【獣医師執筆】犬の肉球の役割とケア方法、病気や怪我などのトラブル、舐める理由について

【獣医師執筆】犬の肉球の役割とケア方法、病気や怪我などのトラブル、舐める理由について

2022/12/8

犬の足の裏にある肉球。ピンク、黒、水玉のような模様など個体差があります。私たちの足の裏にはないものですが、どのような役割があるのでしょうか?今回はケアの方法やトラブルの対処法もあわせてお話しします。

獣医師
【執筆医】平松 育子
獣医師

犬の肉球の役割とは?

Human hands and dog paw, top view

肉球の役割は、大きく分けて4種類あります。


①足を守る
肉球を靴に例えると厚い靴底の役割を果たしているといえるでしょう。危険なものや、衝撃、地面の熱や冷気などから大切な足を守ってくれます。

   

②ブレーキをかける
犬が歩いたり走ったりする際には、肉球で地面を掴むようにしているといわれています。さらに肉球の表面には乳頭と呼ばれる突起物があり、ざらざらしています。この突起物のおかげで、走っている最中にブレーキをかけても滑らずに止まることができます。

   

③地面の状態を把握する
肉球は複雑な構造をしており、神経や血管が多数分布しています。そのおかげで、地面の状態、温度を感じ取ることができます。

   

④汗を出す
汗腺には2種類あります。サラサラした汗を出すエクリン腺と、ベタベタした汗を出すアポクリン腺です。犬の体表にはアポクリン腺が多く、肉球の間にはエクリン腺が多く分布しています。肉球にある汗腺から汗をかくことで肉球を湿らせ、滑り止めの役割を果たします。

犬の肉球の構造について

肉球の名称

犬の肉球は前肢と後肢で数と名前が異なります。

犬の前脚の説明
犬の後ろ脚の説明

肉球の構造

肉球は硬い皮膚が表面にありますが、押さえると柔らかく弾力があります。表面は皮膚が硬くなった角質細胞で構成されており、中側には脂肪とエラスチン・コラーゲンでつくられた皮下組織があります。
また肉球の表面は拡大して観察するとぶつぶつの突起がたくさんあります。これは、皮膚の下の真皮にある円錐乳頭という部分がとがったもので、ざらっとした感触をしています。

犬の健康な肉球とケアについて

partial view of african american pet barber trimming furry dog, banner,stock image

健康な肉球の状態

  • 硬すぎず、柔らかすぎず、適度な弾力がある
  • 表面が少しざらざらしている
  • 肉球の間に軽く毛が生えていて、肉球の表面を覆っていない

上記の状態が理想的です。

肉球のケア

肉球クリームで保湿

肉球のケアとして肉球クリームを塗る方は多いと思います。肉球クリームにもさまざまな種類がありますので好みのものを選びましょう。ミツロウのように舐めても大丈夫な原材料のものもありますので、原材料のチェックもしっかり行いましょう。

   

かさつきが気になる場合

乾燥の程度には個体差がありますが、かさつきが気になる場合は2~3日に1回は洗いましょう。

洗わない日は、ぬるま湯に浸したタオルで強くこすらないようにして拭いてください。大切なのは濡れたままにしないことです。水分が蒸発する際に皮膚の水分も一緒に蒸発してしまいます。それが皮膚の乾燥の原因になることもあります。いずれにしても、保湿剤はしっかり使いましょう。

   

●肉球の間の被毛をカット

肉球の間の被毛が長くなってしまい、肉球の表面を覆っている状態だと滑ってしまいます。定期的にカットしましょう。

よくある犬の肉球トラブルと対処法

Boston terrier dog with injury and bandage in paw lying down and resting with sad face portrait

犬の肉球のトラブルでよくあるものを、見た目の症状別に紹介します。

肉球が赤い場合

1.火傷

真夏の気温が高い時間帯に散歩に行ったり、冬の寒い時期に暖房器具に触れてしまうなどが原因になり、火傷になることがあります。肉球がめくれてしまうこともあり痛みを伴います。

対応方法

火傷になった場合は、まず流水で冷やしましょう。その後動物病院を受診してください。

    

2.皮膚炎

細菌やマラセチアの感染などが原因になり起こります。かゆみがあると舐める頻度が高くなり、皮膚がただれてジクジクした状態になることがあります。

対応方法

こすらず優しく洗い、清潔にするようにします。赤みや痛みを伴う場合は動物病院へ行き投薬した方がよいでしょう。

   

3.アレルギー

花粉やハウスダスト、食物などが原因になって アレルギーが起こります。本来は拒否反応を起こす必要がないものに対して起こるのがアレルギーで、放置すると悪化することが多いです。

対応方法

アレルギーの原因になるものを見つけ接触しないようにしたり、動物病院にて投薬治療を行います。

   

肉球がひび割れている

1.乾燥

水分不足などで肉球が乾燥するとやがてひび割れが起こります。ひどくなると血が出たり、ひびの入った部分から細菌感染が起こることがあります。

対応方法

肉球が硬くなってきたら肉球クリームなどを塗り保護しましょう。

   

2.怪我

散歩の最中に石などの硬いものを踏んでしまうことなどがきっかけで、肉球を怪我してしまうことがあります。地面につく部分の怪我は細菌感染などを起こしやすいので注意が必要です。

対応方法

清潔にすることを心がけ、早目に動物病院を受診しましょう。

   

3.感染症(ジステンパー)

