【獣医師監修】犬と猫のフィラリア、初期症状や予防法、薬の期間は?治るの?
犬と猫にとって、フィラリアは非常に深刻な病気です。この病気は、蚊によって媒介される寄生虫によって引き起こされ、心臓や肺などの重要な臓器にダメージを与えることがあります。この記事では、犬と猫のフィラリアについて、症状やリスク、予防法について詳しく説明します。
目 次
犬と猫のフィラリアの症状
初期症状【犬】
感染して、すぐに症状が出る訳ではないため、しばらくは無症状です。しかし、6-9ヶ月で心臓に到達した後にミクロフィラリアを産生するようになり、徐々に症状が出てくる可能性があります 。
- 咳
- 嘔吐
- 食欲不振、体重減少
- 元気がない、散歩を嫌がる
など
末期症状【犬】
- 呼吸困難
- 腹部膨張
- 体重減少
- 貧血
- 血尿
など
症状【猫】
1/3が無症状と言われていますが、一部は感染してから、咳などの呼吸器症状や嘔吐などの消化器症状が多く出ます。また、神経系への迷入により、発作や盲目などの神経症状、腹水、胸水、乳び胸、失神、気胸なども呈し、最悪突然死を招くこともあります。
フィラリア感染症の症状が現れた場合、早期に獣医師に診察してもらうことが大切です。フィラリア症は重篤な病気であり、無視して放置してしまうと、心臓や肺などの臓器に深刻なダメージを与え、治療が困難な場合があります。
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感染経路
犬や猫のフィラリアの感染経路は、蚊による媒介が主です。感染した蚊に刺されることで、体内にフィラリア幼虫が侵入し、心臓の肺動脈に移動、成虫に成長することで症状が現れます。
また、フィラリア幼虫が成虫になるには、約6〜7か月かかるため、感染してから症状が現れるまでに時間がかかります。
犬と猫のフィラリアの予防法
予防の時期
日本では、蚊が活発になるのは5月から10月までの期間(地域差はあり)、20度から30度ぐらいの気温になる頃です。この期間中は、犬や猫がフィラリアに感染するリスクが高まりますので、予防を実施することが推奨されています。
昨今は4月でも気温が上がることがありますし、屋内は常に暖かい環境です。また比較的温暖な地域など、期間を過ぎても予防薬の投与を続けることが望ましい場合もあります。期間にとらわれず気温の変化や蚊の発生に合わせて考えましょう。
犬や猫のフィラリア検査について
フィラリア症は潜伏期間の長い病気ですので、予防の前にかかっていないか血液検査を行います。 万が一、犬がすでにフィラリアに感染していた場合、予防薬を与えるとショック反応を引き起こす可能性もあり、危険です。
検査方法には、フィラリアの成虫から排泄される微量な物質を検出する「フィラリア抗原検査」と、血液内のミクロフィラリアを確認する「集虫法」があります。
また猫の場合、犬よりも体内への寄生数が少なく、診断が複雑になり、感染の有無を検査で見つけにくいと言われています。
フィラリア予防薬の種類
フィラリア症を予防するには、薬剤による予防が最も効果的です。
犬のフィラリア予防薬
飲み薬(おやつタイプ、錠剤タイプ)、注射タイプ、スポットタイプの3種類があります。
猫のフィラリア予防薬
首筋などの猫の皮膚に垂らすスポットタイプが一般的です。
飲み薬(おやつタイプ、錠剤タイプ)
錠剤やチュアブル形式で、犬猫に飲ませることにより、フィラリア幼虫の発育を防止し犬を保護するものです。毎月の投薬が必要です。
滴下(スポットタイプ)
マクロライド系のフィラリア予防薬 。皮膚の表面に塗布することで、予防薬が体内に吸収され、フィラリア幼虫の発育を防止することができます。頻度などは、種類にもよりさまざまです。
注射タイプ
注射タイプは、フィラリア幼虫を殺す「ミルベマイシン」という有効成分が含まれており、フィラリア症に感染してしまった場合に使用されます。また犬に投与することで、フィラリア幼虫の成長を阻止し、感染予防にもなります。
注射タイプは、他のフィラリア予防薬に比べて投薬頻度が少なく、1年に1回の投薬で済むため、忙しい飼い主さんにおすすめです。
ただし、副作用やアレルギー反応が起こる場合があります。注射タイプを使用する前には、獣医師と相談し、正しい使用方法を確認することが重要です。
それぞれのタイプにも、細かな薬の種類があり、フィラリアだけでなく、ノミ・マダニ駆除薬にフィラリア予防効果を加えたオールインワンな寄生虫駆除薬もあります。
動物病院で、愛犬や愛猫の状態に合わせた薬の選定と適切な量を計算してもらい、正しく使用しましょう。
フィラリア予防にかかる費用
動物病院でのフィラリア予防にかかる費用は、予防薬や検査の種類、病院によって異なります。
基本的には、フィラリア予防薬の価格は、小型犬の場合で月額で500円から3,000円程度(フィラリア単体から合剤まであり)、フィラリア検査は2,000円から5,000円程度です。飲み薬などの場合、数ヶ月分をまとめて処方してくれることもあります。診察費用なども加算され、総額は、数千円から数万円程度になることが多いです。
市販のフィラリア予防薬だけでも大丈夫?
