【獣医師執筆】犬の去勢手術はどうする?いつが適正?メリット・デメリットを知って考えよう

【獣医師執筆】犬の去勢手術はどうする?いつが適正?メリット・デメリットを知って考えよう

2023/2/28

雄犬を飼うと必ず決断すべきことが、去勢をするか否かです。以前は、犬の去勢はメリットがデメリットを上回るという考えが主流でした。現在は「去勢の有用性は、犬種や環境などによって大きく異なるため、飼い主様が獣医師と話し合って決定する」という考えが一般的です。

今回は、去勢手術を検討する際の材料のひとつとして、メリット・デメリットを詳しくお伝えするとともに、手術を受けるのに適切な時期や、費用についても解説します。

獣医師
【執筆医】ttm
獣医師

犬の去勢とは?具体的な手術内容

Examining of lovely dog by stethoscope in vet clinic

犬の去勢はどのような手術なのでしょうか。ここでは具体的な手術内容についてお伝えします。

犬の去勢とは、精巣(睾丸)を摘出すること

犬の去勢とは、精巣(睾丸)を摘出することです。精巣には、精子をつくって貯蔵する役割があるため、精巣を持たない犬は生殖能力を持ちません。また、精巣は男性ホルモンを生成するため、摘出すると、男性ホルモンも少なくなります。

犬の精巣は、普段は陰嚢(いんのう)という袋状の組織に覆われて、体の外側にぶら下がった状態になっています。

どんな手術?

手術では、全身麻酔で犬を意識のない状態にして、陰嚢の皮膚を数センチ切開します。切開した隙間から精巣と血管及び精管(精子の通り道)の一部をひっぱり出し、出血しないように血管や精管をしっかりと結紮します。精巣を切り取って摘出し、切開した陰嚢の皮膚を縫合して手術は終了となります。

   

手術時間は20分前後で、一般的に出血もごく少量です。雌犬の避妊手術とは異なり、お腹を開くのではなく、体の外側に出ている陰嚢からのアプローチとなるため、雌犬の避妊手術よりも体への負担は低いと言えます。

手術は通常日帰りで行われます。縫合した皮膚の抜糸は1週間~10日後に行いますが、抜糸時は麻酔なども必要ありません。

犬の去勢はするべきなのか?

Man with cute dog in spring park

去勢をすべきかどうかは、飼い主様自身が決めなくてはなりません。ここでは、判断材料となる去勢のメリットやデメリット、去勢をしないとどうなるかなどについて詳しく解説します。

去勢のメリット

雄性生殖器関連の病気を予防する
前立腺肥大、精巣腫瘍、肛門周囲腺腫、会陰ヘルニアなどは、去勢によって防げる病気です。

   

性的なストレスを軽減させる
去勢をすると性的なストレスが軽減されます。犬自身も穏やかな気持ちで過ごせますし、飼い主様のストレスも軽減されるでしょう。

   

○雄特有の行動(マーキング、マウンティングなど)を減らす
去勢の時期によって、マーキング、足を上げる排尿、マウンティングなど飼い主様にとって好ましくない行動を減らすことができます。
ただし、すでに性成熟に達し、何度もこのような行動を行ったことがある場合、去勢をしても行動を完全になくすことは難しいと言えます。マーキングなどを絶対にさせたくない場合、性成熟前に去勢を行う必要があります。

   

<関連記事>

犬の前立腺肥大について

犬の精巣腫瘍について

去勢のデメリット

肥満になりやすくなる
去勢後は肥満になる傾向が高いです。ゴールデン・レトリバーの去勢と肥満に関する調査では、去勢の年齢に関わらず、去勢をした犬は未去勢の犬よりも肥満になる可能性が高いことがわかりました。

   

<参照>Age at gonadectomy and risk of overweight/obesity and orthopedic injury in a cohort of Golden Retrievers | PLOS ONE
   

●手術自体のリスク
去勢手術は、それほど侵襲性(身体への負担)の高いものではありませんが、全身麻酔が必要です。犬の年齢や健康状態によってはリスクがあります。

   

一部の大型犬で、1歳未満の去勢による関節疾患や骨肉腫のリスク増加
ゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバー、ジャーマン・シェパードでは、1歳未満での去勢により、関節疾患のリスクが増加することがわかっています。ロットワイヤーでは、1歳未満の去勢により、骨肉腫という骨の癌になるリスクが増加することがわかっています。

   
<参照>避妊・去勢手術の温故知新 ~日常化している手術を再考する~(2、エビデンスから避妊去勢の時期,方法,益と害を再考する 29-4_12_SC02_ito.indd (jst.go.jp) )

   

<関連記事>

犬の骨肉腫について

去勢をしないとどうなるの?

