【獣医師執筆】犬のダイエット!肥満チェック方法や注意点を紹介。食事と運動で成功させよう!

【獣医師執筆】犬のダイエット!肥満チェック方法や注意点を紹介。食事と運動で成功させよう!

2023/2/3

ぽっちゃりした犬は愛らしいものですね。しかし、実は人間が見た時に「ぽっちゃりしてかわいい」という印象の犬は、獣医学的には肥満の可能性が高いのです。今回は、はじめに犬の肥満をチェックする方法についてお伝えし、犬の肥満に潜む健康上のリスクや、ダイエットをはじめる場合の方法および注意点なども具体的にお伝えします。

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【執筆医】ttm
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犬の肥満チェック!ダイエットすべき?

芝生を歩くブルドッグ

まずはじめに、犬が肥満かどうかのチェックが必要ですね。犬の肥満は、主に体重とボディコンディションスコア(BCS)で判断します。肥満かどうかの判断については獣医師にも相談すると安心です。

体重で判断する方法

犬の理想の体重は、犬種やその犬ごとによって様々です。目安として利用できる情報のひとつが、ジャパンケンネルクラブが出している犬種ごとの理想体重です。

   
参照 一般財団法人ジャパンケンネルクラブ 世界の犬
   


もう一点参考にできるのが、その犬が1歳の時の体重です。

犬はおおむね1歳で成長が止まります。1歳で肥満になることは少ないため、この時点の体重を理想体重とみなすことができます。

犬種ごとの理想体重や、1歳の時の体重よりも、体重が10~20%多い場合、その犬は肥満傾向だと言えます。

ボディコンディションスコア(BCS)で判断する方法

BCS

体重に加え、犬の肥満をチェックするために重要なのが、ボディコンディションスコア(BCS)です。動物病院でもほとんどのケースでBCSを用いて犬の肥満を診断します。

BCSは5段階に分かれており、1が痩せ、3が標準、5が肥満です。BCSが4以上の犬にはダイエットが必要です。(BCSは9段階で評価する方法もありますが、動物病院ではほとんどが5段階評価を使います。)

BCSは、犬を上及び横から見た時の見た目と、犬の肋骨及び腰骨に触れた時の感触で判断します。

理想のBCS3は、横からも上からもウエストのくびれが確認できて、肋骨や腰の骨を触ると脂肪を触知せずに骨が触れる状態です。いっぽうBCS5は、見た目でウエストのくびれが全く確認できず、横から見ると腹部の垂れ下がりが見られ、肋骨や腰の骨が脂肪に覆われて簡単に触知できない状態です。

   

<参照>

環境省飼い主のためのペットフード・ガイドラインp14

犬の肥満の原因は?遺伝や病気も関わる?

犬の肥満の原因は、人間と同じく、必要なカロリーを上回ってカロリー摂取を行うことです。

ゴールデンレトリバー、ビーグル、パグといった一部の犬種は、遺伝的に肥満になりやすいと言われていますが、実際に動物病院で出会う肥満の犬に犬種の偏りはあまりみられません。

犬の肥満は生活習慣による原因の方が大きな割合を占めていると言えるでしょう。ただし、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などの病気が肥満を引き起こすこともあります。

犬の肥満によるリスク

Big white dog sitting on the veterinarian scales while doctor inspects the dog and owner behind the dog.

上では犬の肥満のチェック方法についてお伝えしました。犬が肥満になると何が良くないのでしょうか。ここでは、犬の肥満による健康上のリスクについてお伝えします。

肥満の犬は短命だという調査も

肥満のリスクとして、短命になる可能性が挙げられます。

アメリカで行われた研究のひとつに、同じ血筋のラブラドールレトリバーの寿命を調査したものがあり、きょうだいでも肥満のラブラドールレトリバーは、適正体重のラブラドールレトリバーより平均1.8年も短命だったそうです。

肥満はさまざまな疾患の原因となるため、寿命も短くなると考えられています。

   

<参照>

Diet restriction and ageing in the dog: major observations over two decades | British Journal of Nutrition | Cambridge Core

