【獣医師執筆】猫の避妊手術はした方がいい?後悔しないために、時期や費用、リスクなどを知ろう

【獣医師執筆】猫の避妊手術はした方がいい?後悔しないために、時期や費用、リスクなどを知ろう

2023/2/15

猫の避妊手術は、殆どの飼い猫に実施されており、過剰な発情や望まない妊娠そして生殖器関連の病気を防げるメリットがあります。

とはいえ、手術の時期はいつ頃が猫にとって良いのか?、手術に危険性はないのか?など、愛猫のために知っておかなければいけないことはたくさん!正しい知識をもっておきましょう。

獣医師
【執筆医】山田 あさか
獣医師

猫の避妊手術は、いつが最適?

kitten on hand of the boy outdoors.
ポイント

最適なタイミング

推奨年齢:生後6ヵ月~1歳前後 ※ただし、噛み合わせや発育状態によって変化する

理由1、初回発情前で、体重・体格も大きくなっているから

猫の避妊手術は全身麻酔によって行われるので、実施するのであれば若いうちに行うのが安全度が高いでしょう。

具体的な月齢で言えば、殆どの動物病院では生後6ヵ月を過ぎたあたりから実施しています。

これは、体重や体格がある程度大きくなっている方が、麻酔が安全に実施できるためであり、さらに初回発情の前が良いとされているからです。

実施する動物病院によって、基準月齢に若干の差はあるので、かかりつけの先生に確認してみる必要があります。

理由2、歯の問題も同時に処置できる 

この生後半年というは、だいたいの歯が乳歯から永久歯に変わるころでもあり、噛み合わせや乳歯遺残の問題が確定する時期でもあります。

つまり避妊手術の全身麻酔のタイミングで、同時に歯の処置も行うことが可能となります。

理由3、卵巣の位置が確認しやすい

生後一歳前後までに避妊手術を行っておいた方が良い理由としては、腹腔内脂肪の量にも関係があります。

若いうちであれば猫も腹腔内脂肪が少ないので、卵巣の位置がとても確認しやすいのです。

逆に年齢を重ねて、太ってしまった猫の腹腔内脂肪は分厚くて多く、卵巣や周囲の血管が確認しづらいケースが多いです。

卵巣や血管の位置が確認しづらいということは、出血や卵巣取り残しのリスクが高くなるため、猫にとってデメリットしかありません。

このような理由から、生後半年から1歳あたりまでに避妊手術をうけておくのが最もリスクが低いです。

避妊手術は何歳まで?

ポイント

実施年齢の期限

期限は無いが、持病の有無や代謝機能、循環器機能の低下次第

推奨年齢後は手術が出来ないのか?というとそんなことはありません。2歳以降でも問題なく行うことができます。ただし中高齢になると、肝臓や腎臓の値に問題が出やすく、持病が出てきてしまうと手術のリスクは高くなります。

年齢というよりも

   

・肝臓や腎臓、心臓などに問題があるか

・持病がないかどうか

   

が手術可能かの基準になるでしょう。

体力的な限界という意味では、15歳などの高齢な猫では実施するのを躊躇する獣医師が多いはずです。

なぜなら、麻酔後に術後腎不全になる可能性が高く、隠れた持病があるリスクも高いためです。

避妊手術のメリット

Close-up, pet cat at vet, inflammation of ears. Care and care for animals.

完全室内飼育されている猫の大半が避妊手術されているのは、なぜでしょうか?具体的にどのようなメリットがあるのかを、猫の立場と人の立場から解説していきます。

猫にとってのメリット

   

①病気の予防:乳腺癌、卵巣癌、子宮の癌、子宮蓄膿症など

   

【猫の乳腺腫瘍は、その95%が悪性の癌】

初回発情が来る前に卵巣の摘出をしていると、乳腺腫瘍になるリスクをかなり軽減することが可能です。猫の乳腺腫瘍はその95%が悪性の癌であり、酷いものであれば腹部が焼けただれたように変化してしまうこともあり、猫の苦痛ははかり知れません。

また、発見して検査した時には、すでに肺に転移していることが多く、乳腺摘出の手術を行っても肺転移の病巣が大きくなって寿命が短くなってしまうという、最悪な性質を持っています。原発の乳腺癌を取ってしまうと、転移していた癌が元気になって発育速度が急激に増すのが原因とされています。

そんな怖ろしい猫の乳腺癌を、早期の避妊手術で防ぐことができるのです。

それだけでも早期に避妊手術をする意義は大きいでしょう。

   

