
【獣医師執筆】犬の花粉症は人とは異なる!咳やくしゃみより、皮膚や耳の異常に注意しよう!
人間は花粉症に悩む人が多いですね。花粉の時期に、犬がくしゃみをしたり、犬の目が充血していると、犬も花粉症なのではないか?と心配になる方も多いでしょう。
今回は犬の花粉症に着目し、犬の花粉症とはどのようなもので、どんな症状が出るのか、気になるアレルギー性皮膚炎や外耳炎との関係もお伝えします。また特に注意すべき季節や、動物病院を受診する目安も解説。飼い主様ができる対策などもご紹介しますので是非参考にしてみてください。
目 次
人間の花粉症とは?

はじめに花粉症そのものについての解説と、犬の花粉症、混乱しがちなアレルギー皮膚炎やアレルギー性外耳炎との関連についてお伝えします。
花粉症はアレルギー反応
人の花粉症の医学的な名称は「季節性アレルギー性鼻炎」です。人における花粉症の定義は、花粉をアレルゲン(アレルギーの原因物質)とするアレルギー反応なのです。
花粉症が起こるメカニズム
花粉が繰り返し体内に侵入すると、血液中の免疫システムが、花粉に対する「IgE抗体」という免疫タンパク質を作ります。IgE抗体は「マスト細胞(肥満細胞)」という免疫細胞にくっつき、花粉が侵入するとヒスタミンやセロトニンといった炎症性の化学物質を放出します。これらの化学物質が血管や神経などに影響することでアレルギー症状が出るのです。
人の場合、マスト細胞は特に鼻や目の粘膜に多く分布しています。そのため、人の花粉症では鼻や目の症状が顕著です。
<参考>
薬が見えるVol2(医療情報科学研究所)
犬にも花粉症はある?アレルギー性皮膚炎との関連

次の章で詳しくお伝えしますが、犬の花粉によるアレルギー症状は皮膚に出ることが多いです。獣医領域では、なんらかのアレルゲンによっておこる皮膚のアレルギー症状を広義で「アレルギー性皮膚炎」と診断します。アレルゲンが特定できた場合だけ「ノミ・ダニアレルギー」「食物アレルギー」などと呼ぶのです。
犬の皮膚炎の原因が花粉によるアレルギー反応だと判明した場合、その状態を花粉症と呼ぶ獣医師もいるでしょう。一方で、花粉が原因であると獣医学的に断定することは難しく、また、獣医領域で花粉症という疾病名は存在しないため、「アレルギー性皮膚炎」と呼ぶ獣医師の方が多いです。
このコラムでは、犬における花粉へのアレルギー症状を花粉症と呼びますが、同じ状態を主治医の獣医師が「アレルギー性皮膚炎」と診断している可能もあります。
アレルギー性外耳炎も花粉が原因?
アレルギー性皮膚炎を発症した犬は、アレルギー性外耳炎になることも多いです。皮膚にアレルギー反応が出るとバリア機能が弱まり、細菌や真菌に感染しやすくなります。
耳は特にこれらの感染の影響を受けやすいため、二次的にアレルギー性外耳炎になることも多いのです。アレルギー性外耳炎の原因が花粉だと断定することは難しいですが、花粉が関連している場合もあります。
犬の花粉症はどんな症状?

上でお伝えしたように、人ではアレルギー反応に関わるマスト細胞が鼻や目に多く分布しているため、鼻や目の症状が顕著です。犬の場合、マスト細胞の分布が人とは異なり、皮膚に多いのが特徴です。
このため、犬の花粉によるアレルギー反応では、一般的に皮膚症状が多いです。ここからはさらに詳しく犬の花粉症の症状をお伝えします。

鼻水や目の充血は少ない
犬の場合、人のように鼻水が大量に出たり、目が充血することはまれです。
花粉が目に入ると、異物を排除しようとして涙や目やにが出ることはありますが一時的です。目の周囲の皮膚にアレルギー症状によるかゆみや腫れが生じることで、目の周囲を犬が掻いて二次的に目が赤くなったり目やにが出ることはあります。
くしゃみや咳はするが、続くことはまれ
犬の鼻に花粉が入ると、一時的な反応として、くしゃみをすることがあり、くしゃみが連続する「連続くしゃみ」をすることもあります。
また花粉が喉に入ると、花粉を排出しようとして咳をすることもあります。
犬が「ブーブー」「フガフガ」などの音を鳴らして反り返るような姿勢をとる「逆くしゃみ」という症状があります。逆くしゃみの原因ははっきりしていませんが、鼻の粘膜になんらかの刺激を受けると反射でおこることがあると言われ、原因が花粉である可能性も考えられます。いずれにせよ、犬が花粉症によってくしゃみや咳をし続けるケースは少ないです。
犬の花粉症は皮膚の異常が主体
犬の花粉によるアレルギー反応は、皮膚の異常として出ることが一般的です。

