Veterinarian's interview

インタビュー

循環器科のスペシャリストとして、飼い主さまと動物が幸せに暮らしていくためのサポートに取り組んでいます 循環器科のスペシャリストとして、飼い主さまと動物が幸せに暮らしていくためのサポートに取り組んでいます

循環器科のスペシャリストとして、飼い主さまと動物が幸せに暮らしていくためのサポートに取り組んでいます

茶屋ヶ坂動物病院

金本 勇院長

茶屋ヶ坂動物病院

金本 勇院長

2017年で開業から47年を数え、多くの動物たちの健康を見守ってきた茶屋ヶ坂動物病院。
特に循環器科の診療に注力しその卓越した手腕を振るうのは、院長を務める金本勇先生である。
当時未開拓であった国内の循環器科診察の技術向上は、一体どのような道のりだったのだろうか。苦労の連続は想像に難くないが、「地域の皆さまに愛される病院になりたい」と話す金本先生の表情は柔らかく和やかだ。これまでの歩みや、循環器診療の現在、これからの獣医療など、様々なお話を聞かせていただいた。

contents 目 次

まず初めに、金本先生が獣医師を志したきっかけについてお話を聞かせてください

私の実家が副業として豚や山羊などの動物の飼育をしていたため、子どもの頃からずっと動物と生活を共にする環境にあり、小学生になった頃には山羊のお世話が私の仕事でした。山羊たちに草を食べさせるため、登校途中に草の生えている堤防まで連れていき、下校時に連れて帰るのが毎日の日課でしたね。

山羊の子どもを育てたり、豚の出産に立ち会ったり、「命」を身近に感じる機会が多かったからか、自然と医学の道を志すようになりました。一時期は医学部への進学も考えましたが、動物との暮らしの中で獣医師の先生の存在が身近だったことなどから獣医学部へ進学する道を選びました。

獣医師としてやりがいを感じるのはどのような時でしょうか

やはり、自分が担当した子が元気になった姿を見たとき、またそれを飼い主さまに喜んでいただけた時ですね。特に心臓病を患っている場合、人と同じように、そのまま治療をせず放置しておくと、命に関わる場合も少なくありません。

だからこそ、的確な診断と適切な治療を行うことが必要です。その子と飼い主さまにとって最適な医療を提供していくことで、元気を取り戻し、天寿を全うするまで、健やかに暮らしていくサポートができると嬉しいですね。

循環器のスペシャリストとして、臨床、論文発表、新人獣医師の指導と幅広くご活躍中ですが、循環器の分野に興味を持たれたのは何故でしょうか?

獣医学部へ進学した時から、将来は小動物診療に携わる獣医師になろうと考えていました。数ある医療分野の中から心臓病治療に興味を持ったきっかけは、医療従事者の飼い主さまから言われた言葉がきっかけです。

「人の心臓病は治すことができるのに、どうして動物の心臓病は治せないの?」

確かに仰る通りで、その飼い主さまの一言をきっかけに小動物の心臓病治療にチャレンジしていこうと思ったのです。しかし日本は勿論、世界でもまだまだこれからの分野であったため、前例も学ぶための書籍や資料もありませんでした。そのため、人の医学書を参考に勉強し、医学部の医師たちと一緒に知識や技術の向上を目指しました。当時からアメリカでは医学部と獣医学部の連携はさかんに行われていましたが、日本ではまだまだ珍しいケースであったと思います。

こちらの病院(茶屋ヶ坂動物病院)では、特に外科手術を用いた治療に積極的に取り組まれていると伺っています。これまでで印象に残っている例はありますか?

