Veterinarian's interview

インタビュー

「ノア動物病院に来れば何とかしてくれる」と思ってもらえるオールマイティーな病院でありたい 「ノア動物病院に来れば何とかしてくれる」と思ってもらえるオールマイティーな病院でありたい

「ノア動物病院に来れば何とかしてくれる」と思ってもらえるオールマイティーな病院でありたい

ノア動物病院

山本 憲昭副院長

ノア動物病院

山本 憲昭副院長

大阪府豊中市で開院以来35年の歴史を誇り、地域に親しまれ、無くてはならない存在であるノア動物病院。そして、金子院長の薫陶を受け卒業後すぐに勤務を開始したノア動物病院で、今や副院長の重責を担う山本獣医師。
2010年に現在の場所へと移転しリハビリ、デイケア、病犬・老犬のトリミングや預かりなどが可能となり、さらに理想の病院に近づいたと語る山本獣医師に、自身が抱く獣医療の在り方やノア動物病院が持つ可能性についてお話を伺った。

contents 目 次

まず初めに、山本先生が獣医師を志したきっかけについてお聞かせください

実は私の場合は幼い頃から獣医師を志していたわけではありませんでした。家で犬を飼い始めたのは私が中学生の時でしたが、それも自分からねだってということではなく、動物病院にもお世話になっていましたが、母が連れていくのは主に平日の昼間でしたので、一緒についていって獣医師の先生の診療の様子を間近に見るということも無かったのです。

高校で進路を決める段階になって、職人で自営業をしている父と看護師をしている母が色々な職業について候補を挙げてくれた時に、初めて獣医師を職業として意識しました。私は元々、生物や化学も好きでしたし、愛犬との触れ合いを通して以前よりも動物をずっと身近に感じるようになってきていました。それらをマッチさせる素晴らしい仕事だと段々思うようになり、その意識の変化が獣医師を志す決め手となりました。

先生のご経歴を伺って、他の病院で勤務されたことが無いということに驚きました

そうですね。獣医師は大抵3年か5年で病院を変わり、あちこちで修行を積むというのが一般的かと思います。私の場合、大学は東北でしたが地元で就職したかったので、京阪神間で勤務先を探しました。それぞれに素晴らしい院長先生とお話しさせていただき、ぜひうちに来てくれとおっしゃってくださった病院もあったのですが、お話ししていて一番自分と獣医療についてのスタンスが近く、人間的にも懐の深い金子院長の人柄に魅了され、「この人の元で学ぼう」と決心したのです。

以来もう13年以上もノア動物病院で診療を行っていて、副院長という肩書もいただき、現場を任せていただいています。

同じ場所に長く留まっている中で、意識の変化などはありますか?

治療に関しては経験を積む分見識の変化は出てきますが、この病院の環境に飽きるようなことは全くありません。

何故かというと、運営がトップダウン方式ではなく、現場からの提案を院長が一つ一つきちんと検討してくださり、良いことはどんどん実行に移してくださるからです。現場の裁量に任されている部分も大きいので、スタッフたちのやりがいにも繋がっています。現在、現場の統括は私が主に行っていますが、院長の人間性が病院全体を大きく包み込んでくださっていて、私たちはその中で安心してそれぞれの持ち場で力を120%発揮できているという環境です。院長がお釈迦さまで、私たちはチーム孫悟空という感じですね(笑)。

現場からの提案が活かされるところが、この病院の良いところなのですね

2010年に現在の場所に病院が移転して規模を拡張して以来、リハビリ、デイケア、トリミングを新たに始めることができました。その中でもリハビリについては、動物看護師らが「ぜひうちの病院でもやりたい」と言い出したことがきっかけです。他の病院であれば、もしかしたらスタッフは思っても口にも出さないかもしれませんし、あるいは口に出したとしても実現へ向けて動くことが無いかもしれません。

当院の良いところは、仲間の誰かの提案には全員が真面目に耳を傾け、実現性について検討するのが自然なことになっているところです。やはり物事は1人より2人、2人より3人ですし、世代も違えば勉強してきた内容も違います。大勢のスタッフの力を有効に集結させることにより、ワンマン病院とも大病院とも違う当院の良さに繋がっているのだと思います。

これまでに行ったリハビリの成功例として印象的なケースはありますか?