- 体のかゆみ
- 皮膚の発疹・赤み
- 異常な脱毛
- 皮膚のべたつき
などが最も多い症状だと言えます。
見た目で皮膚の赤みなどがなくても、非常にかゆみを感じ、搔いているうちに赤くなることもあります。特に足、目、耳、口、マズル、脇の下、腹部、肛門の周り、股間などに出やすい傾向があります。
<参照>
PetMD:7 Signs Your Pet Has Seasonal Allergies
犬の花粉症で、最も注意すべき時期は夏

アレルゲンとなる花粉は、季節によって様々です。人の花粉症のアレルゲンとしては、スギが最も多いため、花粉症のピークは春でしょう。犬の場合、どちらかというと夏の方がより注意が必要です。
2月~6月の春ごろ
スギ、ヒノキ、シラカバ、マツなどの花粉が飛散する時期です。人の場合、このシーズンが最も花粉症に悩まされる時期ですね。
6月~9月の夏ごろ
ホソムギ、ギョウギシバなどイネ科植物が花粉を持つ季節です。イネ科植物の花粉は、日本では犬の散歩コースなどにごく一般的に生えていて、犬の体に付着することが最も多い花粉です。さらに、日本の夏は温度と湿度が高く、もともと皮膚にいる細菌も繁殖しやすいため皮膚病が増える時期です。この時期が犬にとって最も注意が必要です。
8月~10月 の夏から秋
ブタクサやヨモギなど、人の花粉症のアレルゲンとして一般的な花粉が飛散する時期です。日本の秋は、地域によっては温度湿度ともに夏のような日が続くことも多く、夏から引きつづき注意が必要な時期と言えます。
花粉症の疑いがあるときの対処法

犬に花粉症の疑いがあるときの対処方法や病院に行くべきタイミング、病院ではどのようなことをするのか、他の病気との見分け方のポイントなどをお伝えします。
舐めたり掻いたりさせないことが重要
花粉症に限らず、犬がかゆみを感じた時、舐めたり掻いたりさせないことが一番重要です。舐めたり掻いたりすることで、犬自身の持つ細菌などで二次的な感染をして悪化するからです。
可能な限り早めに動物病院を受診することがおすすめですが、それまでの間は、遊びやおやつで気を紛らわせたり、エリザベスカラーの使用も検討する必要があります。
病院に行くべき判断基準
上でお伝えした通り、犬の皮膚にかゆみが出た場合は、できるだけ早めに動物病院を受診しましょう。またかゆみがなくても、皮膚の赤みや発疹が続く場合は受診しましょう。
鼻水、くしゃみ、目の充血などは、花粉症によって顕著に出ることはありませんが、その他の病気が疑われる可能性もあります。症状が続く場合は動物病院を受診するのが良いでしょう。
花粉症が疑われる時、病院ではどんなことをするの?
動物病院では、犬の症状と飼い主様からの聞き取りなどを総合的に判断して、アレルギー反応による症状であるかどうかを見極めます。
アレルギー性皮膚炎だと判断した場合、まずはシャンプー療法や、二次感染している細菌や真菌への薬剤を投与することが多いです。かゆみが強い場合はステロイドを用いることでかゆみを止めます。
飼い主様の希望がある場合は、アレルギー検査を行う場合もあります。
他の病気と見分けるポイントは?
花粉症は、花粉の飛散する時期にのみ症状が出るため、

