
【獣医師執筆】猫にぶどうは絶対あげちゃダメ!理由や症状、危険な量、対処法などを解説
ぶどうは猫にとって毒物となり、健康を害してしまう危険な食べ物です。猫にぶどうを与えると腎機能が害されてしまい、亡くなってしまうことも少なくありません。この記事では猫がぶどうを食べてしまった場合、どんな症状が起こり、どう対処すべきかを獣医師が詳しく解説します。
目 次
ぶどうを猫に与えるのは絶対にNG

猫にとってぶどうは中毒の原因になる危険なものです。猫がぶどうを食べると、急性腎不全を発症してしまうことがあります。
急性腎不全とは?
急性腎不全は腎臓に障害が起きることで急激に腎臓の機能が低下してしまう病気です。
発症するとおしっこが少なくなったり、全く出なくなったりすることで体内に老廃物が蓄積し、さまざまな症状を引き起こします。
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猫にとって危険なぶどうの量は?
猫に急性腎不全を引き起こすぶどうの量は、まだはっきりとわかっていません。そのため、ほんの少しの量だとしても猫にぶどうを与えるのは控えましょう。またぶどうの致死量についても明らかになっていません。
猫がぶどうを舐めてしまっただけでも危険?
猫がぶどうをほんの少しだけ舐めてしまった程度であれば、多くの場合問題にはなりませんが、よく様子を確認し、いつもと様子が違う場合はなるべく早く動物病院で診察を受けるようにしましょう。
ぶどうの枝や皮といった部位、品種で猫への危険度は変わる?
皮や果肉、枝といった部位の違い、シャインマスカットなどの品種の違いによる猫の腎臓への影響は明らかになっていません。
ぶどうの加工食品も危険?
レーズンやジャムやぶどうジュースなどの加工食品についても、中毒例が報告されているため同様に注意が必要です。
ぶどうにより、猫に引き起こされる症状
ぶどうによる急性腎不全では、以下のような症状が現れます。
- 元気がない
- 食欲が落ちた
- 嘔吐や下痢などの消化器症状
- 尿が少なくなった(乏尿 ぼうにょう)
- 尿が全く出ない(無尿)
- 体温が低い
上記の中でも、乏尿や無尿は最も特徴的で、危険な症状です。これらの症状が見られた場合にはなるべく早く動物病院を訪れましょう。
ぶどうにより急性腎不全に陥るメカニズム
残念ながら、急性腎不全の原因となるぶどうの成分やその仕組みは明らかになっていません。残留農薬が原因という指摘もありますが、これも仮説の段階です。
対処法・応急処置、なるべく早く動物病院へ!

症状が出るまでの時間
猫がぶどうを食べた直後はほとんどの場合、全く症状を示しません。通常は1-3日後くらいから症状が現れてきます。ですが発症前に食い止めるためにも、なるべく早く動物病院を受診し、処置を受ける必要があります。
具合が悪くなさそうだからといって油断せず、手遅れになる前に早めに動物病院へ行きましょう。
間違って食べたときに、ご自宅でできること
①ぶどうを猫から遠ざける
猫がぶどうを食べているのを目撃したら、残っているぶどうを猫から遠ざけ、なるべく摂取量を減らすようにしましょう。
②(可能であれば)猫の口の中に残っているぶどうを取り除く
可能であれば猫の口の中に残っているぶどうを取り除きましょう。手を咬まれてしまうこともあるため無理はせず、可能な範囲で大丈夫です。
③なるべく早く動物病院へ
一刻も早く動物病院へ行きましょう。
動物病院で行われる処置
●催吐(さいと)処置
薬を投与し、胃の中にとどまっているぶどうを口から吐き出させます。
食べた直後であれば、効果が期待できます。多くの場合、「トラネキサム酸(トランサミン)」や「メデトミジン」という薬剤を使用します。これらの薬を静脈内に投与し、嘔吐を引き起こします。1回の投与で吐き出せばそこでおしまいですが、場合によっては2回目、3回目の投与が必要になることもあります。オキシドールを直接飲ませて吐かせることもあるようですが、胃潰瘍などの原因となるため最近ではあまり使用されません。これらの薬には副作用もあるため、リスクについて獣医師からよく説明を受けるようにしましょう。
●活性炭の投与
「活性炭」と呼ばれる炭製剤を飲ませます。活性炭には催吐処置で除ききれなかったぶどうの成分の吸収を阻害する効果があります。数日間投与を継続する必要があります。
●点滴
静脈点滴を流し、急性腎不全の発症リスクを下げます。ぶどうを食べてしまってから数日間は点滴を流し続けることが推奨されます。
●利尿剤の投与
急性腎不全により乏尿や無尿が認められる場合には利尿剤を投与することがあります。
●透析
急性腎不全が発症し、腎臓の機能障害の程度が重篤だと、透析が必要になることがありあます。透析には「腹膜透析」と「血液透析」の2種類があります。腹膜透析は特別な装置を必要とせず、多くの施設で実施が可能ですが透析効率は血液透析に劣ります。血液透析は効率が良い一方で特別な機器を必要とし、実施できる施設が限られてしまいます。そのため、血液透析の希望や必要性がある場合には、二次診療施設への紹介が必要になることが多いです。
動物病院で行われる検査
・血液検査
猫に対してぶどうの影響が血液検査結果に現れてくるのは、摂取後2-3日後です。一通り処置をおこなったら数日後に血液検査を行い、腎臓の数値などを確認してぶどうの影響を確かめます。血液検査では次のような項目を確認します。
①クレアチニン、BUN
クレアチニンやBUNは腎機能の評価に利用される指標です。急性腎不全に陥ると、これらの項目の数値が急激に上昇します。
②リン
腎臓が障害を受けると、腎臓からのリンの排泄が阻害されてしまうため、血液中のリン濃度が上昇することがあります。
③電解質
血液中のナトリウムやカリウム、カルシウムなどを電解質と呼びます。急性腎不全では高カリウム血症や低カリウム血症が見られることが多いです。
・尿検査
多くの場合、尿検査も実施します。急性腎不全では、尿中に炎症反応が見られることがよくあります。
猫のぶどう中毒の予防法