肥満によってなりやすい疾患

寿命に影響を与える、さまざまな疾患にかかりやすくなります。

心臓への負担が大きいため、高血圧などになりやすく、心不全などの循環器系の疾患にかかるリスクが上がります。また首に脂肪がついて気管を圧迫することでおこる、気管虚脱などの呼吸器疾患へのリスクも高まります。

足腰への負荷も大きいため、椎間板疾患、股関節疾患、十字靭帯断裂などの運動器疾患も増えます。

その他、膵炎糖尿病膿皮症などの皮膚疾患、泌尿器疾患などのリスクが上がることも指摘されています。肥満はありとあらゆる疾患の原因となりうるのです。

   

<関連記事>

犬の肥満について

犬のダイエット計画

Woman writing something on sheet of paper with diet plan, top view

犬の肥満が判明したら、ダイエットが必要ですね。ダイエット計画は飼い主様ひとりで立てずに、獣医師と連携して立てることが成功のカギとなります

1ヶ月でどの程度の減量をすべき?

犬にとって急激なダイエットは健康に良くありません。最大でも、1 か月あたり3~5%程度の減量にとどめましょう多くの場合、1か月あたり1%~2%の減量を行い、数カ月かけて目標体重に到達することが推奨されます。

どのくらいで痩せる?停滞期はあるの?

食事と運動を改善すると、比較的すぐに体重の減少がみられるでしょう。多くのケースで1カ月以内に効果があらわれるはずです。ただし運動面の改善を行わない場合、あまり効果がみられないこともあるので注意が必要です。

犬のダイエットにも停滞期はありますが、ダイエットしているはずなのに体重が落ちないという場合の多くは、ご家族の誰かが「少しくらい大丈夫だろう」とおやつをあげていることが原因です。ご家族内でお互いの情報をしっかり交換しましょう。

これはダメ!危険な犬のダイエット

飼い主様独自のダイエットは危険です。特に、

  • 1カ月に5%以上の体重を落とす、過度なダイエット
  • 自己流の置き換えダイエット

の2点には注意が必要です。

インターネットなどでよく見かけるのが「ドッグフードフードを減らして、そのぶんをキャベツなどの野菜に置き換えるダイエット方法」です。一見、簡単で健康的に見えますが、犬にとって完全食であるドッグフードを減らす場合、そのぶんをどのような栄養素で補えばよいかを考えるのは、専門的な知識が必要です。必ず獣医師と相談して行いましょう。

食事で始める犬のダイエット

Pug with food.

ダイエット中の食事面に関する注意点などをお伝えします。

基本は市販のダイエット用フードを使う

多くの場合、獣医師から市販のダイエット用フードに変更することを提案されるでしょう。健康的にダイエットを成功させるためには、ダイエット用フードを与えることが一番大切です。

ダイエット用フードは、嗜好性が高くないことが多いため、急に変更すると犬が食べないことがあります。現在のフードに少しずつ混ぜて与え、1~2週間かけてゆっくり切り替えましょう。

食べ残しはその都度処分する

ダイエットフードへの切り替えの最中に、犬がダイエットフードだけを食べ残すこともあります。あとで食べてくれるだろうとそのまま放置するのではなく、必ずその都度処分しましょう。いつでも食べられると思うと、犬にとってフードの魅力が減ってしまいます。

食事量は一定のまま、食事回数を増やす

ダイエット中は、食事の回数を増やすのも良いアイデアです。1日に与える総量は一定のまま、回数だけを増やしましょう。犬にとっては、1回量が減っても食事自体の回数が増えることは嬉しいものですし、満足度も上がります。

食事の与え方に工夫を

犬は、餌皿に入ったフードより、少し隠されたフードの方を好んで食べる傾向があります。餌皿にフードを入れることにこだわらず、タオルの下に隠したり、犬用の知育玩具などにフードを入れて、犬が少し努力してフードを食べられるようにすると、食事量が少なくても犬は精神的に満たされます。

これは、専門用語で「コントラフリーローディング」という現象を利用したアイデアです。コントラフリーローディングは、犬やその他多くの動物が持つ性質で、まったく同じ食べ物なら、 努力をせずに得られる食べ物よりも、努力して得られる食べ物によい強い魅力を感じるというものです。

  

<参照>

Discovering Contra Freeloading in Dogs and Why it Matters – Dog Discoveries

野菜などの利用は最低限に

どうしても市販のダイエットフードを食べないという犬には、現在のフードを減らし、そのぶん野菜など食物繊維の豊富な食材を取り入れる方法をおすすめすることもあります。ただし、市販のダイエットフードを食べない犬は、それほど空腹を感じていなかったり、食べなければ飼い主様が他になにかをくれることをわかっています。できるだけ野菜などに頼らずにダイエットフードを与えましょう。

心を鬼にして、おやつは禁止!

