【獣医師執筆】猫の去勢手術はするべき?リスクは?適切な時期や費用、注意点などを詳しく解説

【獣医師執筆】猫の去勢手術はするべき?リスクは?適切な時期や費用、注意点などを詳しく解説

2023/3/30

猫を飼い始めて間もない飼い主さまの悩みの一つは、愛猫の去勢手術や不妊手術ではないでしょうか。そもそもするべきなのか?、手術をするのであればいつがよいのか?、気になるリスクやデメリット、去勢手術の費用など、雄猫の飼い主さまの様々な疑問や悩みにお答えします。

獣医師
【執筆医】ドリトルけい
獣医師

猫の去勢手術とは?どこを切るの?

Veterinary cat surgery, bonfire, urolithiasis. The surgeon reanimates the animal saves life and health. Emergency medical assistance in a veterinary clinic.

去勢手術とは、精巣を手術で摘出して雄猫の生殖機能を無くす手術です。

猫の場合、陰嚢(いんのう)を切って精巣を取り出す手術を行います。

稀に「潜在精巣」といって、片側もしくは両側の精巣が陰嚢に降りず、腹腔内や鼠径部に留まっているケースがあります。腹腔内に精巣が留まっている場合は、開腹手術が必要です。

猫の去勢手術は必要?やらないとダメ?

ブスッとした表情の猫

完全室内飼育で、相手がいなければ問題ありませんが、同居猫などに雌猫がいる場合、未去勢の雄猫にとって非常に強いストレスとなる可能性があります。

また相手の有無に関わらず、「大きな声で鳴き続ける」、「室内のあちこちに尿をかけてマーキングをする」などの行動で、飼い主さまを困らせることが予想されます。

家庭でペットとして飼っている猫は、飼い主さまの責任で十分なお世話をする必要があります。

去勢手術は、そのようなお世話の一つです。

   

<関連記事>

【獣医師執筆】猫のストレスサインを知ってチェック!原因とストレス解消法も解説

去勢手術のメリット

ポイント

望まない妊娠を防ぐ

子供は望めなくなりますが、増えることもないため、多頭飼育崩壊などを防ぎ、猫にとって適切な飼育環境を維持することができます。
特に、外に出る習慣がある猫の場合は、動物愛護の観点からも、配慮する必要があるでしょう。

雄性ホルモンによる尿スプレー(マーキング)や発情行動(鳴き声・ケンカ)の抑制/発情に伴うストレスが無くなる

行動面でのメリットは、尿スプレー(マーキング)や発情行動の抑制です。
去勢していない雄猫の、尿スプレーの臭いは非常に臭く、悩みの種になりやすいでしょう。
また雄猫は、雌猫の様な明確な発情期はありません。発情している雌猫に反応して発情し、繁殖行動が制限されることによるストレスで、攻撃的になる場合もあります。 去勢手術を行うことで、この様な発情に伴うストレスが無くなります。

生殖器系の病気の予防

去勢手術により生殖器系の病気を予防するという点もメリットのひとつです。 なお、犬によく見られる、精巣腫瘍になる可能性が高い潜在精巣は、猫では非常に珍しい病気です。

去勢手術のデメリット

全身麻酔等のリスク

去勢手術を行う際には、全身麻酔が必要です。

術前検査により問題ないと判断された場合でも、麻酔をかけるリスクはゼロではありません。

非常に稀ですが、循環器障害や呼吸器障害、肝臓・腎臓の機能障害、最悪の場合には心肺停止等、予期せぬ事態が発生する可能性も考えられます。

   

太りやすくなる

また、去勢手術後に太りやすくなる傾向があります。

原因は雄性ホルモンの減少で運動量が減ることや、食欲が増して猫の要求のままに食事やおやつを与えてしまうことによるものです。

去勢手術後は低カロリーのフードなど食事内容を見直し、体重管理に気をつける必要があります。

去勢手術をする適切な時期

Scottish fold cat are wear sunglass and shirt in concept summer on the black background. Portrait scottish fold cat in the studio. Cat wearing a floral shirt

推奨年齢は6か月~1歳くらいまで 

雄猫の去勢手術の推奨年齢は、尿スプレー(マーキング)などの問題行動が出ない限り、ワクチンで十分な免疫を得て身体がしっかり成長する、生後6か月以降の手術をおすすめします。

また、尿スプレーをするようになってから去勢手術を行うと、去勢手術後も尿スプレーをすることがあるため、尿スプレーをし始める前の、遅くとも1歳くらいまでの間に行うことが一般的です。

なおアメリカでは、生後6週齢~14週齢の早期不妊去勢手術が行われることがあり、安全性や合併症のリスクは、通常の時期(生後6か月程度)と比べて特に大きな差が無いと言われています。

推奨年齢を超えても、去勢手術はした方がいい?