市販のフィラリア予防薬は、簡単に購入でき、価格が安いことがメリットです。
ただ獣医師による診察がないため、ペットにとって適切な薬剤を選ぶことが難しく、投与量や使用方法を誤ることがあり、副作用やトラブルの危険性が高まります。また市販品に含まれる成分濃度は、動物病院で処方されるものよりも低いことが多いです。
フィラリア予防薬は、ペットの健康を守るために欠かせないものです。可能な限り獣医師による診察を受けて正しい使い方を学び、適切に使用することで、愛犬や愛猫を守りましょう。
感染した場合どうしたらいい?治るの?
犬は早期発見であれば治療可能、猫は根本的な治療法はなし
フィラリア症に犬猫が感染した場合、動物病院で早期に治療を行いましょう。
犬の場合、早期であれば薬剤治療によって、症状を改善することができます。また、重症化したケースでも外科的処置により改善することもありますが、臓器の障害度合いにより改善の割合が変わります。ただし猫の場合、フィラリア症の根本的な治療法はありません。 合併症に対する治療で状態の悪化を防ぎ、 自然治癒を待つのが一般的です。
進行したら治療困難
症状が進行してしまったら、手術が必要になる場合があります。
フィラリア症の手術は、肺動脈から心臓の弁に絡みついたフィラリアを摘出するなど、とても高度で設備も特殊なものが必要となることが多いです。執刀できる獣医師さんも限られ、治療が難しいことが多いです。
また治療期間は長く、半年から1年以上かかることがあります。治療費用もかかるため、予防が重要であり、フィラリアが進行する前に予防薬の投与を行うことが必要です。
治療後の経過について
治療後も経過観察期間として、動物病院での定期的な健康診断や心臓超音波検査が必要です。また、治療してフィラリアを駆除できても、傷つけられた臓器や血管は戻らず、体にダメージが残り続けることが多いため、予防が何より重要です。
注意すべきポイント
コリー犬、コリー犬との混血などは事前に獣医師さんへ申告を
コリー犬の場合、いくつかのフィラリア予防薬を含む特定の薬に対して、より敏感になる遺伝子変異を持っている可能性があります。犬がコリーであるか、コリーの祖先を持っているかどうか、獣医師に知らせましょう。
猫に犬用の予防薬はNG
猫に犬用の予防薬を使用することは安全ではありません。猫に安全な量よりも高用量の有効成分が含まれている場合、嘔吐、下痢、発作などの重篤な副作用を引き起こす可能性があります。猫用に特別に処方された薬のみを使用することが重要です。
完全室内飼いの猫だから予防は不要?
フィラリアは蚊によって伝染する病気であり、身体の小さな蚊は室内に簡単に侵入できます。蚊に刺されたことを言葉で伝えることもできませんので、飼い主さんが気づかないうちに刺され、感染してしまうケースもあるでしょう。
猫の場合、免疫反応で自然に幼虫を死滅させることもあり、感染しにくいです。ですが検査で判断することが難しいため、別の疾患と誤認し重篤化してしまう危険性もあります。安全を最優先にするのであれば、予防をすることをおすすめします。
フィラリアだけでなく、ノミダニなどもまとめて予防できる薬剤もありますので、合わせて行いましょう。
Q&A
蚊がいない時期も、フィラリア予防薬を与えるべきでしょうか?
最近ではノミやマダニとの合剤が主流でもあり、蚊がいない季節でも、合剤のフィラリア予防薬を与えることをお勧めします。予防薬はフィラリア幼虫が成虫に成長するのを防ぐように設計されており、効果を得るには定期的に投与する必要があるためです。 仮に10月に蚊に刺され、そこで投薬を止めてしまうと、幼虫が成長し進行してしまう危険性があります。必ず、蚊がいなくなったタイミングにプラス1ヶ月は与えるようにしましょう。
また一部の地域では一年中蚊がいる可能性があり、旅行などで訪れることもあるでしょう。可能な限り通年を通して予防を行う方が、安全といえます。
予防薬による副作用や体への負担が心配です
フィラリア予防薬には副作用(嘔吐、下痢、無気力など)がある場合がありますが、一般的に軽度で稀です。
何歳から予防が可能でしょうか?
子犬は 6~8 週齢、子猫は8~9週齢にフィラリア予防薬の投与開始が推奨されています。状態にもよりますので、獣医師さんにしっかり相談してください。
フィラリア予防薬を与え忘れてしまいました。動物病院へ行った方がいいでしょうか?
幼虫が血管内に行く前に、すぐに次の予防薬を飲ませましょう。 飲み忘れた期間によって対処方法が異なりますが、10日程度の場合は問題ないとされています。
またフィラリアに感染してから6ヶ月以内は、血液検査で感染しているかどうか判定できないこともあるため、検査は不要であることが多いです。ただし、必ず翌年のフィラリア予防の前に、動物病院で検査をしてもらいましょう。
まとめ
2021 年 10 月に実施された調査によると、日本の犬の飼い主さんのうち約 71% が、ペットへのフィラリア予防を行なっているそうです。またフィラリアは犬の病気と思われがちですが、猫の場合診断が難しいこともあり、見逃され亡くなっているケースもあるのではないかと思います。
犬と猫にとって深刻かつ身近な病気ですが、防ぐことができる病気です。動物病院での定期的なフィラリア検査と予防薬の使用が、犬と猫をフィラリアから守る最良の方法でしょう。
<参考記事>
Share of pet dogs vaccinated against filariasis in Japan as of October 2021
Facts About Filariasis in Cats
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