これは当院でリハビリを提供し始めてまだ日が浅かった頃のことなのですが、ダルメシアンの老犬の両足麻痺が完治したということがありました。脊椎の疾患が原因となっていた症状で、完全な麻痺ではありませんでしたが、後ろ足を両足とも引きずっていて歩けない状態でした。飼い主さまもご高齢でいらっしゃいましたので、30キロ近い重さの歩けない犬を世話されるのは大変なこととお見受けしていました。

リハビリを開始し、電気刺激、ウオータートレッドミル、レール上での歩行訓練などを数回重ねた結果、劇的な効果があり完治したのです。飼い主さまのお喜びようは、見ている私たちも幸福感に満たされるようなものでした。効果には個体差はありますが、このようなケースも存在します。リハビリをご検討の飼い主さまにはぜひ知っていただきたい例です。

初めのスタッフさまの提案がなければ、このダルメシアンと飼い主さまの幸せはなかったかもしれませんね

そうですね。金子院長が、「現場が一番問題点や飼い主さま方の需要を知っている。だから現場に聞こう」という謙虚な姿勢を貫かれていることに尽きると思います。「実現できるかできないか、金銭的なことやスペースが足りるかなどの物理的な問題はとりあえず置いておいて、アイデアがあれば遠慮せずに何でも自由に出してごらん」というスタンスですね。

うちは病院ですから利益の追求が第一命題ではないわけですが、経営ということからいえば上手くいっている他の組織にも共通する部分があるのかもしれません。当院には猫専用の診察室と待合室があるのですが、この内装もすべてスタッフが設計から関わっています。

猫専用の診察室と待合室について詳しくお聞かせください

猫の場合、動物病院の受診についての潜在的需要は大きいにも関わらず、「受診慣れ」していない猫の他の動物とのトラブルを恐れる飼い主さまの受診抑制という問題が起きていると思います。早期発見・早期治療で治る病気も、受診が遅くなることによって手後れになることは、できる限り避けたいものです。

そこで、2010年の移転の折には是非とも猫専用のスペースを設けようと考えていました。同じフロアで分離しても動線でぶつかるので、フロアごときっちり分けています。1階は一般的な動物病院という雰囲気ですが、2階の猫フロアは猫カフェをイメージしたリラックス空間として仕上げています。インテリア小物などの選択は、全て猫好きのスタッフたちに自由に選んでもらいました。

ノア動物病院ではトリミングや薬浴もされていますね

そうですね、トリミングと薬浴は以前から提供したかったサービスの一つでした。私たちがトリミング施設を病院内に設置するのは、皮膚病の治療として薬浴(メディカルシャンプー)を実施できるようにすることや、他施設で受け入れてもらえないような老齢の動物の介護付きシャンプーを行うためです。これらは一般のトリミング施設では難しい内容かと思います。

トリマー兼動物看護師がシャンプーやカットを行いますので、健康状態や皮膚のコンディションを常に把握し、また、皮膚に疾患のある子には専用の機材を用い、その子に合った適切な施術・薬浴剤の選択を行います。もちろん、カットオーダーにも応じています。ありがたいことに非常に評判で、現在は予約待ちの状況が続いていますので、もっと多くの動物たちが受け入れられるよう、体制強化に取り組んでいます。

山本先生ご自身が獣医師として一番大切にされていることはどんなことでしょうか?

私の理想は、どんな動物、疾患、飼い主様にも対応できるオールマイティーなジェネラリストであることです。

当院には高度な医療機器も揃っていますが、高度医療が行えることを特徴としているわけではありません。飼い主さまにとってできる限り多くの選択肢を提供してさしあげたい。そのために高度医療も選択肢の一つとして提供できるということであって、動物の年齢などの条件によっては、時には苦痛を与えるような積極的な治療はあえて行わないという選択肢もあり得ます。

当院では毎晩「症例検討会」というカンファレンスを獣医師全員で実施しています。その日の情報を皆で共有し、治療の検討を行うことはもちろんですが、「あの時飼い主さまにああいう風にご説明したのは良かったのか?」「違ったお伝えの仕方があったのではないか?」などといったことについても意見を交換しています。こういうことによってチームワークもより強固なものになりますし、飼い主さま向けのセミナーや催し物の開催により正しい知識をより深くしていただき、飼い主さまと医療従事者がタッグを組んで動物に最適なケアをしていきたいと考えています。

最後に、これからの獣医療についての展望について、山本先生のお考えをお聞かせください

1983年に金子院長が高い志を持って当院を開院された当時、私はまだ幼い子供でした。院長には、アメリカと比較して20年遅れていると言われていた当時の獣医療の状況や殺処分問題などについて、どのように改善に取り組んできたか、どこまで改善できてきたかなどについてよくお話しいただきました。当時からすると、現代の獣医療は格段に進歩したのだと思います。今から20年、30年先を想像すれば、さらに目覚ましい進歩を遂げていることでしょう。

けれども、医療がどれほど進歩しても変わらないものがあると私は考えます。それは人と動物との関係性です。互いにとって大切なパートナーであり、癒しであるということ、それは太古の時代からの犬と人間の関係を振り返っても頷けますよね。日々の進歩に対しての勉強を怠らずにいることはもちろんですが、私はいつの時代にも動物と人間とのパートナーシップを何よりも大切にしていきたいし、また獣医師としてそうあるべきだと考えています。