例えば、未去勢で発情のたびに家出を繰り返してケガをする場合などは、推奨年齢に関わらず去勢手術をした方がいいでしょう。

ただし、手術にはリスクが伴います。去勢手術のメリットとデメリットを考えた上で、血液検査等の術前検査で問題が無ければ、どの年齢になっても手術は可能です。

去勢手術の流れと注意点

Sick cat with veterinary cone or plastic cone collar on its head to protect cat from licking a wound.

詳細は各動物病院によって異なりますが、一般的な去勢手術の流れについてご説明します。

   

1、相談・チェック

    年齢、体重、ワクチン接種の有無、潜在精巣ではなく、正常な位置に睾丸が下降しているか等、動物病院でチェックしてもらいましょう。

    去勢手術に不安や疑問がある場合は、担当の獣医師に確認をし解消しておくことが大切です。

       

    2、検査・手術日確定

    術前検査(血液検査やレントゲン検査等)を行い、問題が無ければ手術日を確定します。

    手術の日までに、エリザベスカラーなど術後に必要なものを確認しておくと安心でしょう。

       

      3、手術前日

      手術前日は、普段通りの生活で問題ありません。

      ただし、手術当日は8時間~12時間の絶食絶水が推奨されるため、夜間はキャットフードや水を置きっぱなしにしない様に片づけておきましょう。

         

        4、手術当日

        嘔吐による誤飲を防ぐため、絶食絶水の指示は必ず守りましょう。

        誤って朝の食事を与えてしまった場合や、下痢をしている等体調が悪い場合は、必ず獣医師に報告しましょう。

        愛猫が怖がってしまった場合、大きめの洗濯ネットに入れてからキャリーケースに入れると、動物病院での処置がスムーズに行えます。

           

        一般的な去勢手術の場合は、麻酔や毛刈り、消毒を含めても30分前後で終わる場合がほとんどです。手術が終わった後は、麻酔からしっかり覚醒するまで、呼吸状態や血圧などをチェックします。

           

        日帰り手術であっても、お迎えの時には麻酔が覚めた状態で帰宅できますが、帰宅後すぐに食事や水を与えてはいけません。

        手術当日は、術後も絶食絶水を指示される場合があるので、どのタイミングで水や食事を与えてよいかを必ず確認しましょう。
           

        術後は、傷口を舐めてしまう場合に備えて、エリザベスカラーを装着する場合があります。

           

          5、翌日以降

          手術の翌日以降に、傷口や体調チェックのために、動物病院を受診するよう指示されるケースもあるため、手術の日程は、前後も含め余裕がある日時を選ぶと安心です。

          皮膚を縫合した場合はおよそ1週間後に抜糸を行います。

          また、猫の去勢手術の場合、陰嚢の皮膚を縫合すると気にして舐める場合があるため、縫合しない動物病院もあります。

             

          食事は、術後1週間くらいは今まで与えていたキャットフードを与えましょう。ただし、去勢後に食欲が旺盛になる場合は、肥満防止のため低カロリーの食事等に切り替えた方がいいでしょう。どんな食事を選べばよいかは、かかりつけの動物病院で相談しましょう。

          去勢手術の費用

          Obese cat  at the veterinary clinic in the metallic cage

          去勢手術の費用は、5,000円~35,000円とかなり幅があります。

          動物病院での治療費等は、法律により一律で規定することができません。そのため、同じ検査や手術を行っても動物病院によって金額が異なります。

          また、猫の去勢手術は、入院せずに日帰り手術をすることが一般的ですが、状況によっては入院が必要なケースもあり、その場合は、入院費などが上乗せになります。

             

          去勢手術そのもの以外にかかる費用は

          ・術前検査(血液検査・レントゲン検査など):10,000円~

          ・麻酔代:10,000円前後(手術費用に含まれる場合が多い)

          入院が必要な場合は入院費:1日あたり、~5,000円前後

          ・術後の抗生物質の投与:1回あたり、~3,000円前後

          ・術後の診察代など:1回1,000円前後

          ・傷を舐めないためのエリザベスカラーの代金:2,000円前後

          などが考えられます。

             

          術前検査等全てを含めた料金設定がある場合と、検査等ひとつひとつに金額が設定されていて、その合計を支払う場合があるため、去勢手術に関わる費用が総額いくらかかるのか事前に確認しておくと安心です。

          助成金・ペット保険について

          動物愛護や公衆衛生の観点から、お住いの自治体が手術の助成金を支給している場合があります。

          必要な手続きに関しては、動物病院や自治体に確認しておきましょう。

          なお、ペット保険は、ペットのケガや病気についての補償を行うものなので、予防である去勢手術については、補償の対象外であることが一般的です。

          納得できる病院を選ぶためには?