Studio shot of two adorable Havanese dog - isolated on grey background.

去勢をしないとどうなるかは、犬と飼い主様の環境により一概には言えません。
ただ、精巣腫瘍など、健康上の問題が発生する可能性は否定できません。また、室内でマーキングを繰り返されると、困る飼い主様も多いでしょう。犬が雌犬に興奮して走り出すなどの行動で、飼い主様自身も危険にさらされることがあるかもしれません。
ドッグランなどの公共施設で犬を遊ばせたくても、未去勢の場合、安心して遊ばせることができないこともあるでしょう。

   

一方で、マーキングの掃除もそれほど苦にならない飼い主様もいるでしょう。外出が少ない犬は、性的な刺激によるストレスが少なく、あまり困ることがない可能性もあります。

適切な時期

トイプードルの子犬

去勢することを決めた場合、いつ頃の時期に行うのが適切なのでしょうか。また、すでに性成熟を迎えた成犬に関して、何歳まで手術に耐えられるのかなどの情報もお伝えします。

推奨年齢は生後6カ月前後

犬は生後6カ月ごろから1歳までに性成熟に達します。性成熟前に去勢を行うことで、マーキングなどの雄特有の行動を防ぐことができます。
早ければ早いほど良いというわけでもなく、5.5か月未満の去勢には、攻撃性や無駄吠えなどのリスクが増加する可能性も指摘されています。犬の去勢は性成熟を迎える直前の生後6カ月くらいを目安に考えると良いでしょう。

ただし、上でもお伝えした通り、一部の大型犬においては、1歳未満の去勢によるリスクの増加がわかっています。これらの犬種では、去勢の時期については遅らせる必要があります。

性成熟後の成犬でも去勢手術はした方がいい?リスクは?

性成熟後の犬の場合、去勢をした方がいいかどうかは、去勢に何を求めるかによって異なります。

生殖器疾患の予防は、犬が何歳であっても有用です。マーキングや散歩中の引っ張り、他の犬への飛びつきなどの性的衝動が原因となる行動に困っている場合、すでに犬がこのような行動を何度も繰り返していると、去勢手術だけでは改善しないことが多いです。

飼い主様にとって困る行動の一部は、生活環境を見直すことで改善される可能性も高いです。去勢も視野にいれながら、信頼できるドッグトレーナーなどに相談することをおすすめします。

去勢手術は何歳までできる?

去勢手術が何歳まで可能なのかは、一概には言えません。

高齢になるほどリスクは上がりますが、年齢だけではなく、基礎疾患の有無なども考慮する必要があります。獣医師とよく相談しましょう。

去勢手術の流れと注意点

A small Jack Russell cross Papillon puppy wearing a protective cone after having an operation at the vets

去勢を決めた場合、どのような流れになるのでしょう。動物病院によっても異なりますが、ここでは一般的なものをご紹介します。

   

①相談・予約
まずは動物病院で、去勢手術を受けさせたい旨を伝えて相談しましょう。相談ののち、手術日の予約を入れます。

   

②術前検査
手術日の2週間くらい前に、動物病院を受診して、血液検査やレントゲン検査など必要な検査を受けます。高齢犬になると、検査項目が増える可能性もあります。術前検査で問題がなければ、手術を迎えます。

   

③手術前日
手術前日のご飯などは、動物病院から指示されます。夜22時以降は何も食べさせない、などの決まりがあるので、よく聞いて守りましょう。

   

