Veterinarian's interview

インタビュー

動物医療のジェネラリストとして動物と飼い主さまが幸せに暮らせるための医療と、動物を通じた福祉に取り組んでいます 動物医療のジェネラリストとして動物と飼い主さまが幸せに暮らせるための医療と、動物を通じた福祉に取り組んでいます

動物医療のジェネラリストとして動物と飼い主さまが幸せに暮らせるための医療と、動物を通じた福祉に取り組んでいます

水谷動物病院

水谷 達二副院長

水谷動物病院

水谷 達二副院長

神奈川県藤沢市の江ノ島に程近い鵠沼海岸の水谷動物病院は、1969年の開業から半世紀近くホームドクターとしてのスタンスを変えずに地域の動物医療に尽力している。獣医師の使命は動物の診療だけではなく、動物を通じて行う人間への福祉にもあると考える水谷動物病院とはどのような医院なのか。同院のポリシーや活動について副院長の水谷達二先生に話を伺った。

contents 目 次

まずは、水谷先生が獣医師を目指したきっかけについて教えてください

幼い頃に犬を飼っていたのですが、その頃はまだ私が幼かったということもあり、自分で犬を散歩に連れていくということもなく、家の庭にあった犬小屋で可愛がっていたということだけを覚えています。そんな年齢でしたので、その犬が亡くなっても「なんでいなくなったの?」としか認識することはありませんでした。

小さな頃から動物に触れ合っていましたが、幼い心には病気になった動物を病院に連れて行くという感覚がまだ芽生えておらず、動物園が獣医師の職場だと思っていたくらいでしたよ(笑)。獣医師の存在を意識し始めたのは進路を決める高校生になってからでした。私の親は歯医者だったため歯科の分野にある程度の理解はありましたが、特に歯医者になりたいという気持ちはなく、同じ医療なら大好きな動物を相手としてやりたいと考え、獣医学科へと進みました。

実はその時にオートバイの世界もいいなと思っていたのですが、機械相手に毎日過ごすよりは、いつも違った変化がある動物たちと過ごしていた方が楽しいと思ったんです(笑)。つまり、いつでも動物と接していたいという気持ちが、小動物臨床の獣医師になったきっかけです。

水谷先生が診察を行っている水谷動物病院の歴史について教えてください

開業して48年になります。藤沢市では3件目か4件目の古い歴史を持つ動物病院ですね。地域で半世紀近く診療していますが、実は当院の歴史の中で特に大きな改編期というのはないのです。元々は院長が6畳1間ほどの規模から診療を始め、そこから徐々に施設が大きくなっていったというだけで、動物病院としては開業当初から一貫してホームドクターの役割を担い今に至っています。

その歴史の中で、当院というよりは院長の働きになるのですが、日本動物病院協会(JAHA)という団体を立ち上げたことが大きな出来事だと思います。

アニマルセラピー、ふれあい活動について

JAHAとは、動物病院を中心に「人と動物との絆(ヒューマン・アニマル・ボンド=HAB)」に基づき、人と動物双方の教育、福祉、医療に貢献し、人と動物と環境のクオリティー・オブ・ライフの向上を目指して活動する組織なのですが、その活動の中には動物病院の社会貢献事業を行うコンパニオン・アニマル・パートナーシップ・プログラム(CAPP)活動というものもあります。CAPPとは「病院や一般家庭で飼養されている主に犬や猫とともに高齢者施設等を訪問する活動」です。アニマルセラピーと言い換えれば、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

先程お話しした通り、JAHAの設立には当院の院長が関わっています。1970年代、院長らは志を同じくする仲間の獣医師数名で海を渡り、アメリカ動物病院協会(AAHA)の大会を始めとするセミナーに参加されました。その小動物臨床のレベルの高さや完成された組織に衝撃を受けたそうです。そして、日本国内でも同じような活動を行っていく必要性を感じ、AAHAにならって立ち上げたのがJAHAという団体です。

このJAHAの基本理念は「動物病院を名乗る以上、利用者の立場に立って、動物を大切にする人びとのニーズに応えていくことを通じて、人と動物と環境の調和と広義の福祉のために、クライアント教育、社会教育、社会活動をやっていこう」というもので、動物の診療だけではなく、人の福祉に関しても我々獣医師が積極的に取り組むべきであるという考えです。その具体的な事業の一つが1986年に始まったCAPPでした。勿論、獣医療をしっかり行い病気を治すことが一番という考えも正しいことだと思いますが、私の個人的な思いとしては、獣医師は国から資格を許された立場として、動物だけではなく人の福祉に対しても前向きに働きかけるべきであると考えています。

二次診療施設との連携強化のため、日頃から先生が取り組まれていることは何でしょうか?

