contents 目 次
- 獣医師を志したきっかけ
- 二次診療領域に対する考え
- 眼科を専門に選んだきっかけ
- 眼科に関して、臨床現場で実際に目にすることが多い症状
- 眼科の病気について飼い主さまが気をつけるべきこと
- 診療方針について
- 今後の目標
まず初めに、お二人が獣医師を志したきっかけについてのお話を聞かせてください
院長:動物は好きだったのですが、家庭の事情で飼ってもらえなかったんです。そのためか、余計に動物に接することができる職業に憧れがあったのかもしれません。小学生の頃から漠然とですが、獣医になりたいと思っていました。
「大人になったら何になる?」というような作文でも「獣医師になる」と書いていましたね。それでそのまま獣医師になってしまいました(笑)。
副院長:医療の分野に興味は持っていましたが、初めは獣医療に考えを絞っていたわけではありませんでした。理科系を専門的に学べる高校へ通った後、色々な巡り合わせがあって獣医療の道に進みました。
こちらの病院(くみ動物病院)で二次診療領域に対応するというお考えは、開業当初からお持ちだったのでしょうか
院長:1993年の開業当初は現在の建物に隣接している当院駐車場の位置に建物があり、そこで一般診療を行う病院としてスタートしました。その後、区画整理による移動を経て、4年前に今の場所へ戻ってきました。
日々の診察を行う中で、副院長である久美子先生か私のどちらかが、何らかの専門医療を身に着けた方が当院にとっても、ご利用していただいている飼い主さまにとってもプラスの方向に働くと考え、彼女が専門分野を勉強する方針を選びました。5年ほどアメリカへの短期訪問を久美子先生が繰り返していく中で、米国眼科専門医の下で眼科を勉強し、その後は、平日には、東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センターにて、眼科診療を担当させてもらいながら、研究に従事し、休日には当院にて診療を行うという体制をしばらく続けました。
現在では一般診療に加えて専門性を持った眼科分野の診療を行っています。
数ある医療分野から専門を眼科に選ばれたのには、何かきっかけがあったのですか?
副院長:まず、アメリカで最新医療を勉強するために、ニューヨークにあるアニマル・メディカルセンター(AMC)に伺った際に専門医療を目の当たりにしていたという背景があります。渡米した時には皮膚科や歯科などに興味を持っていたのですが、眼科専門医の先生達との出会いがあり、眼科を専攻して勉強したいという目標が出来ました。その後は、比較的時間に余裕が出来る冬季を利用して、AMCに短期留学のような形で5年間、年に何度も足を運んでいました。
そうしてAMCの先生に師事していくにつれ、本格的に眼科を学ぼうという方向性がはっきりとしてきました。5年間通ううちに、最後には師事した先生から、もう全てをあなたに伝えて、もうこれ以上教えることは無いわ。というありがたいお言葉をいただきました。その頃には、自分の中で、米国眼科専門医の先生が、一介の訪問獣医師に全て教えてくれたことを、次に伝えなければならない、そうして獣医眼科学を次の世代に広げなければならない、そうしなければ、全てを伝えてくれた先生に申し訳ない、という気持ちが湧いていました。
折しも、大学で博士号の取得に挑戦できるというチャンスをいただいた頃でもありましたので、先生にその旨を伝えると、非常に喜んでいただいたことを思い出します。
眼科に関して、臨床現場で実際に目にすることが多いのはどういった症状でしょうか
副院長:アメリカでも日本でも主な疾病は、緑内障、白内障、角膜炎、角膜潰瘍といったものですが、地域よって生じる感染症などは多少異なることがあります。私は、二次診療として眼科診療を行っていますので、全てホームドクターからの紹介症例になります。ご依頼をいただくケースの中では、角膜の傷が上手く治せない、眼圧が高い、目が見えていない、といった症状が多いように思います。
目が見えなくなることは必ずしも目の病気が原因とは限らず、脳の病気を抱えている可能性も視野に入れながら検査を進めていきます。そのため、神経科の専門医への依頼や、症例によっては協力体制で治療を進めていくことになります。
眼科の病気について飼い主さまはどのようなことに気をつけるべきなのでしょうか?
副院長:時々「最近散歩が嫌いになったみたい・・・」と話される飼い主さまがおられます。同じように、活発に活動しなくなったことの原因を気温や年齢のせいと思い込んでしまう飼い主さまもおられます。
眼科に限ったことではありませんが、以前と様子や行動が変わったのであれば、飼い主さまが原因を考えるだけでなく、お近くの動物病院に足を運びご相談いただければと思います。特に眼科に関しては、柴犬には緑内障が多い、ダックスには網膜の病気が多い、といった犬種によって発生しやすい症状もあり、早い段階で異常を見つけることができれば一次診療施設であってもアドバイスや処置を行えます。
二次診療分野も含めて、こちらの病院(くみ動物病院)で大切にしている方針はどんなものでしょうか
院長:高度な医療が必要となる症例を抱えすぎることで、他の動物達が充分な医療を受けられなくなるというのは本意ではありません。必要に応じて他の施設との連携をスムーズに取ることが必要になると思います。
二次診療機関のご紹介の必要性については飼い主さまのお気持ちにもよりますよね。そのためにも、その動物がどんな状態で、どんな病気で、治療にはどんな選択肢があるのかといった情報について飼い主さまにお伝えするのも我々の大切な義務であると思っています。従いまして、当院からは眼科以外(腫瘍科・整形外科等)は大学病院をはじめ二次診療施設にご紹介することも可能ですので、しっかりとご説明をさせていただくことが我々のモットーです。
副院長:専門医は専門の立場でアドバイスをして治療の方向性を立てるとしても、最後まで飼い主さまに寄り添うのはホームドクターではないでしょうか。そのような意味でも、一次と二次が協力して上手にやっていくのが理想ですね。
院長:診察を行う中では、残念ながら完治が難しい症状を目にすることもありますが、そのような場合でも不安要素を少しでも取り除けるようにしたいと思っています。飼い主さまのお気持ちを医療で支え、共に寄り添っていく。そんな医療を大切にしていきたいですね。
最後に、お二人の今後の目標を聞かせてください
院長:これまでとスタンスを変えることなく、今後も地域に根ざした獣医療を続けていきたいと思います。飼い主さまの喜ぶ顔を見ることができれば、それが我々の励みになります。
副院長:アジア獣医眼科学会では、発足してから5年間専門医の公募を行い、現在では23名の専門医が所属する学会に成長しています。これからアジアの眼科専門医が、我々の下で育っていくようなレジデントシステムの立ち上げを行っています。
また、2016年からは、専門医試験が実施され、レジデントが卒業するまでの間、眼科を勉強された先生方が専門医に挑戦できるシステムが動員されています。このようなアジア獣医眼科学会の仕事に携わりながら、私自身もアメリカやヨーロッパの獣医療にひけを取らない専門医でいられるよう、今よりさらに知識を深め、技術を磨いていければと思います。