ダイエット中は基本的に、おやつはまったく与えないという考え方が大切です。かわいそうな気持ちになることもあるかもしれませんが、犬の健康のために、時には心を鬼にしましょう。

多頭飼いの場合の食事方法

多頭飼いの場合は、1頭1頭の食事場所を離して、お互いの食事を絶対に食べられないようにすることが必要です。可能であれば、食事の部屋自体を分けましょう。もしも犬がフードを食べ残した場合は放置せず処分しましょう。

運動で始める犬のダイエット

Dog walks happily on a treadmill indoors

ダイエット中の運動面に関する注意点などをお伝えします。

ダイエットに適切な散歩とは?

犬の運動の基本は散歩ですね。ダイエット目的での散歩は、飼い主様も軽く汗ばむ程度のスピードを意識する必要があります。アメリカの「ペット肥満予防協会(Association for Pet Obesity Prevention)」が推奨するスピードは、約1.6kmの距離を15分間で歩くスピードです。ダイエット中は散歩を運動と捉え、スピードも意識してみましょう。

  

<参照>

Dog Weight Loss — Association for Pet Obesity Prevention

散歩の習慣がなければ、まずは10分を目安に

肥満と診断される犬の多くは、散歩の習慣が全くないことも多いです。急に散歩に出かけても、すぐに疲れて歩くのを拒否することも多いでしょう。まずは10分の散歩を目安に、少しずつ歩く時間を延ばしましょう。理想の散歩時間は、

  • 小型犬:20分~60分を1日1回~2回
  • 中型犬:30分~2時間程度を1日1回~2回
  • 大型犬:30分~1時間くらいを1日1回~2回

   

程度ですが、肥満度合いや足腰の状態によっても異なります。無理のない範囲での散歩を目指しましょう。

運動量を増やす

体重が落ちて運動がしやすくなると、犬にとっても散歩の時間が楽しいものになります。

犬が散歩を楽しむようになったら、積極的に階段や坂道を取り入れるなどで、運動量を増やしましょう。日常の運動に慣れてきたら、ドッグランやアジリティ施設の利用などで、特別な運動を取り入れるのも良いでしょう。水泳は肥満気味の犬も足腰への負荷が少なく運動量が増やせるためおすすめです。

室内でも、できるだけ体を動かす

室内でも、少なくとも10分~15分程度の運動を、2回程度行うことが必要です。飼い主様との遊びでは、おもちゃやボールなどを利用してできる限り運動量を上げましょう。

室内でできるハードル飛びなどのアジリティグッズや、犬用のルームランナーなどを取り入れるのも良いでしょう。

運動嫌いの犬はどうしたら良い?

健康な犬は自然と運動を好みますが、肥満の犬は運動を嫌う傾向があります。少し動いただけでも息があがったり、疲れたりするからです。ダイエット中、どうしても犬が運動をしてくれなくて困際は、まずは獣医師の診察を受けて、体に異常がないかどうかを確認しましょう。健康であれば、フードを投げて与えたり、転がる知育玩具に入れるなど、食べるために体を動かさなければならない状況をつくってみましょう。

高齢犬や持病がある犬の場合

高齢犬や内科的な持病、または足腰などの関節などに持病がある犬の場合、無理に運動をさせることは控えましょう。獣医師の指示のもと、気分転換を目的としたゆっくりとしたウォーキングなどがおすすめです。

犬のダイエット成功例

Beagle dog in Christmas time lying on floor with tonque out in decorated room with New Year festive tree. Doggy pet in Xmas home atmosphere