- 症状に季節性があるかどうか
が他の病気と見分ける最大のポイントです。毎年同じ時期に症状が出る場合は花粉症が疑われます。
自宅でできる、犬の花粉症対策

ここでは、飼い主様にできる花粉症対策をお伝えします。
まずは人と同様に、花粉を自宅に持ち込まないことが大切!その他、犬特有の皮膚への注意が必要です。

散歩から帰ったら体を拭く
散歩から帰ったあとは、濡れタオルなどで体に付着した花粉をとりましょう。特に、指の間や股の間、尻尾の下のお尻の部分は見落としがちです。拭いたあとに、体をしっかり乾かすことも大切です。
散歩の際に服を着せる
花粉が体に付着しないように、散歩時に服を着せるのも良いでしょう。帰宅したら、服は脱がせて洗濯することで花粉を家の中に持ち込まないように注意しましょう。
飼い主様も帰宅後は着替えてシャワーを
花粉を飼い主様が持ち込んでしまうこともあります。できるだけ帰宅したらすぐに着替えシャワーを浴びてから犬と触れ合うのが良いでしょう。
空気清浄機の導入
室内のこまめな掃除で花粉を除去することは重要です。花粉対策用の空気清浄機を導入することで、さらに花粉除去効果が期待できる可能性もあります。
散歩時間や場所の工夫
花粉の飛散量は、植物の種類などによって様々です。スギの場合、午前中から昼過ぎにかけて山から飛散した花粉が飛ぶと言われています。さらに、夕方になると上空の花粉が降りてくるなどで再度飛散ピークが訪れるため、散歩は午後の夕方前が良い可能性があります。しかし、イネ科植物は、飛散した花粉より草むらを歩くことで直接付着することが多いです。時間帯よりも草むらを歩かせないなど散歩の場所を工夫する方が効果的です。
肌の保護、乾燥予防
皮膚が乾燥していると、花粉が皮膚に侵入しやすくなります。散歩の際、保湿効果のあるワセリンなどをごく薄く塗ることは効果のある可能性があります。ただし、人用の保湿剤などは犬の皮膚状態を悪化させる可能性があります。使いたい保湿剤は、念のため事前に獣医師に相談しましょう。
ノミ・ダニ駆虫をしっかり
花粉にアレルギーを持っている体質の犬は、ノミ・ダニアレルギーや食物アレルギーなども持っていることが多いです。花粉だけを警戒するのではなく、ノミ・ダニの駆虫も定期的に行いましょう。
Q&A
人間用のアレルギー対策薬(アレジオン)などをあげてもいいでしょうか?
花粉症の薬に関わらず、人の薬を犬に自己判断であげることは絶対に避けましょう。効果が出ないだけでなく、重篤な副反応(副作用)が出る可能性もあります。
特に注意すべき犬種はありますか?
海外では、花粉症になりやすい犬種トップ10として、ピット・ブル・テリア、ビション・フリーゼ、ボクサー、コッカースパニエル、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリバー、ダルメシアン、アイリッシュ セッター、シュナウザー、ウエスト・ハイランド・テリア が挙げられています。
日本の実際の臨床現場では、犬種にそれほど偏りはないと言う獣医師も多いです。
<参照>
10 dog breeds more likely to suffer from hay fever
人間の花粉症のように突然なることがあるのでしょうか?
犬の花粉によるアレルギー反応もあるタイミングで突然発症します。犬のアレルギー性皮膚炎は、多くの場合生後半年程度~3歳くらいのあいだで診断されます。
犬のアトピー性皮膚炎とアレルギー性皮膚炎は同じですか?
アレルギー性皮膚炎の中でも、食物以外の環境アレルゲンが原因でおこるアレルギー反応をアトピー性皮膚炎と呼びます。環境アレルゲンには花粉も含まれますが、ハウスダストなどその他の要因も含まれます。犬のアレルゲンを特定することは難しいため、獣医師はなんからのアレルギー反応による皮膚症状はアレルギー性皮膚炎と診断します。その中で、アレルゲンが花粉やハウスダストなどの環境アレルゲンに絞られている場合はアトピー性皮膚炎と呼ぶこともあります。
犬でもアレルギー検査があると聞きました。犬が花粉症かどうかを確定したいので、検査を受けさせたいのですが主治医の獣医師はあまり意味がないと言います。なぜですか?
人も犬も、アレルゲンの特定には「アレルゲン特異的IgE検査」という検査を行います。花粉以外にも、カビや昆虫、食物など40~100種類の物質に対するアレルギー反応を調べることができる検査ですが、犬の場合、残念ながら正確性はかなり低い検査です。花粉症を含め、アレルギー性皮膚疾患の場合、原因の追究よりも症状のコントロールが重要なので、症状が抑えられていれば積極的にアレルギー検査を勧める獣医師は多くありません。
まとめ

犬の場合、花粉だけが原因のアレルギー反応はそれほど多くありません。多くの場合、ノミ・ダニや食物など複数の要因が複雑に絡まって症状が出ています。
原因の追究よりも、症状の緩和が大切です。一般的に「かゆみ」は「痛み」と比較して軽視されがちですが、犬本人は大変つらくストレスが大きい状態です。犬がかゆそうにしていたらすぐに動物病院を受診しましょう。犬がアレルギー性皮膚炎と診断された場合、根気よく症状とつきあう必要があります。獣医師と連携をとりながら、上手に症状をコントロールしましょう。
<参考>
獣医内科学第2版 文永堂出版
イヌ・ネコ家庭動物の医学大百科 財団法人 動物臨床医学研究所
<関連記事>
皮膚トラブル(細菌性皮膚炎・アトピー性皮膚炎)と東洋医学【獣医師解説】
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