さらに、卵巣を摘出しているので、卵巣や子宮の病気になることもありません。猫には少ないのですが、子宮に膿がたまる子宮蓄膿症という病気も中高齢で発症し、多臓器不全や貧血などで命に関わることがあります。

   

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②性周期による体調不良がなくなる

   

人も性周期で気持ちの上下や体調不良がおきるように、猫にとっても発情期は身体の負担になります。

猫の意見が聞けないので何とも言えないのですが、猫にも生理痛のようなものがあってもおかしくありません。発情期の前後では猫も食欲が低下したり活動性が減少することがあります。

避妊手術を受けていれば、猫もこのような気分の上下や体調不良を避けられる可能性が高いです。

人にとってのメリット

   

①発情期の愛猫の豹変がなくなる 

②望まない妊娠もしない

   

発情期になると、性ホルモンに突き動かされて猫が変わったようになります。

オスを求めて夜間に大声で鳴き続けたり、外に出たがって網戸を破ったりするのです。また、夜間に「ぎゃおん!ぎゃおおおおおん」と猫に鳴き続けられるのは中々の心痛です。鳴き方が辛そうにも聞こえるので、心優しい飼い主さまでは気が気ではないでしょう。それが二週間ほども続くことがあるので、人の生活にも影響は大きくなります。

   

避妊手術を受けていれば、猫が発情期になって夜中に鳴き続けたり、隙をついて網戸を蹴破って脱走したのを、慌てて探しに行くなどのリスクはなくなります。

   

さらに、未避妊の猫が発情期中に脱走して翌日に帰宅したとしても、そこからは妊娠の可能性を考えなくてはならないのも大きな心労です。猫は交尾排卵動物なので、一回の交尾での受胎確立がとても高いのを知っておきましょう。

   

③多頭飼育崩壊が防げる

   

未避妊の猫が、脱走時に妊娠していて5匹の子猫を産み、その半年後に再度妊娠して倍の頭数に増え、子猫だった猫も妊娠するようになり気付けば数十頭の猫が家にいる、というケースもあります。

こうして多頭飼育の崩壊が進んでしまう事があるのですが、最初の1匹を避妊手術しておけば防ぐことができます。

避妊手術のデメリット

Cat on examination table of veterinarian clinic. Veterinary care. Vet doctor and cat

①全身麻酔:リスクはゼロではない

メリットの多い猫の避妊手術ですが、それでも「絶対に実施した方が良い、安全ですよ」とは言い切れません。なぜなら、全身麻酔下での避妊手術には必ずある程度のリスクが存在するためです。

麻酔トラブルは命に関わるため、獣医師が猫の避妊手術を強要することはありません。

   

麻酔へのアレルギーや隠れた循環器疾患による術中の急変は、ごくごく僅かの事例です。

しかしその当事者になってしまった時には、たとえ事故が10000件のうちの1回でも、飼い主様にとって発生率は100%です。「とても稀なことなので」と、獣医師から説明されても、愛猫がその稀な事例になってしまったら納得のいくものではないでしょう。

   

そのために獣医師は、飼い主様のご希望があるなら避妊手術を実施する、麻酔事故がないように100%の努力をすることしかできないのです。

   

全身麻酔とは何か?】  

何となく、薬で寝ている間に手術をするんだろうなという想像は出来るかと思います。

全身麻酔の役割は大きく分けて以下のものがあります。

   

 ●意識の消失

 ●不動化

 ●痛みの消失

   

つまり、開腹手術をするために麻酔薬で眠らせて、動かないようにして、切っても痛みを感じないようにする処置です。お腹を切っても眠っているというのは、動物の生存にとっては由々しき事態ですよね。つまり麻酔とは生きているけれども、死に近いところまで生き物を連れて行っていると言えます。

100%安全な麻酔などないので、全身麻酔には一定のリスクがいつもあるのですが、若くて健康体であることを確認し、術前の検査や適切な麻酔管理を行うことで、そのリスクを最小限にすることができます。

②術中のトラブル:だいたいは回避できるが、ごく稀にトラブルが発生する

回避するのが難しい全身麻酔のトラブルには以下のものがあります。

   

●麻酔アレルギー

使用する薬剤にアレルギー反応を起こして、ショック状態になる動物が稀ですが存在します。

もともと、アレルギー体質であることが分かっている猫であれば、アレルギー性が低いとされている薬剤に変更します。

   

●隠れた循環器疾患

生まれつきの心臓の奇形や不整脈を持っていた場合ですが、基本的には短時間で完了する避妊手術では、大きな問題にならないことが多いです。問題になるような先天性疾患であれば、術前にみつかっていることが多いでしょう。

    

●悪性高熱

人での報告はあるものの猫での報告はごく僅かですが、経験したことがある獣医師としては、事前に飼い主様に説明しておかなくてはと考える事例の1つです。

悪性高熱は「麻酔薬によって異常な筋肉の緊張が起きてしまう体質」で起きるトラブルで、術中から術後に高熱が出て止まらず、筋肉が硬くなるのが特徴です。致死率は高く、体温を下げることができるかどうかが鍵となります。

術後の変化

Female veterinarian doctor is holding on her hands a cat with plastic cone collar after castration, Veterinary Concept.