④手術当日
当日の朝は絶食の指示をされることも多いです。受診後に犬を預けて、飼い主様は一度病院を離れます。指定の時間にお迎えに行きましょう。去勢は基本的に日帰りで行います。

   

⑤帰宅後から抜糸まで
手術後は、犬が傷口を舐めないようにしましょう。必要な場合は、エリザベスカラーを使います。帰宅後は食事を与えることができますが、食欲がないようなら無理に与える必要はありません。手術後、抜糸までの期間は、激しい運動は控え、散歩も軽いウォーキング程度にしましょう。傷口からの感染防止のため、草むらや水たまり、泥などに入らないように過ごしましょう。シャンプーもこの期間は行いません。

   

⑥抜糸
抜糸は手術後1週間後~10日程度で行えることが多いです。抜糸後も、2~3日は激しい運動を控えて傷口の様子を見ると安心です。

手術の費用・補助金・ペット保険について

ここでは、気になる犬の去勢費用について解説します。自治体の補助金やペット保険が使えるのかどうかなども解説します。

手術費用

手術費用は動物病院ごとに設定されます。おおむね30,000円~50,000円程度の幅が一般的だと言えますが、この中に、術前検査の費用なども含まれる場合と、これらが別途必要な場合などさまざまです。
手術を受ける予定の病院で、トータルでの金額の目安を問い合わせると良いでしょう。

何らかの原因で、入院が必要な場合は入院費も加算されます。

補助金・ペット保険は適用できる?

お住まいの自治体によっては、犬の去勢費用の一部に対して補助金や助成金が出る場合があります。自治体のホームページなどで確認しましょう。

ペット保険は、犬が病気や怪我をしたあとの治療費を補償するものです。去勢に対しては、適用外となることが一般的です。

納得できる動物病院を選ぶために

診察をする獣医師さんとシーズー

去勢の相談をする病院は、長くつきあえるかかりつけの動物病院にしたいですね。ここでは、納得できる病院を選ぶために飼い主様が考えるべき項目についてお伝えします。

  

病院の距離
通いやすい病院というのは最も重要な要因のひとつです。移動は犬にとってもストレスになりますし、いざという時に駆け込める距離にかかりつけの病院があると心強いものです。

   

獣医師との相性
飼い主様と獣医師の相性は大切です。特に、飼い主様がリラックスして、疑問や思ったことを口に出しやすい獣医師かどうかは重要です。話を遮る獣医師や、飼い主様が緊張して思うようにしゃべることができない獣医師とは相性が悪いと考えて良いでしょう。

   

ペットが安心できているか
獣医師をはじめ動物病院のスタッフが、犬が安心できる環境を提供しようとしてくれているかを確認しましょう。スタッフが静かに動いているか、優しい声掛けをしているか、犬が嫌がった時は少し待って様子を見てくれているかなどに着目して観察してみましょう。

   

費用の話がしやすいか
獣医師の方から処置に対する細かい費用の話がなされたり、費用別の処置プランを提示してくれたり、飼い主様が費用に関して率直に質問できるような動物病院が良いでしょう。

   

最新設備などは二の次で大丈夫
かかりつけのホームドクターを選ぶ際は、最新の設備などはあまり考慮の必要がありません。設備が必要な病気になった時に、かかりつけ医から紹介してもらえば良いでしょう。

   

獣医師任せにしない姿勢
「先生にお任せします。」という飼い主様は多いです。しかし、獣医師任せにしてしまうと、あとから後悔することもあります。現在はインターネットなどでの情報収集もできますし、飼い主様自身が少しでも知識をつけることも大切です。

Q&A

手術後、エリザベスカラーと術後服で悩んでいます。どちらがおすすめでしょうか?

犬がストレスを感じにくい方を選びましょう。エリザベスカラーをつけたことがない犬は、我慢できず暴れることがあります。ご飯を上手に食べられず、ストレスになることもあります。一度動物病院で試しにつけさせてもらって、犬が強く嫌がるようなら術後服を選びましょう。
ただし、術後服は正しく着せないと患部が露出してしまって意味がなかったり、清潔を保つために洗濯するなどのケアが必要なこともあります。動物病院の方針がある場合もあるので、術後については獣医師とも相談しましょう。

手術後、丸一日経過しても愛犬が辛そうです。痛みはどのくらいでおさまるものでしょうか?

