【獣医師執筆】猫のストレスサインを知ってチェック!原因とストレス解消法も解説
猫の食欲がいまいちだったり、寝てばかりいるなど、なんとなくいつもと様子が違う。そんな時、ストレスが原因なのではないかと考える飼い主さまも多いでしょう。今回は、猫のストレスにいち早く気づけるように、猫が出すストレスサインとストレスの大きな原因、解消法もお伝えします。
目 次
要チェック!猫のストレスサイン
猫のストレスは表情、行動など色々な方法で読み取ることができます。これらのサインがひとつでも出ていれば、猫はなんらかのストレスを感じていると言えます。
表情やしぐさに出る猫のストレスサイン
猫はストレスを感じると、耳が横に平らに張り、いわゆる「イカ耳」になります。目は見開き、瞳孔が開き、ひげは上を向きます。
またストレスを感じている猫は、尻尾を左右に1秒間隔くらいの早さでパタパタ振ることがあります。
行動に出る猫のストレスサイン
●トイレの外で排尿排便する
猫はストレスを感じるとトイレ以外の場所で排尿排便することがあります。またオス猫は、家具などに尿をかけるスプレー行為をすることもあります。
●過剰なグルーミング
猫はもともとグルーミングをこまめにしますが、いつまでもグルーミングし続けたり、体の一ヵ所だけを舐め続けるのはストレスサインです。
●引き籠る
引き籠り、飼い主さまともコミュニケーションを取らなくなることがあります。
●激しく鳴く
鳴き続けたり、シャー、ウーなどの威嚇のような声を出すことがあります。
●攻撃的になる
怒りやすく攻撃的になり、飼い主さまや同居の猫に突然噛みついたりすることがあります。
●活動量が変化する
活動量の変化もストレスサインのひとつです。普段は活動しているはずの時間に眠り続け動かない場合や、反対に普段は寝ている時間なども過剰に動いている場合は、猫がストレスを感じている可能性があります。
<参考記事>
10 Signs Your Cat Might Be Stressed
症状に出る猫のストレスサイン
●嘔吐
●下痢
●便秘
●食欲低下、絶食
●被毛や皮膚のトラブル(脱毛、皮膚炎など)
猫のストレス原因5つ
猫がストレスを感じるのは、猫本来の性質やライフスタイルに合わない環境に置かれた時です。猫は本来単独行動で縄張りを持ち、狩りをします。活動時間は縄張り内をパトロールして動き回り、木や塀など高いところの移動が好きです。猫同士は他の猫の縄張りには入りません。これらを踏まえ、猫のストレスの大きな原因を5つご紹介します。
原因1:同居猫や飼い主さまの接し方
本来単独行動する猫にとって、飼い主さまや同居猫に自分の好まないタイミングでかまわれることはストレスの原因です。
原因2:生活環境の変化
縄張り内で生活する猫にとって、引っ越し、模様替えなど自宅の環境が変わるのはストレスです。自宅の近くで工事が始まり大きな音が鳴り続けるなどもストレスの原因になります。
また猫にとって自宅を出ることは縄張りから出ることなので、外出や入院、ペットホテルへのお泊まりなども大きなストレスとなります。
原因3:運動量が足りない
猫は縄張り内のパトロールのためにたくさん運動します。運動量が足りない、走れない、ジャンプできない環境はストレスです。高い位置が好きな猫にとって、人の目線よりも低い位置でしか生活できないこともストレスの原因です。
原因4:家族構成の変化や来客
飼い主さまの結婚、家庭に赤ちゃんが産まれるなど家族構成の変化は大きなストレスの原因です。新しいペットのお迎えもストレスの原因となります。また縄張り内に他人が入る「来客」も猫にとってはストレスです。
原因5:狩りができない
飼育下の猫は狩りをする必要がありませんが、本能的な欲求は持っているため、狩りをできないことはストレスの原因です。
猫のストレス解消法
ここからは、それぞれの原因を意識したストレスの解消法をご紹介します。
方法1:ひとりになれる場所をつくる
