【獣医師執筆】猫にワクチン接種は必要?接種時期や種類、副作用なども解説

【獣医師執筆】猫にワクチン接種は必要?接種時期や種類、副作用なども解説

2023/1/27

猫をお迎えした際に考えなければならないのが、ワクチン(予防接種)を受けるかどうかですね。そもそも、猫のワクチン接種は必ず必要なのでしょうか?今回は、世界の獣医師が参照している「犬と猫のワクチネーションガイドライン」WSAVA(世界小動物獣医師会)をもとに、ワクチンの種類や、ワクチン接種のタイミングなどをお伝えします。費用や副作用などについても解説しますので、ワクチン接種について考える際に是非参考にしてみてください。

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【執筆医】ttm
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目 次

猫にワクチン接種は必要?そもそもワクチンとは?

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猫にワクチン接種が必要かどうかは、猫本人の健康状態や、飼育環境などにもよるため、一概には言えません。動物病院でワクチン接種を勧められたとしても、飼い主様は躊躇することがありますよね。

はじめに、ワクチンそのものについての解説と、獣医師としての想いをお伝えします。

ワクチン(予防接種)とは?

ワクチンとは、感染症の原因となるウイルスや細菌といった病原体の毒素を無毒化・弱毒化したものです。そのワクチンをあらかじめ体に投与して、感染症に対する免疫をつけるために行う行為がワクチン接種(予防接種)です。

獣医師の想い

獣医師は、ワクチンでその猫を守るだけでなく、地域に感染症を蔓延させないという使命も持っています。猫社会で感染症が流行すると、今まで猫のみでしか感染しなかった病原体が変異し、人やその他の動物に感染する病原体になる可能性もあります。獣医師は、長い目で見た時の「人を含めた社会全体の健康のために」ワクチン接種を勧めることが多いのです。

我が家の猫にワクチンは必要?

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上では社会一般の話として、ワクチンについてお伝えしました。飼い主様にとっては我が家の家族にワクチンが必要であるかどうかが重要でしょう。ここではいくつかのケースについて解説します。

【感染リスク大、ワクチン接種を推奨】

ポイント

子猫をお迎えしたとき

子猫をペットショップやブリーダーさんなどから新しくお迎えした場合、ワクチン接種をお勧めします。子猫は免疫が弱いため、感染症の感染リスクと死亡リスクが高いからです。

高齢猫

おおよそ11才を超える高齢猫は、免疫が落ちて感染リスクが上がるため、ワクチン接種を行う方が安心です。ただし、猫の健康状態によるため獣医師との相談が必要です。

ペットホテルの利用やペット保険を検討するとき

ペットホテルでは、院内感染防止などの理由から、猫を預ける際にワクチンの接種証明書が必要なケースが多いです。またペット保険への加入にワクチン接種証明が必要な場合も。ホテルや保険にもよりますので、検討している施設や保険会社に確認してください。

多頭飼いで外飼いや半外飼いの猫の場合

多頭飼いで、かつ外飼いや自由に外出する半外飼いの猫は、感染症のリスクが高いと言えます。ワクチン接種が推奨されます。

【感染リスク小、ワクチン接種は、飼い主様の判断にお任せ】

ポイント

完全室内飼いの猫の場合

完全室内飼いで、飼い主様が外の猫などと全く触れ合わない場合、感染症のリスクはそれほど高くないでしょう。 ただし、飼い主様が野良猫や友人など他の家の猫に触れる機会がある場合は注意が必要です。

猫の混合ワクチンの種類

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猫の混合ワクチンには3種、4種、5種などがありますね。ここではワクチンの種類や、気になる費用についてお伝えします。

コアワクチンとノンコアワクチンって何?

