Veterinarian's interview

インタビュー

一般的な動物病院を高度診療の面でサポートし、飼い主さまに新たな選択肢を提示する二次診療 一般的な動物病院を高度診療の面でサポートし、飼い主さまに新たな選択肢を提示する二次診療

一般的な動物病院を高度診療の面でサポートし、飼い主さまに新たな選択肢を提示する二次診療

奈良動物二次診療クリニック

米地 謙介院長

奈良動物二次診療クリニック

米地 謙介院長

「二次診療によって、診療に関する新たな選択肢と可能性を提示できる」
目に光を込めて語るその言葉は優しい。
2014年に奈良県奈良市の閑静な住宅地に開設された奈良動物二次診療クリニックは、一般的な動物病院では対応できない症状や専門的な診療を行う動物病院。日々難治症例を抱えた動物が集うこの病院で院長を務める米地謙介先生は、各症例に真正面から向き合う傍ら、後進の育成や知識の啓蒙にも注力している一流の獣医師だ。
近年の獣医療において重要な位置にある二次診療の必要性や重要性について、私たちがまだまだ知らないことを米地院長に教えていただいた。

contents 目 次

本日はよろしくお願いいたします。まずは、米地先生が獣医師を志したきっかけを教えていただけますか。

獣医師になったきっかけですか…そうですね、子供の頃から動物が好きだったので、なんとなく動物に関係する仕事がしたいとは考えていました。獣医師という仕事を意識し始めたのは、実家で飼っていた愛犬がフィラリアに罹って亡くなったことがきっかけだったと思います。愛犬の死を通じて動物医療という世界に興味を持ち、高校時代の進路選択の際に獣医師になるための学校に進学することを決意しました。しかし、最初から二次診療を志していたわけではありません。最初は地元にお住まいの飼い主さまのために診療を提供する「動物のかかりつけ医」を目指していました。

獣医師になって一番印象に残っているエピソードなどはありますか

私は獣医師になって幾つかの動物病院で経験を積んだ後に、麻布大学付属動物病院で整形外科と神経外科の研修医として臨床に取り組んでいた時期があります。その際にお世話になった恩師でもある先生の手術を見学した時のこと今でも強く印象に残っています。その時は犬の骨折手術という一般的な手術だったのですが、今まで教科書やビデオで学んでいたことが目の前で展開されているという事実に心が震えました。実際にこの手術を見たことによって、今まで卓上の知識だったことが初めて腑に落ち、自身の経験として昇華した気がします。

こちらのクリニックで取り組まれている「二次診療」とはどのような診療なのでしょうか

「二次診療」は一般的に使われている言葉ではありませんので、耳に馴染みの無い方も多いのではないかと思います。簡単にご説明しますと、動物の身体に何らかの異常が発生した際に利用される一般的な動物病院を一次診療(プライマリケア)とするならば、その病院の獣医師が自身の医院では対応できないと判断した際に紹介される可能性が高いのが二次診療(セカンダリケア)となり、当クリニックはそうした二次診療クリニックにあたります。

その特性上、一般の飼い主さまに対して門戸を開いているわけではなく、獣医師から紹介された動物のみを受け入れています。しばしばセカンドオピニオンとの違いを聞かれることがあるのですが、セカンドオピニオンは飼い主さまのご意思によって利用されることが多いのに比べ、二次診療は獣医師の先生の意思で利用されることが多いという違いがあります。

二次診療の重要性について教えていただけますか

現在、日本の動物病院では動物に関するあらゆる症状を診療する「全科診療」が基本となっています。しかし、より専門的で高度な診療が必要とされる症状の場合には、飼い主さまにご満足いただける診療を提供することが困難な場合もでてくるはずです。そのような際に必要とされるのが、当クリニックのように特定の分野に対して専門的で高度な診療を実施できる二次診療クリニックです。

つまり、二次診療によって飼い主さまに専門的で高度な診療を提供できるだけでなく、飼い主さまに対して診療に関する新たな選択肢と可能性を提示できます。

こちらのクリニックではCTを導入されているとお伺いしましたが…

その通りです。CTを使用した診療は当クリニックが最も得意とすることの一つです。動物の身体構造を平面的にしか捉えることができないレントゲン検査に対して、CT検査では動物の身体構造を立体的に捉えることができます。当クリニックではCT検査を導入することによって、これまで正確な診断を下すことができなかった様々な症状に対して、正確な診断を飼い主さまや一次診療の獣医師の先生に提供できるようになりました。

ただし、人間のCT検査とは異なり、動物のCT検査には多くの場合で全身麻酔が必要です。当クリニックでは十分な研修を受けた獣医師や動物看護師がCT検査を担当することで、動物への負担を最小限に抑えたCT検査を実現しています。また、CTを使えば正確な診断を下せることはわかっておりますが、当クリニックでは全身麻酔による動物への身体負担を最小限に抑えるために、血液やレントゲンなどの検査で確定診断が下せない場合にのみ、CT検査を検討するようにしています。

こちらのクリニックで実施されている診療について教えてください

当クリニックでは、整形外科・腫瘍科・軟部外科などの症状によって、苦しい生活を強いられている動物が様々な動物病院の紹介を受けてやってきます。当クリニックではそのような動物の飼い主さまに対して、メリットやデメリットをしっかりと説明した上で、最も適切だと考えられる方法を一緒に考えていくようにしています。

今後の獣医療はどのように変化していくと思われますか?

あくまで私個人としての考えですが…、これからはもっと当クリニックのような二次診療を担当する動物病院が増えていくのではないかと思います。今後もますます動物医療に関しては複雑化かつ高度化することはもちろん、飼い主さまの診療に対する期待値も上がっていくことが想定されています。いわゆる一次診療と呼ばれる一般的な動物病院ではあらゆる症状に対して飼い主さまの期待に完璧に添える診療を提供することは困難になりつつあります。

そこで、そのような動物病院の先生方をサポートする役割として二次診療の重要性がますます増大していくと思われます。今後、一次診療を担当する動物病院は動物の病気予防や日常ケアに特化し、専門的な診療は当クリニックのような二次診療が受け持つことになるのではと考えています。

日常生活における動物との関わり方についてアドバイスをいただけますか

現在の住環境と犬との関わりでお話ししますと、フローリングの弊害が非常に大きいと感じております。当クリニックの整形外科に骨折でやってくる動物たちのほとんどが、フローリングのお部屋で生活しているという統計があります。動物にとってフローリングのような滑りやすい床での生活は、足腰に多大な負担を掛けていると飼い主さまには認識していただきたいと思います。お部屋で動物と暮らす際には、絨毯やラバーマットを準備することをおススメします。

このページをご覧になっている飼い主さまにメッセージをお願いします

もしかしたら私が一方的に感じているだけかもしれませんが…近頃の飼い主さまは獣医師に対して少し遠慮がちではないでしょうか。大切な動物の身体に関わることですから、もっと遠慮することなく率直に心配なことや診療に関する不安なことなどをお話しいただく方が良いと思います。例えどのような些細なことであっても、お話しいただくことによって健康に繋がる何らかのヒントが見えてくると思います。

飼い主さまも獣医師も、「大切な動物を元気にしてあげたい」という気持ちは同じはずですので、気を悪くするようなことは決してありません。遠慮することなく、どのようなことでも気軽にお話しください。