contents 目 次
- 獣医師を志したきっかけ
- やりがいを感じることや、心に残っている出来事
- 食餌の分野に興味を抱いた経緯
- 食餌の重要性について
- 皮膚科診療において、実際に行う機会の多い治療方法
- 飼い主さまに理解していただきたいこと
まず初めに、池上先生が獣医師を志したきっかけについてお話を聞かせてください
きっかけとなったのは少年の頃に観ていた「野性の王国」という往年のテレビ番組でした。様々な動物の生態を紹介するドキュメンタリー番組で、そこに移る動物たちの姿に深く感銘を受け、動物への興味が湧いたというわけです。
中学生の頃には、獣医師を志すことを決意していましたね。
実際に獣医師として現場に身を置く中で、やりがいを感じることや、これまでのご経験の中で心に残っている出来事はありますか?
飼い主の皆さまが大切にされている愛犬、愛猫たちが、長く辛い病気の経過を経験し、悩み抜いた末に来訪された時、多くの飼い主さまはとてつもなく大きな不安や悲しみを抱えています。
そんな状況にある方が、来院・治療を重ねるごとに動物たちが快方に向かう様子を目の当たりにし、明るい笑顔を見せてくれるようになった時ですね。愛犬・愛猫と共に健康を取り戻してゆく飼い主さまの姿を見ることができた時、何にも代えがたい充実感を覚えます。
またワクチンや健康診断など、年に数回しか来院しない健康なワンちゃんは、段々と病院に来るのを嫌がったりするものなのですが、本当に具合が悪くなって来院した際に、自分から車を飛び下り、病院に駆け寄ってドアを掻いていた姿を見た時に、ワンちゃんにも認めて貰えた気がしました。
池上先生は食餌の研究に注力されていると伺っています。その分野に興味を抱いた経緯についてお話を聞かせてください。
かつて勤務医としてある動物病院での獣医療に携わっていた頃、ちょうど病院から販売されるフードが出始めたのですが、薦めたワンちゃんがことごとくマラセチア性外耳炎になり、逆にフードから離脱された飼い主さまのワンちゃんだけが、自然に治ってゆくのを目にしてきました。
その時、これまでの知見は何かが間違っていることと同時に、日頃口にする食事の管理の重要性に気づいたことが、食餌の探求を始めるきっかけとなりました。
食餌の重要性について、池上先生のお考えを聞かせていただきたいです。
私が研究職に居た頃、当時の研究論文がスポンサーを気遣ったものであることは当然であり、科学的な見地から見た時に実に根拠・信頼性の薄いものだと教育されました。臨床を始めてから、全ての可能性を確認しながら診察を進めた結果、多くの病気はそういった事情によって歪められた情報を基にした食事に由来していることに気がついたのです。
医食同源という言葉もある通り、日々の食事は動物の健康を管理する上での第一歩です。
手作り食を薦める多くの獣医師は、自然に近づけることを心がけています。すなわち犬はオオカミに、猫はライオンやトラ、あるいは野生のネコ科の食事を基準とすることを目標に掲げています。その考えを理解した上で、人との生活の中で、お互いに調和の取れる範囲でアレンジしてゆくのが良いと考えられます。
池上先生は皮膚科診療についても広い知見をお持ちと伺っています。実際に行う機会の多い治療方法について教えて下さい。
皮膚にトラブルを抱えた多くの犬猫は、アレルギー以前に皮膚のコンディションの乱れが顕著です。しかし皮膚のコンディションの乱れ方は千差万別であり、それぞれに合ったオーダーメードの治療が必要となります。
それが解消されて初めて皮膚病学的な病名を付けるためのスタートラインにつけるのです。皮膚のコンディションの見極め方は美容の世界に近いため、人の皮膚科医療でも十分には取り入れられていないようですが、私は独自の評価方法でその見極め方を進めており、その評価方法に基づいた治療で大きな成果を得ています。
皮膚のコンディションが整うと、以後の皮膚病学的分類方法は実に明確な結果が得られます。何よりも先に、皮膚のコンディションを取り戻してあげることを重要視しています。
治療後にご自宅で気をつけて欲しいことや、日頃生活する上で気をつけて欲しいこと、気をつけて欲しい点などありますか
皮膚病は原因と結果が比較的明瞭です。アトピーなどと誤魔化さずに原因を取り除く治療に専念すべきです。そのためには、最初に皮膚のコンディションを崩した理由を理解していただくことが重要です。
それを理解されると、以後何によってその病変が現れたか飼い主さまが気づかれることが多くなります。もし、それでも迷われた時には我々に相談していただきその原因を突き止めるようにしていただければ良いでしょう。飼い主さまが原因を把握してそれに注意をしていれば、ほぼ普通の生活に近づけることができます。
多くの飼い主さまに知っておいていただきたいことですが、日本人の美徳とも言える「忖度」は、時に正しい情報を歪めて真実を隠してしまいます。なぜ病気を患ってしまったのか、何をすれば治るのか、という原点についてもう一度見つめ直してみてはいかがでしょうか。