ワクチンは、冒頭でご紹介した「犬と猫のワクチネーションガイドライン」によって「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」に分けられます。

   

コアワクチン

世界的に致死率が高く、伝染性が高い病気で、すべての猫に接種が推奨されるワクチンです。現在は3種のワクチンがコアワクチンです。

   

ノンコアワクチン

飼育環境など、猫の状況に応じて選択すべきワクチンです。

3種混合ワクチン=コアワクチン

含まれるワクチンは下記の3つのコアワクチンです。

  

・猫汎白血球減少症(猫のパルボウイルス感染症・猫ウイルス性腸炎とも呼ぶ)
・猫ヘルペスウイルスⅠ型(猫伝染性鼻気管炎・猫ウイルス性鼻気管炎・猫ヘルペスウイルス感染症とも呼ぶ)
・猫カリシウイルス感染症(いわゆる猫風邪・猫インフルエンザ)

   

<関連記事>

猫汎白血球減少症(パルボウィルス感染症)

猫風邪(猫カリシウィルス感染症)とは

4種混合ワクチン

コアワクチン3つに加え、ノンコアワクチンである猫白血病ウイルス(FeLV)ワクチンが含まれます。

5種混合ワクチン

4種混合ワクチンに、ノンコアワクチンの猫クラミジア感染症を加えたものが5種混合ワクチンです。

単体ワクチン、猫免疫不全ウイルス感染症(FIV・猫エイズ)

いわゆる猫エイズと呼ばれることの多い、猫免疫不全ウイルス感染症に対するワクチンはノンコアワクチンです。混合ワクチンには含まれず、単体です。

猫エイズの感染経路は主に喧嘩による咬傷などで、現在のワクチンでは、残念ながら完全に感染を防ぐことはできません。予防は、猫を完全に室内飼いにすることです。

保護猫などを家族に迎え、その猫が猫エイズキャリアだった場合、多頭飼いの家庭では他の猫にワクチンをすすめる獣医師もいます。ただし、基本は猫同士が喧嘩にならないような環境作りが大切です。

   

<関連記事>

猫の猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ)とは

ワクチン接種の費用

費用は、動物病院ごとに設定があるため、一概にはお伝えできません。かなり幅がありますが、一般的には下記の幅の中におさまるでしょう。

   
・3種混合ワクチン:3,000~7,000円
・5種混合ワクチン:5,000~10,000円
・猫免疫不全ウイルス感染症ワクチン:4,000~6,000円

   
正確な価格が知りたい場合は、かかりつけの動物病院に問い合わせるのが良いでしょう。

予防できる病気と病気の危険性

Professional vet examining a beautiful long hair cat at the veterinary clinic, pet healthcare concept

ここではワクチン接種によって予防できる病気について、死亡率などの危険性なども交え、解説します。

猫汎白血球減少症(猫のパルボウイルス感染症、猫ウイルス性腸炎)

パルボウイルスというウイルスが原因で、40℃以上の発熱、下痢や嘔吐などの消化器症状を引き起こします。どの年齢の猫でも重症化すると死亡のリスクがありますが、特に子猫の場合死亡率は90%にも達します。妊娠中の猫が感染すると、子猫に先天的な小脳形成不全をおこします。

猫ヘルペスウイルスⅠ型(猫伝染性鼻気管炎、猫ウイルス性鼻気管炎、猫ヘルペスウイルス感染症)

猫ヘルペスウイルスⅠ型が原因で、発熱やくしゃみ、大量の鼻水、角結膜炎などの症状が出ます。子猫や高齢猫では死亡する可能性もある病気です。

このウイルスに一度感染すると、生涯にわたってウイルスを持ち続け、他の猫への感染源になります。

猫カリシウイルス感染症(猫風邪・猫インフルエンザ)

猫カリシウイルスが原因で、風邪のような症状が出ることが多いですが、口内に潰瘍ができたり、結膜炎など目に症状が出ることもあります。成猫では命に関わることは少ないですが、感染した猫の多くがウイルスを持ち続け、他の猫への感染源となります。

猫クラミジア感染症(ノンコアワクチン)