人間のダイエットと同じく、犬のダイエットも成功するのは難しいものです。

ここでは、筆者がまだ獣医学生だった時に体験したダイエットの成功例についてお伝えします。この犬は、大学の付属動物病院で供血犬として飼育されていたメスのビーグル犬で、BCS5のいわゆる樽犬の状態でした。肥満のままでは供血犬としてもリスクが大きいため、学生たちがダイエット計画を立てました。

この犬の食事について見直したところ、途中でフードが切り替わりフードのカロリーが変更されたにも関わらず、以前と同じ量を与え続けていたことで、慢性的にカロリー過多になっていることに気づきました。また、毎回フードのグラム数を測るのが面倒なため、目分量で与えているうちに、多めに与えてしまっていたこともわかりました。

そこで、正しい量のフードに変更し、フードの計量を簡単に行えるようにカップに目印をつけ、学生が協力して当番制で1日2回、散歩に連れ出すことにしました。もともと散歩の習慣がなかったため、はじめは全く歩かず、すぐに戻ろうとしていましたが、だんだんと散歩も楽しいと気づきはじめ、しっかり歩くようになりました。停滞期などもあまりなく、1年程度でほぼ標準体型であるBCS3になりました。

Q&A

ダイエットは犬種による違いより、その子その子の状態を正しく把握して、ふさわしい方法を見極めることが大切です。一般的に、小型犬の場合はおやつの与えすぎが特に顕著に出やすい傾向があります。飼い主様から見て一口程度のおやつでも、小型犬にとっては1日に必要なカロリーの多くをその一口で摂取することになります。1日に与えて良いおやつをあらかじめ小分けにして、それ以上は与えないなどのルールを作りましょう。

残念ながら、マッサージに直接的なダイエット効果はありませんが、血行を良くする、犬のストレス解消にもつながるなど、メリットもたくさんあります。積極的に取り入れるのは良いでしょう。

体重が適正体重になったら、普通のドッグフードに戻すことは可能です。ただし、こまめな体重測定を行いながら、様子をみましょう。ドッグフードからダイエットフードに切り替える時と同様に、急に全てを変えるのではなく、少しずつ混ぜていって1週間くらいかけて切り替えを行いましょう。

犬の筋肉太りはありません。逆に、肥満の犬は筋肉量が少ない傾向があります。犬の筋肉量を測定する方法として、世界小動物獣医師会(WSAVA)が提唱しているマッスルコンディションスコア(MCS)という指標があります。
目視と触った感触で、側頭部、肩甲骨、肋骨、腰椎、骨盤の5ヵ所を確認し、筋肉量を確認するものです。この指標でも、筋肉量が多すぎるという判断をすることはありません。
<参照>Muscle_condition_score_chart_2013.pdf (jbvp.org))

与えないことを推奨します。カロリーゼロ・カロリーオフは、本当にカロリーが無い商品ではありません。

・100gあたりのカロリーが5キロカロリー未満の商品がカロリーゼロ
・100gあたりのカロリーが40キロカロリー未満の食品がカロリーオフ

なのです。どうしても与えたい場合は、おやつで与えた分のカロリーをフードから抜く必要がありますが、栄養不足になる恐れがあるため、おやつではなくダイエットフードを食べてもらいましょう。

正しいダイエットで、愛犬の肥満を解消しましょう

笑顔で見つめる、ぽっちゃりした小型犬2頭

今回は、犬の肥満に着目し、肥満の判断方法や肥満によるリスク、ダイエットの方法などをお伝えしました。犬のダイエットは、飼い主様にとってもストレスになることがあります。一緒に外に出てリフレッシュするなど、上手に気持ちの切り替えを行いましょう。

ダイエットのポイントは食事と運動です。正しく取り入れれば結果は必ず出ます。犬の健康のためには時には心を鬼にしてダイエットを成功させましょう。

獣医師
【執筆医】ttm

動物園獣医師としての経験を活かし、様々な種のペットの健康や生活のための情報発信を心がけています。 これまでにポメラニアン、ヨーキー2頭、ハムスター、リスと飼育数も多く、現在はカメと暮らすなど動物大好きです。

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