          Set Crossed bones Veterinary clinic Cat Paw print Clinical record dog laptop and Medical certificate for cat icon. Vector.

          ペットが安心できているか 

          最近では、犬や猫の診察室や入院室が、別々になっている動物病院が増えてきています。

          猫は大きな音やがっちり拘束されるのが苦手な動物なので、その様な猫の特性に配慮してくれる動物病院を選ぶとより安心でしょう。

             

          獣医師との相性

          猫の去勢手術は、比較的リスクが低い手術ではありますが、どんな手術であっても100%安全ということはありません。

          ホームページや知人の口コミなどを参考にしたうえで実際に動物病院を受診し、飼い主さまご自身の不安や疑問にしっかり答えてくれる獣医師を選びましょう。

          その際に、手術のメリットだけでなくデメリットなどを明確に答えてくれ、些細な疑問や不安にも丁寧に対応してくれる獣医師をおすすめします。

          Q&A

          猫は去勢しない方が長生きという噂を聞きましたが、どうなのでしょうか?

          去勢しない方が長生きするという明確なデータはありません。
          しかし、去勢をすることで太りやすくなり、下部尿路疾患や内分泌疾患などの病気のリスクが高くなる場合は考えられます。

          睾丸が無くなったことがショックなようで、愛猫がびっくりして固まってしまったり、終始不機嫌だったりしております。どう接してあげたら良いでしょうか?

          猫の感情についての真意は不明ですが、動物病院に行ったストレスや術部の痛み、エリザベスカラーの装着などに、恐怖や不快感がある場合が多いでしょう。猫が落ち着くまでは、静かに過ごさせてあげましょう。

          愛猫が手術後3日間経っても苦しそうです。再度病院へ行った方が良いでしょうか?

          食欲や元気がない、尿が出ないなどの症状があるのであれば、なるべく早く動物病院を受診しましょう。

          去勢をすると尿スプレー(マーキング)や大きな鳴き声などの発情行動は無くなるのでしょうか?

          雄性ホルモンであるテストステロンが原因とされる尿スプレー(マーキング)や鳴き声などの発情行動については効果が期待できます。
          去勢手術前から尿スプレー(マーキング)をしていた場合は、その行動が残ってしまう場合もあります。

          去勢手術をしないと、どうなるのでしょうか?

          雄猫の場合は室内のあちこちに尿をスプレーするマーキング行動や、雌猫を求めて大きな声で鳴く、ちょっとした隙に家から飛び出してしまう、などが考えられます。

          うちの愛猫はとてもやんちゃですが、去勢すれば大人しくなりますか?

          雄猫特有の気の強さは多少なくなる可能性はありますが、去勢すれば必ず大人しくなるというわけではありません。

          術後は何日くらいで、元通り元気になりますか?

          個体差はありますが、手術の翌日か2日後には、比較的元どおりに元気になっている猫が多いと感じます。

          まとめ

          Beautiful fluffy gray cat pet with yellow eyes sitting in the arms of the owner girl

          手術や麻酔への不安をはじめ、愛猫の健康な身体にメスを入れることや問題行動の抑制のために手術を行うことに迷いがあるのは、飼い主として当然の心理だと思います。

          猫の適正な飼育環境の維持、問題行動の改善や発情に伴うストレスの軽減というメリットを考え、動物病院では去勢手術をおすすめするケースがほとんどです。

          しかし、何事にもメリットとデメリットが存在します。

          猫の去勢手術は比較的リスクが少なく、短時間で行える手術ではありますが、全身麻酔によるリスクはあります。

          どちらがご自身の愛猫にとって良いのかをよく考えたうえで、去勢手術をするかしないかを決めましょう。

          獣医師
          【執筆医】ドリトルけい

          動物病院で働いている現役獣医師。豊富な経験をいかし、飼い主さまに安心していただける様なコラムの作成に尽力しています。

          おすすめ情報

          猫の新着記事

          猫の新着記事一覧へ

          Ranking