猫クラミジアという細菌が原因で、結膜炎が特徴で、眼球のまわりも腫れます。軽度ですが、くしゃみや鼻水など風邪のような症状も出ます。

猫白血球ウイルス感染症(FeLV)(ノンコアワクチン)

猫白血球ウイルス(Leline Leukemia Virus:FeLV)が原因で、感染するとウィルスは生涯猫の体内に潜伏し、リンパ腫や白血病など命に関わる症状に発展することもあります。腎臓の病気や貧血、他の感染症の原因になることもあります。流産・死産の原因のひとつでもあります。

猫免疫不全不全ウイルス感染症(FIV・猫エイズ)(ノンコアワクチン)

FIV(Feline Immunodeficiency Virus)というウイルスが原因で、一度感染すると、生涯ウイルスを持ち続け他の猫の感染源となります。発症すると死に至る感染症です。

   

<参考>

獣医内科学第2版(文永堂出版)

ワクチンは「何を」「いつ」打つべき?毎年必要?

両手で優しく持たれている無垢な子猫

猫のワクチンは、どの時期にどのワクチンを打つべきでしょうか。ここでは、必要なワクチンの種類と接種の時期などについて解説します。

3種混合ワクチンが基本

室内飼いで一頭飼いの場合、ほとんどの動物病院では、3種混合ワクチンを勧めることが多いです。

多頭飼い・外飼い・半外飼いなど、飼育環境によって5種混合ワクチンが推奨される場合もあります。

接種時期や間隔は、WSAVAのガイドラインに沿う

ワクチン接種の時期や間隔に関しては、ほとんどの動物病院が「犬と猫のワクチネーションガイドライン」に沿って決めています。

子猫の場合

子猫は生後数週間、母猫からの移行抗体という免疫で守られます。この時期にワクチンを打ってもうまく機能しませんので、「犬と猫のワクチネーションガイドライン」では、移行抗体が減弱する生後6~8週齢頃に1回目、その後、生後16週齢までに3~4週ごとの追加接種(ブースター)を推奨しています。
ただ多くの動物病院では8週齢くらいに1回目、12週齢くらいに2回目を推奨しているでしょう。

成猫の場合(子猫の時期に接種済み)

子猫の時期にワクチンを接種している成猫に関しては、「犬と猫のワクチネーションガイドライン」で下記のように推奨されています。

   

低リスク環境(完全室内飼い・ペットホテルを利用しないなど)
コアワクチンに関して3年以上の間隔での追加接種を推奨

   

高リスク環境(ペットホテルの利用が頻繁・多頭飼い・外飼いまたは半外飼いなど)
1年ごとのコアワクチンの追加接種を推奨


成猫のワクチン間隔に関しては、このガイドラインを元に、獣医師が猫の飼育環境や周辺地域の感染症の流行の程度などを鑑みて決定します。

保護猫などで、大人になって初めてワクチンを打つ猫

その時点ですぐにワクチンを接種し、3~4週間後に2回目の追加接種を行います。

それ以降のプログラムは、上でお伝えした成猫と同じです。

高齢猫や持病のある猫の場合

猫の状態によりますので、かかりつけの獣医師と相談するのが良いでしょう。飼い主様が独自に、高齢で外にも出ないからワクチン接種をやめる、というような判断を行うのは避けましょう。

ワクチンの副作用、打った後の注意事項

A small kitten in a basket with a sweater and a tangle of threads, on a wooden table, space for text

猫のワクチンの副作用にはどのようなことが考えられるのか、ワクチン接種後の注意事項などについてお伝えします。

   

・注射部位の腫れや痛み
ワクチン接種後、注射部位が腫れたり痛むことがあります。多くの場合一過性で自然に治ります。

   

・アレルギー反応
ワクチン接種において最も多い副作用は、アレルギー反応です。顔が腫れる・下痢や吐くなどの消化器症状・発熱・かゆみなどのアレルギー症状が出ることがあります。