取り組みとは少し意味合いが異なりますが、JAHAや獣医師会といった団体に所属していることで、獣医師同士の関係を保っていくことは大切ですよね。大学病院や高度医療施設など二次診療施設で活躍されている先生方と、勉強会なりその他の機会で普段からコミュニケーションを取ることは必要です。高度医療の力を借りて確定診断および治療を考えたときに、施設を知っているだけでは充分ではありません。

施設そのものではなく、信頼できる先生がいるからこそ、安心して依頼を行うことができるのです。よく知っている先生だからこそ、ざっくばらんに相談もでき、何かが起こったとしてもお任せることができるんですね。二次診療の結果は当院にフィードバックされますので、それをもって我々は継続して治療を進めていきます。

JAHAや獣医師会には大学の先生を含め多くの獣医師が所属しており、勉強会やセミナーなども定期的に行われていますので、先生方との横の繋がりも増えます。その点ではやはりこういった会に参加して得られる横の繋がりは私にとって宝だと思っています。ちなみに当院では、ある程度の診断をつけた上で確定診断をしていただきたい際など、当院で可能な限りの診断を行ってから依頼をしています。そうすることで、二次診療施設と当院で診断が一致するか確認でき、意見交換しながら、難しい症例でも動物や家族にとってベストな治療に取り組むことができるというわけです。

長きに渡って獣医療に携わる中で、飼い主さまの意識の変化を感じるのはどんな時でしょうか?

獣医師になって間もない頃と比較すると、今は屋内でペットを飼う方が増え、当院で治療する怪我も、交通事故が原因というものはすっかり数を減らしました。今では治療の大半が怪我ではなく病気です。その病気について、昔と比べて明らかに増えたのは腫瘍で、これは平均寿命が上がったことの表れと言えます。

反対に、明らかに減った病気はフィラリアやウイルスによる感染症で、これは飼い主さまの予防に対する意識が高くなったことの表れですね。予防が一般的になったということです。予防できる病気については罹りにくくなるようにしてあげたいと考える飼い主さまが増えたことは、国内の飼い主さまの意識で大きく変わった点ではないでしょうか。

病院の診療方針と地域での役割についてはどのようにお考えでしょうか?

昔と違って今は様々なペットが飼育されるようになりました。犬や猫は勿論のこと、ウサギ、ハムスター、フェレット、カメ、鳥など、私達は多くの動物を診断する機会があります。その命に対して、誠心誠意を持って診療を行っています。

大切にしているペットが病気や怪我で困っているのを見過ごすことはできません。犬や猫以外の小動物についても受け入れ、知識を総動員して診療しています。ただ動物ごとに身体のつくりが異なり、中には特有性のある病気も存在しますので、総合診療であるホームドクターでは限界があることも確かです。そのような時にも、その動物専門のドクターに二次診療をお願いすることがあります。

ホームドクターというポジションにおいて、水谷先生が大切にしているのはどういったことでしょうか?

ホームドクターという立場で診察を行う中では、あらゆる病気や病気予防のためのワクチン接種などにも対応する必要があります。総合診療として何でも出来なければいけないのです。そのため、ホームドクターは様々な知識を備えたジェネラリストでなければなりません。

ドクターには自分の得意分野があり、それを標榜することで飼い主さまにアピールするという考え方もあるかもしれませんが、私はスペシャルなジェネラリストでありたいと思っています。それに加え、動物と人とが一緒に生活している環境を整える面では、一日でも長く一緒に、共に幸せに暮らせるよう手助けをする存在にならなければなりません。

我々の仕事は動物相手の仕事ではありますが、人と人との関係も大切にしなければならない仕事です。動物たちの身体を診るだけでなく、飼い主さまの気持ちも和げることができて初めて一人前です。人に対しても動物に対しても幸せを提供するように努めなければいけないと思っています。

このインタビューをご覧になる飼い主さまへのメッセージをお願いいたします

動物たちは言葉を話せない存在です。いつもと違う様子があったら気軽にホームドクターに相談していただきたいと思います。動物は弱みを見せないことがあり、我慢して元気に振る舞います。目立つ症状が出てからでは手遅れというケースは多く、日常生活において異変に気づくことができるのは飼い主さまだけですので、日頃から注意深くペットを見守ってください。

最後に、水谷先生の今後の目標をお聞かせください

これから新しく何かを始める、設備を導入して目に見える形で医院の規模を大きくするという点に関しては、必要に応じて対応していきますが目標とはしていません。現状で心掛けていることや、診療方針や理念について、今後も継続していくことを基本的な目標としたいですね。やはりジェネラリストとしての立場を極めていくことが目標で、そのために必要なのは日々の勉強です。毎日飼い主さまの笑顔を見られるよう、努力を続けてまいります。