①カラーと投薬のトラブル

傷を守るために「カラー」というプラスチック製のものを、首に装着することが多いです。

カラーが苦手で食欲も排泄も出来ないという猫のためには、術後服というものも紹介することがありますが、服を着る方がストレス!という猫も多いので性格次第でしょう。

術後に痛み止めや抗生物質を飲み薬で渡されることが多いのですが、これによって吐気か下痢の症状がでる猫が時々います。

すぐに動物病院に電話して、お薬の変更が可能かを確認しましょう。

②性格の変化

術後に性格が変わった!という話を聞くことがあります。

動物病院での過度なストレスのせいか、怒りっぽくなることや人間不信になることがあるのですが、数カ月もすれば性格も戻ることが多いようです。

③肥満

性ホルモンの影響がなくなるので、食欲が増して太りやすくなります。同じ量を食べていても太る、食餌量を減らしているのに太るということもあります。

   

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どんな手術なの?

猫の避妊手術は、以下の手法が一般的です。

   

卵巣子宮全摘出:卵巣と子宮の両方を取るので少しだけ傷が大きい。

卵巣摘出:卵巣のみ取るので傷が小さい。

   

近年では卵巣のみの摘出で、避妊手術のメリットが十分にあることがわかっています。

子宮を取らないほうが、尿失禁のリスクも低くなるという報告もありますね。

避妊手術の流れと注意点

redhead man and woman veterinary doctors practice abdominal ultrasound on a cat

避妊手術をする場合にどのような流れで進むのかを確認しましょう。

   

1)相談

まずは獣医師に避妊手術を希望していることを伝え、愛猫にとってどの時期が一番よいのかを聞いてみましょう。

乳歯や噛み合わせの問題がある場合は、生後6ヵ月よりも早くなることもあります。

   

2)検査

全身麻酔をかけて手術を受ける前に、大きなトラブルが出ないかを確認する検査を受けます。相談にいった日に検査できることも多いでしょう。動物病院によって項目は異なるのですが、少なくとも血液検査は実施されます。その他にも、レントゲン検査や心電図検査、必要であれば超音波検査も行うことがあります。

   

3)予定日決定

検査の結果を見てから、手術日が決定されることが多いです。

土日や祝日に手術を行っていない病院も多いので、平日に休みが取れる日をいくつかピックアップしておくのがお勧めです。

   

4)前日

全身麻酔では胃に食べ物が入っていない方が良いので、前日の夜から絶食を指示されることが多いですが、飲水は制限しないことが多いです。手術の時間が動物病院によって違うので、しっかりと絶食時間を確認しましょう。

   

5)当日

絶食は必須であることが多く、飲水が制限される場合とされない場合がありますが、これも手術の開始時間による違いです。

診察をうけて愛猫を預けることになるので、まだ心配なことがあったり疑問があれば必ずここで聞いておきましょう。

   

6)翌日以降、抜糸

手術が終わって、翌日に退院させる病院と当日に退院させる病院があります。猫の性格によっても1泊するか日帰りになるかが変化します。

家では、飲み薬を投与するように指示されることが多いでしょう。

だいたいは1週間前後で抜糸になるので受診が必要ですが、抜糸が必要ない縫いかたをする先生もいるので、抜糸の時期も含めて聞いておきましょう。

   

※腹腔鏡手術

傷が小さいことが腹腔鏡手術の最大のメリットですが、猫の避妊手術は卵巣摘出であれば傷がもともと数センチと小さいので、その点でのメリットは少ないかもしれません。

ただ、卵巣を体外に引っ張り出す必要がある開腹手術では、その時に猫に強い痛みが加わるようですが、腹腔内手術であれば引っ張る必要がないので痛みが軽減できるようです。

   

※日帰り

猫は入院することがとてつもないストレスになることがあるため、性格によっては日帰りで手術予定が組まれることがあります。

一泊入院して点滴を流すことができないので、麻酔の影響を最小限にできないのが心配ではありますが、それよりもストレスによるケガなども心配なケースでは、日帰りを選択することがあるでしょう。