国内で初めての成功例を挙げた「動脈管開存症」と「肺動脈狭窄症」の手術と、世界で初めての成功例となった「僧帽弁閉鎖不全症」に対する手術法の一つつである“僧帽弁形成術”のことは特に印象に残っています。

「僧帽弁閉鎖不全症」は一度罹ってしまうと、完治させることができない病気で、例えると古くなった水道のパッキングが壊れた状態のようなものであり、一度壊れてしまうと自然に元に戻ることはなく、次第に悪化してしまうのです。

従来の方法の場合、心臓に人工弁を取り付ける手術が一般的でしたが、体が人工弁を異物と判断するため、血液の凝固が起こることで血栓が出来やすくなり、生涯抗血栓薬を飲み続ける必要がありました。

“僧帽弁形成術”では、人工弁を使用しないため、手術後に長期に亘る治療が必要ありません。当院では、人間の子ども用の人工心肺と低体温法を併用しながら、より安全に負担の少ない手術に取り組んでいます。

最近では動物の平均寿命が向上している反面、循環器系を含め病気を患う動物も増えていると耳にします

私が獣医師になりたての頃と比べると、獣医療、特に犬・猫といった小動物の獣医療は飛躍的に進歩しています。昔は犬の心臓病といえば、蚊が媒介するフィラリア症が主流でしたが、今では予防が一般的となり、フィラリア症で命を落とす子は激減しました。このように、獣医学の進歩によって防げるようになった病気もたくさんあり、動物たちもすっかり長生きになりました。

しかし、長生きになったからこそ出てくる病気もあります。心臓病を始めとする循環器疾患やガンは長生きと共に増加しています。これらの病気から動物たちの命を守るには、やはり専門の知識・技術をもった獣医師による治療が必要なのです。

そういった状況ですと、専門性を高めた獣医師の方々は飼い主さまからしても頼もしい存在ですね

そうですね。日本でもここ数年、獣医師の専門医制度が進んできました。従来のホームドクターのような病院に加え、各分野の専門医療に携わる獣医師が増加の傾向にあり、今後もその傾向は変わらないでしょう。

一次診療のホームドクターから、より専門的な医療を提供する二次診療の専門医への紹介という流れがこれからの主流となっていくことと思います。これはより適切で効果的な獣医療の提供を行っていくうえで、必要不可欠な流れだと言えるでしょう。

金本先生の思う、今後の獣医療の展望についてお話を聞かせてください

私が獣医学部を卒業したのは1965年のことです。当時の獣医学部の卒業生の多くは、県庁の畜産課や食肉センターの研究員など公務員の道に進む方が圧倒的に多く、小動物診療へ進む人は少数でした。

今はと言うと、当時と全く逆で多くの学生たちは小動物診療への道を希望しています。そのため、学びたい学生たちのニーズに応えていくためにも、より専門的な獣医療を学べる環境を整えていく必要があると感じています。

それぞれの獣医師がそれぞれの高い専門性を持つことで、獣医療全体の専門性が高まり、より専門的な医療を提供できるようになることは、飼い主さまの希望に合った医療を選ぶことができる、より選択肢が増えていくことに繋がると言えますね。

最後に、このページをご覧になる飼い主さまへのメッセージをお願いいたします

何かいつもと様子が違う…と感じた時には、早めに獣医師にご相談ください。特に心臓病を患っている場合は、前よりも疲れやすくなった、呼吸が苦しそう、咳をする、などの異変が現われます。

また、普段の暮らしの中での塩分管理が重要です。私たち人間は体温調節で汗をかくため塩分補給が必要ですが、汗をほとんどかかない犬には人ほど必要ありません。可愛いからと、つい飼い主さまのごはんやおやつを分けてあげていませんか?

人の食べ物は犬にとって塩分過多な場合が多く、喉が渇き水をたくさん摂ります。そうすると、体内の水分量が増えてしまい、結果、心臓に負担がかかってしまうのです。例えほんの少しの量であっても、人と比べ体の小さい小動物には大きな影響を与えてしまうこともあります。またフードのあげ過ぎは塩分過多だけでなく、カロリーオーバーによる肥満にも繋がり、それにより心臓病だけでなく、生活習慣病など様々な病気を引き起こす原因にもなります。

こういった点に注意しながら、普段の暮らしの中で動物たちの健康を見守っていただければと思います。