猫用ハウスなどを利用して、完全にひとりになれる場所をつくりましょう。飼い主さま自身も猫を長時間かまい過ぎないように意識することが大切です。ただし、猫が求める時には十分にスキンシップを取ることも必要です。その際、猫用のグルーミンググッズを使うと心地よさを得られストレス解消につながります。
方法2:同居猫とは適切な距離を
それぞれの猫のベッド、食器、トイレはできるだけ離すことが大切です。爪とぎも複数設置しましょう。また不妊手術を行っておくと、性的なストレスを回避できます。
方法3:生活環境を激変させない
引っ越しの時は、猫が普段使っているベッドやトイレなど身の回りのものを一緒に持って行きましょう。旅行は、成猫であれば2日程度の留守番は可能です。ホテルよりも自宅で留守番させる方が良いかもしれません。
また猫が顔を家具や壁に擦り付けるのは、顔から出るフェロモンでのマーキングです。黒ずんでしまったりすることもありますが、できるだけそのままにしておくと猫が安心して生活できます。
方法4:キャットタワーなどの利用
キャットタワーや階段を設置し、上下に動ける環境をつくりましょう。飼い主さまとおもちゃで遊ぶ時も上下運動を意識して誘導しましょう。
方法5:他人に慣れる練習
他人に慣れておくと、来客や家族構成の変化に対するストレスに対して耐性を持てます。来客など自宅に他人が来た時に、猫から近寄ったらおやつをあげてもらい、猫にとって他人が怖い存在ではないことを知ってもらいましょう。
方法6:疑似ハンティング体験の提供
狩りは猫にとって大きなストレス解消法です。おもちゃを使って飼い主さまが疑似ハンティング体験を提供しましょう。水が動く自動給水機の導入も、水で疑似ハンティングできるだけでなく飲水量が増えて一石二鳥です。
方法7:「採食エンリッチメント」を取り入れる
「エンリッチメント」とは動物の生活を豊かにする工夫です。もともとは動物園動物に対して導入されましたが飼い猫にも応用されはじめています。
例えば、餌は必ずしも餌皿から食べる必要はありません。フードを猫の目の前でちらつかせて放り投げ、獲物を追いかけて採るという欲求を満たすエンリッチメントは大きなストレス解消になります。
<参考>
その不調はただのストレス?動物病院を受診する目安を解説
猫はストレスで様々な症状を呈します。ストレスによる一過性の症状であれば自然治癒することもありますが、別の病気が潜んでいて悪化する可能性もあります。ここではストレスが原因かもしれない猫の不調と、動物病院を受診すべき目安について解説します。
何日も続く、ひどくなる嘔吐、下痢、便秘
猫はストレスを感じると嘔吐や軟便、下痢になることがあります。吐いてもケロリとしていたり、軟便や下痢をしても、元気や食欲に変化がなければ様子を見ても良いでしょう。
ただし症状が何日も続いたり、徐々に症状が激しくなる、元気や食欲も低下するなどの異常がみられる場合は要注意です。単なるストレスではなく、消化器系などの病気の可能性があるため、動物病院を受診しましょう。
2日以上続く食欲不振
猫はストレスを感じると食欲が落ちます。2日間程度であれば様子を見ても構いません。徐々に食欲が戻るようなら心配ないでしょう。
ただ猫の場合、はじめは単なるストレスでも、食べない状態が2~3日間以上続くと「肝リピドーシス」という命に関わる病気になる可能性があります。少なくても3日以上ほとんど食べない時は動物病院を受診しましょう。
肝リピドーシスは高齢の肥満気味の雌猫で特に発生しやすい傾向があります。該当する猫は2日間絶食した場合、受診する方が安心です。食欲不振だけでなく、ぐったりしている、吐く、下痢をするなどその他の症状がみられる場合はすぐに受診しましょう。
<関連記事>
ストレスに起因する猫の病気
猫はストレスを感じると治療が必要な病気になることもあります。ここでは、ストレスに起因する猫の病気をご紹介します。
特発性膀胱炎(とくはつせいぼうこうえん)
膀胱炎は、本来細菌などが原因でおこる病気です。中でも特発性膀胱炎は細菌や結石など、確たる原因が不明な猫の膀胱炎のことで、猫がストレスを受けると発症することが知られています。