ぶどう中毒を予防する方法は、猫にぶどうを食べさせないことしかありません。犬と違い、猫に対してしつけやトレーニングを行っても効果がないことが多く、私たち人間が気を付けてあげるしかありません。
猫が誤ってぶどうを食べてしまう状況
①ぶどうが含まれた食品を誤って人間が与えてしまう
②人間が誤ってぶどうを床に落としてしまいそれを食べてしまう
③ぶどうが猫の手の届くところにあり盗み食いされてしまう
などが考えられます。これらを防ぐためには、下記のような対策を徹底するようにしましょう。
猫に人間の食べ物を与えない
加工食品の場合、一見ぶどうが含まれていないように見えても、実はぶどうの成分が含まれていたということがありえます。そのため、人間の食べ物は一切猫に与えず、猫用のおやつやキャットフードしか与えないように日頃から徹底しておくと良いでしょう。
私たち人間側がそのように日頃から意識することで、ぶどう中毒だけでなくさまざまな中毒物質の誤食を防ぐことができます。また中毒だけでなく、猫の肥満防止や健康管理にもとても有効です。
猫の飼育環境を見直す
ぶどうを始めとした中毒物質は猫の手の届くところには絶対に置かないようにする必要があります。ぶどう以外に猫で中毒の原因となるものとして代表的なものには、チョコレートやネギ類、キシリトールガムなどがあり、これらも同様に注意が必要です。これらの食品はタッパーなどにいれて厳重に保管するようにしましょう。
食べ物を床に落とさない
日頃から人間が食事をする際には絶対に食べ物を床に落とさないように注意しましょう。ぶどうのような中毒物質はもちろんのこと、人間が食べる脂っこいものや高カロリーなものも猫の健康にはよくありません。注意していても食べ物を落としてしまわないか心配な場合には、食事の時だけは猫をケージなどに入れておくこともとても有効です。
よくある質問Q & A
猫がぶどうを誤食した場合の診療費はどのくらいでしょうか?
一般的には催吐処置で10000円、点滴入院で1日10000円、血液検査1回で10000円、尿検査1回で3000円くらいかかります。しかし、動物病院によっても治療費や検査費は異なるため、注意が必要です。入院3日間、血液検査と尿検査が各1回と考えると、最低でも45000から50000円程度が目安です。治療経過によっては追加費用が発生することもあります。
猫がぶどうを食べてからしばらく様子をみたけどなんともないです。病院に行かなくても大丈夫でしょうか?
ぶどう中毒の症状はぶどうを食べた直後には現れないことがほとんどです。数日後に急性腎不全を発症ししまうことが多いため、今症状が現れていなくても、早めに動物病院で処置を受けるようにしましょう。
猫にぶどうがダメはデマ、残留農薬が原因、など様々な意見がありますが、実際はどうなのでしょうか?
ぶどうは急性腎不全の原因になることがあきらかであるため、デマではありません。確かに猫が食べても全く異常が見られないこともありますが、体質や摂取量などの関連で個体差があるためと思われます。中毒の原因は残留農薬であるという意見もありますが、こちらも明らかになってはおらず、推測の段階です。
まとめ

猫にとってぶどうは、中毒の原因となる大変危険な物質です。
猫がぶどうを食べると急性腎不全を引き起こしてしまうことがあります。急性腎不全を発症すると、乏尿や無尿をはじめとして、元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢など多様な症状が見られるようになります。急性腎不全は死亡の原因にもなる恐ろしい病気なので、ぶどうを誤って食べてしまったら油断せずに、早めに動物病院を受診しましょう。
ぶどう中毒の予防には生活環境の改善や日頃から人間の食べ物を与えないことが大切です。
<参照>
ブドウ摂取後に急性腎不全を発症して死亡した犬の1 例(日本小動物獣医学会誌)
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