年)で52歳になりましたが、まだまだ体は動きます(笑)。体が動く間は新しい技術を求め続けて、時代に取り残されることのない獣医師でありたいと思っています。しかし、残念ながらいずれは私も手が思うように動かない、目も見えにくい体になる日が来るでしょう。そんな時が来ても、当院で築き上げた整形外科の専門医療を絶やさないために後進の先生の育成を始めています。

また、開設して1年を迎えた分院では歯科治療を行っています。スタッフを少しずつ増やしながら地域の病院としてより発展していくよう、学術的な向上と、飼い主さまに気持ちよく通っていただけるようなスタッフ教育も充実させて、多くの方に満足していただける病院を作っていこうと思っています。