2種以上のワクチンで防げる病気で、近年では発症自体が減少傾向にあります。風邪のような症状から始まり、鼻や肉球がカチカチに乾燥し、やがてひび割れたようになってしまいます。

   

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対応方法

早目に動物病院を受診しましょう。治療が難しい病気で、回復してもチックなどの症状が残ります。

   

肉球がめくれている

1.乾燥

乾燥し肉球がひび割れると、めくれてしまうことがあります。

対応方法

肉球クリームで水分と油分をしっかり補給してあげましょう。

   

2.怪我

尖ったもので肉球を傷つけたり火傷をした結果、肉球がめくれてしまうことがあります。

対応方法

傷口が直接地面に当たらないようにガーゼなどで保護し、濡れた場所や衛生的ではない場所は歩かせないようにしましょう。必ず動物病院を受診してください。

   

肉球が異常に暖かい

1.発熱

感染症などが原因となり発熱すると、肉球がいつも以上に暖かくなることがあります。

対応方法

自宅に体温計があれば、ひとまず測ってみましょう。平熱(38度台)であれば、様子を見てください。38度以上の熱があれば動物病院を受診しましょう。

   

2.皮膚炎

肉球をしきりに舐めたり、爪が折れる、怪我をするなどの感染が起こると肉球が暖かくなることがあります。足先の皮膚が赤くなっていないかも確認してください。

対応方法

嫌がらなければ自宅で足先を洗い、できるだけ早めに診察を受けましょう。

   

肉球が冷たい

1.血栓

肉球が冷たい場合は、ほかの足の肉球も確認してください。一か所のみ冷たく、異常に痛がったり感覚がない場合は、血栓が飛んでいる可能性があり緊急事態です。

対応方法

急いで動物病院に連絡を取り、受診しましょう。

犬が肉球を舐めている理由

前脚をなめる柴犬

犬が肉球を舐める理由には以下のものがあります。

お手入れ

お手入れの場合は、お手入れが終われば舐めることもありませんので、頻繁に見かけることもないはずですし、舐め方も穏やかです。

暇つぶし

暇つぶしの場合は注意しないと徐々にエスカレートしてしまい、問題行動になってしまうことがあります。飼い主さんとのコミュニケーション不足などが原因になることが多いのですが、満たされない部分を満たすために手を舐め始めて習慣になってしまうことが多いようです。舐めすぎが原因で皮膚炎を起こしてしまう場合もあります。
舐めることが習慣化している場合は、声をかけてやめさせることは困難です。窮屈な思いをさせることになるかもしれませんが、エリザベスカラーを首につけて舐めさせないようにした方が炎症の治りは早くなります。唾液がついたままにしておくとかゆみが強くなることがありますので、様子を見ながら洗いましょう。

痒みがある

痒みがある場合は暇があったら舐めていたり、舐めるだけでなく噛んだり、手先全体を口の中に入れてしゃぶるようになることもあります。アレルギーや細菌などの感染が考えられます。
アレルギーや感染の有無は検査を行うことでわかりますので、かかりつけの動物病院で相談してみましょう。

Q&A

犬の肉球から毛のようなものが生えていますが問題ないですか?

時々、肉球から毛のようなものが生えていることがあります。ケラチンが作られすぎると肉球が硬くなり、毛のようなものが生えてきます。これはヘアリーフィートと呼ばれます。問題はないのですが、生えすぎると滑りますのでバリカンなどでカットしましょう。

犬が肉球クリームを舐めてしまうのですが、舐めても害はないでしょうか?舐めさせないようにするのはどうすればよいでしょうか?

肉球クリームの中には舐めても問題のない成分が含まれているものがあります。ただ塗っても舐めてしまうと意味がないので、「べたつかないものにして、しばらく遊ぶ」「薄く塗る」「匂いのないものにする」などの対策をとりましょう。刺激、匂い、べたつきが気になり舐めてしまううケースが多いので、色々試してみましょう。

肉球のトラブルを繰り返してしまいます

肉球を舐める原因はたくさんあります。残念ながらいつも同じ理由とは限りません。習慣性、アレルギー、細菌感染、マラセチア感染、何か刺さっている、怪我など様々でそれぞれ対応方法が変わります。その都度、動物病院で確認してもらいましょう。

犬の肉球周囲の毛が茶色くなりますがなぜでしょうか?

肉球を舐めていると周辺の被毛に唾液がつきます。唾液に含まれるたんぱく質が空気に触れると酸化してするので、被毛が茶色に変色します。そのままにしておくと着色してしまうので、できるだけまめに洗うようにしましょう。

犬の肉球の色がまだらですが問題ないですか?

肉球の一部に黒色やピンク色などの違う色が入っていることは珍しいことではありません。
4本の足の肉球がまだらになっていることもありますし、1本だけがまだらのこともあります。しかし、成犬になって急に現れる黒い斑点は注意が必要です。徐々に盛り上がってくる場合はメラノーマの可能性もありますので、病院で検査をしてもらいましょう。

まとめ

A dog of Bichon frize breed isolated on pink color studio

今回は、犬の肉球についてお話ししました。すべての動物が肉球を持っているわけではなく必要に応じて皮膚が変化を起こしたものが肉球です。肉球は多くの役割を持っています。常日頃からよくチェックして、お手入れを欠かさないようにしてあげましょう。

獣医師
【執筆医】平松 育子

山口県山口市にある「ふくふく動物病院」院長。「たくさんの笑顔のために」をコンセプトに皮膚科、内科を中心とした一般医療に注力しています。

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