これらは一般的に数日で自然に治りますが、ごく稀に、接種直後にアナフィラキシー反応という命に関わる反応が出る場合もあります。アナフィラキシー反応への迅速な対応のため、動物病院ではワクチン接種後に病院内で猫の様子をみることを飼い主様に促しています。

   

・ワクチン接種肉腫
猫の場合、ワクチンを接種した部位に肉腫というがんの一種ができることが知られています。発生率は10万分の1~100万分の1と大変低いですが、万一の場合を想定し、獣医師は注射部位についても検討しています。

ワクチン接種後の注意点

ワクチン接種後、動物病院では待合室などで20分~30分程度様子をみることを勧められます。上でお伝えしたアナフィラキシー反応への対応のためにも様子をみる時間はしっかり取りましょう。またワクチン接種後数日間は、激しい運動はできるだけ避け、シャンプーも避けましょう。

Q&A

日本では、犬の狂犬病以外のワクチンは義務化されていませんので、必ず接種させなければいけないものではありません。打たない場合、感染症へのリスクが上がるだけだと言えます。ただし、ペットホテルや保険が使えないことはあります。
またワクチンは上でもお伝えしたように、その猫のためだけでなく、社会全体に必要だという考えがあることも理解したうえで検討してください。

猫の場合、3種混合ワクチンの中で猫汎白血球減少症のみに関して抗体検査が有用です。
一方で、猫ヘルペスウイルスⅠ型感染症や、猫カリシウイルス感染症に関しては抗体検査では判断できません。有用かどうかは状態にもよりますので、獣医師と相談しましょう。

「犬と猫のワクチネーションガイドライン」では感染に対するリスクを

・高リスク:定期的にペットホテルを利用する・多頭飼育で室外飼いまたは半室外飼い
・低リスク:完全室内飼いの一頭飼い


と分類しています。一般の動物病院では、完全室内飼いの一頭飼い以外のケースは、比較的リスクが高いと判断することが多いでしょう。

気づいた時点でワクチンを接種し、3~4週間後に2回目の追加接種を行います。それ以降のプログラムは、上でお伝えした成猫のワクチンプログラムと同じ考え方です。

どちらが良いかは、飼育環境や猫の状態によって異なります。かかりつけの獣医師に相談してみてください。

必ずしも同じタイミングで接種する必要はありません。通院の手間などを考慮したうえで、獣医師とも相談しながら接種のタイミングを決めればよいでしょう。

多くの動物病院では、混合ワクチンと猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ)ワクチンの同時接種は推奨していません。猫免疫不全ウイルス感染症ワクチンは、接種そのものも獣医師とよく相談する必要があります。

猫白血病ウイルス感染症に関しては「犬と猫のワクチネーションガイドライン」で「陰性の猫にのみ接種すべき」とされています。
4種または5種混合ワクチンを接種する場合、事前の血液検査により感染の有無を確認する必要があります。3種混合ワクチンに関しては必ずしも事前の血液検査は必要ありません。猫の健康状態などによって獣医師が判断します。

保険会社によりますが、多くのペット保険会社では、ワクチンで予防できる病気は補償の対象外とされていることが多いです。

猫のワクチン接種は、獣医師と相談しよう

Pretty young veterinarian examining cat in clinic

今回は、世界的なガイドラインである「犬と猫のワクチネーションガイドライン」を元に、ワクチン接種について解説しました。それぞれの猫にどのようなワクチンが必要か、どのような間隔での接種が必要なのかは、その地域の猫の診療をしている獣医師が一番よく知っています。お住まいの地域の獣医師とよく相談することが大切。動物病院と上手に連携し、家族の猫や周囲の猫の健康を守りましょう。

獣医師
【執筆医】ttm

動物園獣医師としての経験を活かし、様々な種のペットの健康や生活のための情報発信を心がけています。 これまでにポメラニアン、ヨーキー2頭、ハムスター、リスと飼育数も多く、現在はカメと暮らすなど動物大好きです。

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