平均的な手術費用

動物病院によって手術費用が違います。

以下の料金は目安となりますので、かかりつけの先生に具体的な料金を確認してみましょう。

   

【開腹】

開腹、入院あり:15,000円~30,000円

開腹、日帰り:15,000円~20,000円

   

【腹腔鏡】

腹腔鏡、入院あり:50,000円〜80,000円

腹腔鏡 日帰り:40,000円〜70,000円

※腹腔鏡の設備の料金が加算されるために、腹腔鏡手術のほうが高い傾向にあります。

飼い猫に補助金はある?ペット保険は適応?

基本的には飼い主のいない猫に対する補助金がメインとなるため、飼い猫の避妊手術への補助金はないことが多いですが、自治体によってはペット全体に対して補助金をだしていることもあるので、お住まいの自治体に問い合わせてみましょう。

健康な若い猫では病気の予防として実施されるのが避妊手術なので、保険も適用されません。

もし卵巣や子宮に問題があった時には保険適用になることがあるので、その場合には保険会社と動物病院に相談してみてくださいね。

納得できる動物病院に出会うために

Veterinarian examining a cat in the owner's arms, pet care concept

メリットは多いものの、リスクがゼロでは無い猫の避妊手術ですので、信頼できる動物病院でなければ愛猫を託すことは出来ないでしょう。

以下に動物病院を選ぶために役立つであろう基準や確認事項をあげますので、参考にしてみてください。

   

●獣医師がしっかりと話を聞いてくれる

●獣医師が質問に対して誠実に対応してくれる

●分かりやすい言葉で説明をしてくれる

●最低でも血液検査は術前に行い、検査結果についても丁寧に説明してくれる

●手術後の連絡はしてくれるか?術後のアフターケアもしっかりしているか確認を

●鎮痛についてどう行うか?※鎮痛を軽んじている動物病院は動物福祉に反しているので要注意です

Q&A

多頭飼育の場合は、手術のタイミングは合わせた方が良いのでしょうか?

同じ日に出来れば、飼い主さまには都合が良いことが多いのですが、1日に手術できる件数が動物病院によって異なるので、実施が可能かどうか、かかりつけの動物病院次第と言えます。
ただ多頭飼育で、同年齢のオスとメスを飼った場合には、早めにオスの去勢手術を行うことが多いでしょう。
半年を待っていると、妊娠が成立してしまうことがあるためです。

手術によって性格が変わったり、同居猫との関係が悪くなることはありますか?

あります。
動物病院から帰ってくると、カラーを付けているせいか匂いのせいか、同居猫に嫌われてしまうことがあり、一時的に関係性が悪くなることがあります。
手術をした猫にしても、過度のストレスによって神経過敏になって、同居猫に対して攻撃的になることもあります。
どちらにしても一時的なことが多いので、数カ月単位で様子を見守るようにしてください。

人間の一存で避妊手術をするのは可哀想ではないでしょうか?

確かに勝手に、猫が子供を産む機会も経験も、人が奪ってしまうのは可哀想だという考え方は正しいと思います。
ただし、出産や育児は命に関わることでもあり、安易に責任をとれるものではないため難しい側面が強いでしょう。
未避妊の猫よりも避妊済みの猫の方が寿命が長い傾向にあるので、寿命だけを考えると避妊手術をするのが良いかもしれません。

発情後の場合は、乳腺腫瘍の予防効果はほとんどないのでしょうか?

発情期を2回以上経験してからの卵巣摘出では、乳腺腫瘍の予防効果はほとんどありません。
そのため乳腺腫瘍の予防を期待するのであれば、初回発情前に避妊手術を行う方が良いでしょう。

まとめ

キャリーケースに入っている小さな白猫

雌猫を迎えたら誰しもが直面する、避妊手術。時期としては、生後半年から1年が推奨されることが多く、メリットは、乳癌など性ホルモンに関連する病気が予防できたり、発情期の変化が防げたりすること。反面、全身麻酔のリスクなどは避けられません。するべきか否か悩んだ際に、少しでも参考になりましたら幸いです。

獣医師
【執筆医】山田 あさか

獣医師、猫専門家(Catvocate)取得。
これまでに小鳥、犬、猫を飼育し、現在はウサギと生活中。小動物(犬、猫、うさぎ、フェレット、鳥、ハリネズミ、チンチラ、レオパ)を日々診察する傍ら、正しい知識の発信にも尽力しています。

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