抜糸できる時期くらいまでは、動いた拍子などに強い痛みを感じることがあります。しかし、継続する痛みは、長くても3日間程度でしょう。犬の食欲がなかったり元気がない原因は、痛みではなく精神的なショックによるものかもしれません。あまりに様子が異常な場合、動物病院に相談してみると安心です。

元気ですがトイレの回数が増え、粗相もするようになりました。再度病院へ行った方がいいでしょうか?

手術後は、患部に違和感を感じたり痛みを感じるなどの理由から、繰り返し排尿姿勢を取ったり、粗相をすることがあります。抜糸の時期くらいには落ち着くはずなので、他に異常がない場合は抜糸まで待っても良いでしょう。

手術後はフードを変更した方がいいのでしょうか?

現在のフードにもよるため、一概には言えません。一般的には、フードの変更は必要なく、現在のフードを少し減らすことが多いでしょう。フードの説明書きに、去勢後の犬の場合に与える量が書かれていることが多いです。その他、他の理由でフードの変更が必要になることもあるため、獣医師の指示に従いましょう。

去勢後もマウンティング行動が収まりません。正常でしょうか?

正常だと言えるでしょう。去勢の年齢にもよりますが、すでに性成熟を迎え何度もマウンティングなどの行動をとった経験のある犬の場合、去勢手術のみで完全にこれらの行動をなくすことは難しいです。特に去勢直後は、まだ男性ホルモンが残っているため、行動はほとんど変わらないことが多いと言えます。

他の犬を見ると追いかけたりマウンティングするなどの行動に困っています。去勢すれば改善されますか?

上でもお伝えしたように、すでに性成熟に達して何度も雄特有の行動を取っている場合、去勢のみでこの行動をゼロにすることは難しいでしょう。しかし、去勢は改善方法のひとつの手段でもあります。去勢と同時にドッグトレーナーなどに相談し、環境を見直すことで飼い主様の困りごとが解決する可能性が高いです。

去勢しないと、精巣が腫瘍になりやすいと聞きました。腫瘍になってから手術するのでは手遅れですか?

必ずしも手遅れではありません。実際に、未去勢の犬で精巣腫瘍になってから手術をする犬もたくさんいます。ただし、精巣腫瘍は高齢でなることが多いため、一般的には手術のリスクは高くなります。基礎疾患などによっては、手術ができないこともある点を頭にいれておく必要があります。

性成熟後に去勢をしました。去勢後、活発さがなくなった気がして心配です。男性ホルモンが低下することで、おとなしくなったり活動性が落ちることがあるのでしょうか。

未去勢の雄は、室内にいても周囲の雌のフェロモンなどを感知し、興奮状態が続くことが多いです。去勢後、雌の刺激に反応しなくなり、おとなしくなったように感じることがあるでしょう。性的興奮によってそわそわすることが減るため、全体的に活動量が低下したように見えることもありますが、健康上の問題はありません。ただし、まったく別の病気が潜んでいる可能性もあります。様子が気になる時は動物病院を受診する方が安心でしょう。

後悔しない選択のために

portrait of cute jack russell over pink background. Colorful, spring or summer concept

今回は、犬の去勢についてお伝えしました。なんとなく心配だから去勢手術をしない、又はなんとなく良さそうだから去勢手術をする、というような曖昧な姿勢だと、問題が発生した時に後悔する可能性があります。
重要なのは、去勢に何を求めるかをはっきりさせることです。そのために、住居をどの程度汚されてもいいのか、どれくらいドッグランなど公共施設に出かけたいのかなど、犬との理想の生活をしっかりと思い描いておくことが大切でしょう。

獣医師
【執筆医】ttm

動物園獣医師としての経験を活かし、様々な種のペットの健康や生活のための情報発信を心がけています。 これまでにポメラニアン、ヨーキー2頭、ハムスター、リスと飼育数も多く、現在はカメと暮らすなど動物大好きです。

おすすめ情報

犬の新着記事

犬の新着記事一覧へ

Ranking