この病気になると、尿が赤くなったり排尿時に鳴いて痛みを訴えるなどの症状がみられます。特発性膀胱炎は、繰り返すことの多い点も特徴です。
<関連記事>
猫伝染性鼻気管炎(猫ウイルス性鼻気管炎)
いわゆる「猫風邪」のひとつで、猫ヘルペスウイルスⅠ型というウイルスが原因です。
症状は鼻水やくしゃみなどの風邪の症状と、目が腫れるなど目にも出ることがあります。このウイルスは一度感染すると猫の体に潜伏し、ストレスなどで猫の免疫が落ちると再発を繰り返します。
猫伝染性腹膜炎(FIP)
猫伝染性腹膜炎の原因は猫伝染性腹膜炎ウイルスというウイルスの感染です。感染しても発症しないこともありますが、ストレスなどで免疫が落ちると発症する可能性があります。
<関連記事>
舐性皮膚炎(しせいひふえん)
皮膚の異常の中には、ストレスと関連のある皮膚疾患もあります。例えば、舐性皮膚炎はストレスなどで同じ場所を執拗に舐め続けることで起こる皮膚炎です。
Q&A
猫がストレスで死んでしまうことはあるのでしょうか?
「ストレス」は病名ではないため、獣医師が直接的な死因としてストレスをあげる可能性は低いです。しかし、ストレスは色々な病気の原因や突然死の引き金となるため、「ストレスによって猫が死ぬ可能性がある。」と答える獣医師もいます。
子猫特有のストレスの原因やストレスサインはありますか?
子猫にとっては身の回りのすべてが未知でストレスを感じやすいです。特有の原因はありませんが、特に引っ越しなど生活環境の変化に起因するストレスは受けやすいでしょう。反対に、他人への恐怖などはまだないことが多いので、他人に慣れさせるのには良いタイミングです。
ストレスサインに特有のものはありませんが、子猫の場合、ちょっとした下痢や食欲不振でも命に関わる場合があります。子猫にこのような症状がみられたら、すぐに動物病院を受診するようにしましょう。
高齢猫に特有のストレスの原因やストレスサインはありますか?
高齢猫特有のストレスの原因としては目や耳などの感覚器官が衰えてくるストレスや、関節などの「痛み」によるもの、飼い主さまと離れることへの不安などが挙げられます。
ストレスサインとしては特有のものがあるというより、痛みや不安で運動量がぐっと減ることが多いです。飼い主さまの姿が見えなくなると鳴く場合もあります。高齢猫には特別なケアが必要なので、猫が高齢になる前にしっかり準備をしましょう。
多頭飼い時は猫のストレスになりやすいのでしょうか?注意すべきポイントなど教えてください。
上でも解説しましたが、多頭飼いは基本的に猫にストレスを与えます。前提として、自宅があまり広さのないワンルームなど、猫同士の空間を分けられないスペースでの多頭飼いはおすすめできません。
解説も参考に、できるだけ猫同士の距離を保ち猫がひとりになれる環境を作るように注意しましょう。
高齢猫を飼っています。先日娘夫婦(息子夫婦)に孫が産まれました。孫を自宅に呼ぶと猫がストレスを感じると思い、自宅に呼んでいません。それでも猫の様子がなんとなくおかしいです。ストレスを感じているのでしょうか。
飼い主さまが、お孫さんの誕生でいつもよりバタバタしていたり、電話の時間が増えたり、猫とのコミュニケーションを取る時間が少なくなっていませんか?
高齢猫は特に飼い主さまへの依存心が強くなる傾向があります。お孫さんを自宅に呼ばないという配慮は大変良いのですが、それでも猫にとっては飼い主さまの様子がいつもと違うことでストレスを感じている可能性は否定できません。
猫にストレスフリーな生活を
猫は繊細な動物です。猫のストレスサインに気づいたら、ストレスの原因を探り、原因に応じた解消法を試すことが必要です。飼い主さまのこまやかな観察と配慮で愛猫により快適な生活をおくってもらいましょう!
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